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エクステンデッド・ドリーム 《-Ⅲ- Loading Nightmare》  作者: 華野宮緋来
《LN編》第二章「体育祭&トーナメント」
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《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》⑥ ”トーナメント開催”

簡単なあらすじ。

体育祭終了。湊は茜に対して挙動不審な態度を取ってしまう。そして数時間後、E・Dへ。トーナメントが遂に始まる。

《E・D内/鈴夜 湊=クリム:視点》

 何を意識しているんだ、俺は。

 流石に気持ち悪いよな。


「……」


 マイルームの質素なベッドの上で、俺は深い自己嫌悪に苛まれていた。彼女がそれまでの言動を気にも留めていない、というのが余計に胸を苦しくさせる。自分の立場が鋭いナイフで線引きされているのを感じた。

 体育祭の短距離で全力を尽くした。だが、最下位だった。

 ペットボトルが入れ替わった際にはかつてない程に動悸が激しくなった。だが、まともな対応は出来ず、哀れな道化を演じただけだった。


「惨めだな」


 はは、と笑い声が漏れる。

 他人に対してここまで感情を寄せるのは久しぶりだった。二年以上は心が渇いていた筈なのだ。それを潤わす位に、三原茜の存在が自分の中で大きくなっていた。


「でも、彼女は俺にだけ優しい訳じゃない。……俺は彼女にとっての“特別”なんかじゃない」


 相手を“特別”扱いしていても、自分に同じ評価が返されるとは限らない。

 三原茜は誰にでも心を込めて接する。俺の目が届かない場所でも、きっとあの暖かな微笑みを誰かに向けるだろう。間近で何度も見ているから分かる。そして、部活の繋がりだけが目撃する機会を多くしている要因なのだと重々に悟っていた。


「部活が無ければ、今も……名前すら忘れてただろうな」


 危うく彼女との距離感に錯覚してしまう所だった。俺は副部長で、三原茜は設立者兼部長だ。関わりがあるのは当然だが、男女としての意味合いは何もない。


「……もしかして、あの図書委員は」


 そこで気付いた。三原茜の友人である少女が、「茜が告白された」という事実を打ち明けた理由を。

 ――普段の様子から、俺と三原さんの間柄を勘違いしているのではないだろうか。


「だったら、これ以上はマズイな」


 「告白」の話は彼女の私生活に大きく踏み込んでいる。本来なら俺が知るべき情報ではなかった。プライバシーの侵害となる。

 本を借りている最中だ。そう遠くない内にまた会うだろう。その時に注意しておけば良い。俺は三原茜の知人に過ぎない、と。

 悩み抜いた末の結論を、胸にしっかりと留める。

 上半身をゆっくりと起こした。簡素な室内が視界に入る。殺風景な眺めが意識を良い意味でも悪い意味でも洗い流してくれる。

 続けて、両足も床上に降ろした。ウインドウを呼び出し、トーナメントの会場へ向かう準備をする。

 扉の先に続く行き先を設定する。E・Dにおける出御高校がある場所だ。かつての悪夢事件以来の訪問になる。

 ひとまずは目の前の用事に注意を向けよう。

 自身の問題をこれ以上考えても意味は無い。俺は開いた扉の外へと、ゆっくり足を踏み出していった。




 移動した土地で真っ先に見かけたのは、賑やかに行き交う数々のアバターだった。大半はトーナメントの観客だろうか。彼等の活気は日中の体育祭と比べて強くなっている。単なるスポーツより分かりやすい《闘い》の方が興味を引きやすいのだろう。イベントとしては破格の人気が得られていた。


「……受付はこっちか」


 人の流れに沿って、ユリア達の担当場所へ向かう。進むにつれて人が減っていった。最終的には二、三人だけが受付を目指していた。


「あ、やっと来た。おーい、こっち!」


 『受付』と書かれた看板の傍で金髪の少女が俺を呼んだ。ユリアだ。その隣には小柄な猫妖精――シャロも居た。


「何か遅かったね」


 悩んでいたせいで遅くなった、と口にする訳にはいかなかった。理由を問われる恐れがあるからだ。原因そのものである彼女に尋ねられたら、隠しきれる自信が無い。


「はい、これパンフレット。控室はあっちだから」


 幸いにも追及はされなかった。カウンターの向こうから薄い冊子が押し付けられる。次に行くべき場所を教えてもらった。


「頑張ってね、クリム」


 仮想の物とは思えない微笑みをユリアが浮かべる。


「頑張って、ください……」


 シャロも同じ様に言葉を送ってくれる。


「……ああ」


 簡単に応じて、俺は示された方角へと進んだ。

 ――控室、と言ってもそこは体育館の一角に設けられたスペースだった。参加者は開けた空間で思い思いに散らばっている。俺は壁際に寄って彼等を観察していた。様々な種類の使用者が集まっていた。

 武具、魔法、妖精、魔獣。

 その中でも武具と妖精のアバターが特に多かった。魔法・魔獣使用者は近距離での戦闘が不得手の傾向にある。一対一を強要されるだろうトーナメントでは十分な力を発揮し難いのだ。あまり見かけないのも頷けた。

 参加者達を漠然と眺めていた途中、俺は不意にある言葉を思い出す。


『俺もトーナメントに参加する』


 生徒会の書記である三年生が呟いていたのだ。生徒会長がこの催しで自ら舞台へ上がる事を。不満を伴って吐き出されていたので、強く印象に残っていた。

 …………居るのだろうか、この中に。

 生徒会長のアバターが。

 どれが――――って。


「何で気にする?」


 視線が鋭くなっていくのを感じた。殆ど無意識だった。目頭を押さえて、冷静になれと自分へ言い聞かせる。

 リアルを追及するのは忌避される行為である。親しい相手でもなければ、絶対にやってはならない。どうせ、現実において彼の顔も覚えてないのだ。


「俺は関係ないんだ。余計な事は考えるな……っ」


 ここまで悩みを引っ張るのは予想外だった。自分でも本当に意外だと言うしかない。

 生徒会長の存在に執着しては駄目だ。今はトーナメントに集中したい。優勝を心の底から狙ってはいないが、出場する以上は善戦をしたかった。せめて商品が出る順位には残ろう。

 そんな切り替えを手助けする様に、近くの壁面が突然に色を変えた。


「?」


 何かがそこに映し出されていた。傍に寄っていた参加者達から段々とざわめきが広がっていく。


「あれは……対戦表か?」


 向かい合った数十個の四角い枠が並んでおり、その上辺から伸びる線が直角に繋ぎ合っている。最終地点である中心では、優勝という二文字が輝いていた。ユリアから渡されたパンフレットにも、確か同じ図が載っていた筈だ。

 まだ名前が入っていない。そう訝しんだ直後、それぞれの四角にアバター名が一斉に浮かび上がっていった。視線を集めていた出場者達が驚きで声を漏らす。

 ……「クリームパン」を探さなきゃいけないのか。

 はっきり言って、嫌だ。

 探そうという主張と、恥ずかしいという感情がお互いにせめぎ合う。対立は長く続かなかった。今の名前が早く見つかったのだ。左側のブロックにおける、上から七番目の枠にクリームパンは収まっていた。


「第八試合…………相手は――グレーク」


 敵となるアバターの情報を僅かだが得た。胸の奥が熱を帯びる。戦意が向上してきたのだろう。


『皆様! 大変長らくお待たせしました!』


 スクリーンの表示に続き、大音量のアナウンスが室内を満たした。


『現時点を持って対戦の組み合わせが正式に終了しました! 参加者は計三十二名! シードなしの十六

試合が行われます!』


 ちりちり、と肌が焼ける。

 仮想の肉体なので疑う間もなく錯覚だと分かる。実際に感じていたのは雰囲気の変遷だった。周りのアバター達が鋭い気概を持ち始めたのだろう。それに感化された。


『……二十三時から開会式を行う予定です。その後、第一・第二試合の出場者は校庭のリングへと集まって下さい。パンフレットに書いてある通り、参加者は直前の試合までには準備を終えていなければなりません』


 アナウンサーの声音が少しだけ落ち着いた。しかし、控室で発生した全員の気力は逆に研ぎ澄まされていく。


『――えーと、二十三時になりました。不肖ながら、私がこのまま簡単な開会宣言をさせていただきます』


 責任者がやるべきなのだろうが、所詮は生徒主催の行事だ。長い挨拶で時間をかけても誰も喜びはしない。きっと観客はスキル・アビリティ・魔法が交差する俺達の戦いを待ち望んでいる。



『ただいまより、生徒会主催、第一回出御高校バトルトーナメントを開催します!! 選手の皆さん! どうか優勝を目指して全力で頑張って下さい!』



 こうして、体育祭直後のトーナメントが開かれた。商品の説明等も欲しかったが、大体はパンフレットに記載されていた。どうやらベスト4までに残れば貰えるそうだ。優勝者には学食専用割引券二千円分、準優勝者には同じ物が千円分、以下ベスト4の二名には五百円分の券が渡されるらしい。

 これが……豪華賞品か?

 少し期待外れだな。まあ、出るだけでも十分にありがたいか。俺個人としてはそこまで欲しいとは思わないが。昼はいつも弁当だから。




 控室でもトーナメントの様子は中継された。俺の出番はすぐに回って来るので、そこで観戦をさせてもらった。

 ――第一試合。

 短剣を装備した男型アバターと長く黒いコートを羽織った女形アバターが向かい合った。初見では前者の武具使用者が有利かと思われた。だが、意外にも勝者は魔法使用者の少女だった。勝因は近距離戦に適応した魔法の使い方にある。射程距離が短い魔法を動きながら放ち、武具使用者を圧倒したのだ。

 ――第二試合。

 男型の犬妖精クー・シー巨人トロールが対戦した。序盤は犬妖精が戦況を有利に進めていた。素早い動きで巨人を翻弄し、隙を見つける事に打撃を与えていったのだ。しかし、終盤のとある場面で犬妖精の身体が掴まれた。そのまま巨人に投げ飛ばされ、リングの境界線を越えてしまう。ルールに従い、彼は場外負けと判定された。

 ――第三試合。

 男型の武具使用者と魔法使用者が接戦を繰り広げた。前者は槍を主要武具とし、後者は雷属性の魔法を攻撃の要としていた。スキルと魔法では発動時間に大きな差がある。武器特有の技能で先手を取ったアバターが流れに乗って勝利を勝ち取った。雷属性の魔法も中々に強力だったが、突進の効果を含むスキルによる動きを止めきれなかった。結果、槍使いの見事な一撃で貫かれたのだ。

 これで俺が次の試合に勝てば、彼と戦う事になる。注意しておこう。

 ――そして、第四試合。

 俺はリングの上で対戦相手と対峙していた。正面に居るのは男型アバターだった。氷塊を連想させる両肩の装飾品、全身を覆っている青く寒々しいオーラ。間違いない、彼は氷妖精フロストだ。

 アイラの火妖精ランタンとは対を為す種族。その最たる特徴は、氷属性のスキルを得意とする点にある。


「しっかし、お前、妙な名前だよなぁ」


 俺を前にして、グレークという名のアバターは呟いた。完全同意である。否定出来る要素すら見当たらない。


「おい、何か喋れよ! つまんねえ奴だな!」


 ああ、答えてやれば良かったのか。

 悪いことをしたな。


「…………」


 以上の反省を胸中で済ませたのが失敗だった。グレークが顔を歪めて「ちっ」と舌打ちした。俺の印象が連鎖的に悪化している。


「俺をなめてやがんな? せっかく手加減しようと思ったが……ヤメだ。全力でぶっ飛ばしてやる!」


 彼の断言と同時に、決闘のカウントダウンが始まる。


『3』

 ――数字が視界の中心に躍り出た。


『2』

 カウントが進む。俺は足幅を軽く広げた。反対に、目の前の相手は両手を緩やかに持ち上げていた。


『1』

 右腕を簡単に伸ばし、柄が収まる程に掌を丸める。息も小さく吸っていた。開始直後に口を動かす為だ。


『START!』


 爆発を模倣した効果が感覚を刺激する。戦いが始まった。俺は様子見を捨て、すぐに唇を瞬かせる。


召喚コール


 白銀の大剣が瞬時に形を露わにした。刀身に俺の顔が一瞬だけ映る。様変わりした形相が俺に注意を促しているみたいだった。


「いっけぇ!」


 グレークも素早く動いた。発光する左の手を俺に向け、そこから氷の弾丸を飛ばしてくる。グランツが披露した《アイス・アロー》に良く似ている。違いと言えば、迫って来ているのが短い氷片であり、一度に四、五個の発射である点だった。

 ダン、と地面を蹴る。斜め前へと身を移して避けた。空振りした氷の刃がリングへと突き刺さる。


「もういっちょ!」


 氷妖精が空いていた右手で俺を狙う。先と同じスキルだ。五個の氷が飛んで来た。


「ふっ」


 大剣を真横に振るい、俺に当たりそうだった物だけを砕く。破壊音が三つ響いた。それを目の当たりにしたグレークの顔は驚きに染まる。

 ――今なら、踏み込める。

 スキルの連続発動により、彼の身体は硬直していたのだ。両腕を直角に交差させているので、反撃自体も難しいだろう。

 俺は大剣を手にしたまま突進した。肩を突き出し、相手の半身へとぶつけてやった。強い衝撃。凍える空気ごと、彼は押し飛ばされる。


「う、おおお……っと!」

 グレークはよろよろと足をもたつかせたが、床に倒れはしなかった。


「あっぶね!」


 損傷率に影響した手応えを感じた。だが、威力が弱すぎたのだ。こぼれた声音からダメージの余韻を全く読み取れない。

 突撃した分、俺とグレークの距離は開いていた。そんな間合いを彼は更に広げようとする。大剣を恐れたのか、得意な間合いを維持しようとしているのか。


「させるか」


 身を低くして、直進する。速度は直前の体当たりよりも上げている。グレークまでの空間を一気に詰めた。


「……げ……っ!?」


 二度目の驚愕を耳で聞き捉えた。続いて、俺は大剣の切っ先で上半身を切り裂く。バキャ、と半透明な細々とした破片が飛び散った。氷妖精である為に、その肉体も氷で出来ているのだ。傷口から待ったのは氷の欠片だろう。

 ――浅い!

 普段の攻撃だったなら、一刀両断によって既に決着が付いている。しかし、実際に斬ったのはアバターの表面だけだった。これでは損傷率もあまり増えていないだろう。

 ……くそ!

 顔をしかめる俺の心境とは裏腹に、周囲では観客による熱狂が激しくなっていた。俺と彼の試合に興奮しているらしい。

 やりづらいぞ。

 接戦に持ち込むのは……!

 要約だけを言えば、俺はグレークに対して手加減をしていた。良い言葉で飾るなら、相手と一進一退の戦いをしている事になる。


「こいつを使うか、ちくしょう! 《アイス・エレメント――ストーム》!」


 火と氷の名を冠する妖精は、それらの属性魔法を操る《スキル》を持っている。初手で用いていた氷の弾丸が分かりやすい例だ。純粋な魔法よりも発動時間は短いのだが、代わりに様々な制限がかかっている。

 雪と氷の粒が、目の前の身体から噴出された。強風も吹き荒れる。極寒の息吹はグレー区を中心に捻じれ、凍てつく嵐と化していった。

 損傷率や状態に変化はない。

 単なる地形干渉だろうか。それにしては直前の発言が気になる。これの発動に勿体ぶっていた。秘策が何処かに隠れているかもしれない。

 そう推測した、矢先。


「召喚!」


 グレークの掌に武器が呼び出された。細い片手剣だ。日本刀やレイピアの中間を意識させる。どちらでもない、中途半端な形状に思えた。

 しかし、予想はすぐに裏切られる。


「キタ、キタ、キタァー!」


 出現した剣の輪郭が青い氷に纏われる。刀身は増大し、役二倍の大きさとなった。


「はぁ!」


 ビュン、と放たれる突き。

 相手の外側に身を滑らせて俺は回避した。ついでに大剣を跳ね上げ、氷の剣を砕くつもりで弾いた。派手な音を立てながら、白銀の刃が鋭い氷塊を欠けさせる。


「無駄無駄っ!」


 軽快な叫びと共に、壊れた部分を氷が埋めていく。また、本人に付けた筈の浅い傷も治っていた。損傷率も回復していると考えていいだろう。


「さっきのストームか」


 俺は大剣を構え直しながら呟いた。

 激しい吹雪の渦は未だに俺達を包んでいる。これが原因に違いない。絶えず肌を叩きつける氷と雪が欠損や傷口を埋めたのだ。


「どりゃあぁぁ!」


 再生した剣が斜め上から迫る。幾ら壊れても元通りになる武器を手にしたのだ。遠慮なく切り結べる、という自信が技の冴えから読み取れた。

 ――どうする?

 受けるか、避けるか、カウンターを狙うか。

 複数の選択を脳裏に抱え、俺は閃く半透明な青い刃を凝視した――。


遅くなってしまいました。申し訳ありません。

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