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《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》④ ”決着2”

クリムvsシャロです。接近戦メインです。


「「召喚コール!」」


 二人同時に武器を呼び出す。

 まずは俺の大剣が姿を現した。続いて、シャロの両手に光が灯る。左右の手から粒子が伸びていく。短い。だが、二刀ある。

 全容を晒す寸前――シャロは一気に走り出していた。両腕を前方で交差させている。手の先で完成した武器が風を裂いた。

 見た目は普通の銀色をした短剣だった。直線的な刀身をしており、鍔に当たる部分がシャロの拳を守っている。特殊な装飾や光沢は発見出来ない。結論だけ言えば、何処にでも有り触れている代物である。


「し……っ!」


 短い発声と共にシャロは近づいて来る。

俺も迎撃の為に大剣を後方に引いた。相手は動きを修正しない。距離を見計らい、大剣を片腕で押し出す。

 切っ先がシャロの髪を切った。彼女は寸での所で身を寄せて躱していた。俺から見て左側へと傾いている。姿勢も崩れていた。

 攻撃は終わらせない。俺は空けていたもう片方の掌を柄に添える。


「えい!」


 猫妖精のアバターが先を越した。膝を曲げながら片足を持ち上げ、彼女は足裏を大剣へと叩き付ける。

 反動が小柄な身体を動かす。シャロは真横へと飛んでいった。


「流石、猫妖精……!」


 関節が柔らかくなければ不可能な芸当だ。これこそが動物を模した妖精の特徴なのかもしれない。

 地面に落下するだろう相手を目で追う。間合いを離すか、より詰めるか。どちらにせよ硬直する時間がある。そこを狙う。


「《――――――》!」


 耳が何らかの呟きを捉えた。一方で、自分の視野がシャロを逃がしてしまう。床に足を着けた瞬間に高速で移動していた。

 予兆が全く分からなかった――これは、スキルだ。


「……取った……っ」


 加速を発生させる系統の技術が、シャロを俺の背後に移している。背中を取られてしまった。言わずもがな、がら空きである。

 すかさず前足を深く踏み出し、武器ごと振り返る。顔面と並行に立てていた大剣で、降ってくるシャロの短剣を防いだ。ガキン、と火花が散った。

 まだだ。二本目が残っている。

 俺は反撃よりも後退を優先した。地面を蹴って、シャロから離れていく。


「失敗、しちゃった」


 手の甲でシャロが自分の口を塞ぐ。眉間にも軽く皺が刻まれている。先程の呟きは無意識にこぼれていたのだろう。確かに自重すべき失敗だ。

 それにしても、今の動きは――。


「成る程、な」


 考え方がまだ甘かった。グランツを原因とする突発的な対戦だと思っていたが、シャロは違ったのだ。前々から俺への対抗策を練っていたらしい。

 先の動きが証拠だ。粗は見られたが、確固たる狙いが読み取れる。

 ……何が『早く終わってしまう』だ。思いっきり短期決戦を考えているじゃないか。全く……。


「――――面白いな。さあ、もう一度かかってこい」


 大剣を構え、シャロとの激突を促す。自分でも意外な位に、口元は綻んでいた。


「…………はい!」


 程良く響く返事だった。

それから、少女は再び腕を交差させ、身を低くした。

 床を蹴って走り出す。真っ直ぐ向かって来ない。徐々に近づきながら、その足跡は円を描いている。

 下手に反応しても、懐に飛び込まれる危険があった。大剣を構えて静かに襲撃を待つ。向きは変えない。目が届かない背面は音響探知で監視出来た。問題は無い。

 シャロは未だに俺の間合いに踏み込まず、三周目まで拮抗した状態は維持された。

 くるり、と銀色の短剣が一本だけ掌の上で回った。順手から逆手に武器を持ち、そこから彼女は急激に突撃して来る。

 ――疾走スラスト系の加速か? 

 二時の方向、対処は可能だ。


「あ……ぁあっ!」


 裏返りそうな叫びと同時に、シャロは鋭い先端を真横に凪いだ。初めは逆手に握られた切っ先が迫る。

 銀と白銀の刃がぶつかり合う。ガキン、と短剣が弾き飛ばされる。質量の違いだ。そのサイズで大剣を動かせる筈がなかった。

 ……ならば、今のはフェイクか。

 流れる様に奥から二本目が突き出される。本命はこちららしい。俺の首筋を目掛けて一直線に伸びた。

 身体を捻って避ける。この時点でお互いが至近距離に居る。俺の武器も届くのだ。


「――《ジア・スラスト》!」


 大剣の僅かな動きを汲み取ったか。シャロは再度スキルを発動させて俺から距離を取った。斜め後方へと避難している。

 やはり《スラスト》系か。無冠の次に相当する初級の上位スキル。発生するのは直線上への加速だ。

 シャロが飛んだ方角に正面を合わせ、俺は又もや大剣を中段に構えた。対する側も引き続き円周をなぞる。

 しかし、今度は攻撃への切り替えが早かった。半円に達した時点、すなわち俺の背後にて襲い掛かる。接近する速度までも向上していた。先のスキルを、移動の補助という本来の使い方で利用したのだろう。


「ふっ!」


 大剣を横から百八十度回転させる。だが、白銀の刃は空を切った。すぐそこまで寄っていた相手が見えなくなっている。


「下か――――」

「てぇい!」


 大剣の真下から潜めていた身を乗り出し、急所である心臓の位置を狙う。

 まずい! 

 俺は咄嗟に柄から外していた手を閃かせた。迫るシャロの手を、短剣ごと跳ね飛ばす。

 次いで、残りの手も大剣から離す。「え?」と間の抜けた声が聞こえた。間髪入れずに《ジア・スラスト》の叫びも響く。


「…………な、ななな……! お、落とすなんてぇ……!?」


 両足で体勢を整えながら、シャロは間合いの外で動揺を露わにしていた。今の返しは予想していなかったらしい。まあ、俺でもされたら驚くだろう。

 反射神経が良いな。機転も充分に利く。だが、気概が不安定だ。俺が武器を持たずに下がっていると言うのに、まだその場で立ち止まっている。


「離れていいのか?」

「え? あ!」


 後輩はようやく気付いた。猫耳を垂直に立てて、前屈みになる。


「召喚」


 間に合わせない。俺は大剣を呼び戻して手に取った。追撃をみすみす手放したシャロは苦い顔を浮かべている。


「油断はするな――まだ」

「え……えっ!」


 いつまでも防御に徹してはいない。こちらからだって攻撃を仕掛ける。地面を強く蹴り飛ばし、大剣を持ったまま接近した。

 斜め上から振り下ろす。白銀の軌跡がシャロの影を斬った。彼女は横に飛び退けて避けていた。

 後を追う。腕を更に振るい、身体ごと回転して軌道を曲げた。上から降った刃が横へと逸れる。その勢いを利用して、片足を軸に素早く旋回した。咄嗟に飛んだ為に宙に浮いているアバターを、俺の大剣が襲う。


「ジ、《ジア・スラスト》!」


 両目を大きく見開きながら、シャロは更に真後ろへ距離を取った。

 武器が空振りする。風圧が身体の外側で空気を叩いた。これ以上は追わない。次はシャロからの攻撃を待つ。


「…………やっぱり、強すぎますよ……」


 小さな呟きが聞こえてしまった。

 まさか、今の攻防で気力が削がれたのだろうか。個人的にはもう少しだけ戦いを続けていたい。シャロの意欲に期待を寄せる。


「…………」


 無言を徹底しながら、彼女は短剣を構え直した。

 そうだ。それでこそ、だ。

 心の声に答えてくれた彼女に敬意を表した。大剣を浅い角度で立て、切っ先を突き付けて応じた。


「シャロちゃーん! 頑張れー!」


 外野からユリアの声が聞こえた。後輩を一方的に応援している。


「クリムー! 頑張ってー!」


 ……おい……!

 気持ち悪い裏声が耳を汚した。間違いなくグランツだ。どうして俺の方に肩入れしているのだろうか。しかも、女性の高音を形だけ真似している。見せかけの雑音によって神経が逆なでされていった。

 これは、逆に妨害しているのか? 精神的にダメージが来るぞ……。


「クリムを応援するんですか? 私から見たら接戦に見えるんですけど。シャロちゃんが勝つかもしれませよ」

「これでクリムが負けたら……ほら、俺も必然的に格が落ちると言うか……」

「ああ…………」


 浅ましい。何て浅ましい。

 大剣を放り出して、今すぐに「止めろ」と叫びたかった。しかし、そこまでの余裕は目の前の相手が与えてくれない。


「クリム、さん」


 応援が届いたのか、猫妖精は眼光を鋭くする。

 その全身が一段と沈んだ。次の瞬間には前へと駆け出す。


「――いきます! 《ジア・スラスト》!」


 加速が彼女の身体を押す。今まで最高の速度を伴っていた。静かに地面を蹴りつつ、かつてない猛攻の意志を俺に見せている。

 受け切ってみせよう。

 肉体と共に、短剣が俺の間合いに入った。まずは一本目が喉を狙う。

足を滑らせて切っ先の線路から避けた。相手の外側、すなわち二本目から離れた側面に身を寄せている。


「――シッ」


 一本目の突きが途中で止まった。シャロが膝を深く曲げてブレーキをかけたのだ。そこから手首を捻って、横へと振るって大剣を切りつける。

 キィン、と武器同士が音を鳴らす。


「うわああああ!」


 すかさず二本目が迫って来た。大剣を僅かに動かして受ける。斜め下からの切り上げは軌道を逸れていった。


「まだまだっ」


 シャロが初めに防がれた短剣を閃かせる。腕を大きく振り回していたが、俺の武器を弾き飛ばせる程の威力は出なかった。続いてもう片方を垂直に跳ね上げる。これも一歩だけ身を引いて避けた。その後も、五回目、六回目と短い刃は宙を裂いていく。


「……」


 今のも喉を斬ろうとしていた。

 急所だけをずっと狙うつもりか? 

 本来なら、接近戦は小回りが利くシャロの方が優位だ。だが、動きが単調過ぎる。これでは次の一撃が予測出来てしまう。

 ――思った傍から!


「てえええい!」


 二本同時の斬撃が喉元を目掛けて走る。読めていたので、防御が易々と間に合った。大剣を勢い良く振り上げてシャロの腕ごと弾く。

 その時、視界の外へと二つの影が飛んでいった。銀色の短剣だ。今の衝撃で掌から抜けてしまったのだろう。


「――――っ!」


 小さな顔が硬直した。頼みの武器を再び手にする為には、「召喚」と言わなければならない。その隙を、俺が逃す訳がないと知っていたのだ。

 左肩の上へと大剣を運ぶ。俺の構えに勘付いたシャロも咄嗟に深くしゃがんだ。

 無駄だ。もう遅い。

 姿ははっきりと捉えている。地面の上で蹲る彼女を目掛け、俺は全力で柄を握った腕を振るい始めた。


「召喚!」


 悲鳴に近い叫び。

 足元を照らす光。

 大剣に両断される筈だったシャロの身体が、大剣よりも速く垂直に昇った。俺の頭上にまで達する。


「……な……」


 突然の事態に動揺を覚える。必殺だと思った大剣を避けられたせいではない。シャロが取った動作がすぐに思い当たった事が原因だった。

 ――今のは、俺の……!? 

 武器の具現化を利用した跳躍。根元から先端への実体化をバネ代わりとして、スキルに頼らず加速を生み出す方法だ。恐らく先程のシャロは床上に手を当て、出現した柄を足で踏み抜いたのだろう。

 数週間前の消滅能力を持った悪夢戦で俺はその技術を披露していた。けれども、それ以降は一切使用していない。当然、教えた記憶も無かった。


「まさか……!」


 あの戦いの中で仕組みを見抜き、短剣で練習したって言うのか? 


「《ジア・スラスト》!!」


 身動きできない空中で、シャロがスキルを発動させた。

 もう一本の短剣を逆手に構え、上空から襲い来る。俺の大剣は逆に誰もいない低空を鋭く狩っていた。こいつでの防御は流石に間に合わない。

 ――喉を狙い続けて俺の注意を引き付けさせた。武器を手放したのも、再度の召喚で踏み台にする為だな。もしかしたら、《ジア・スラスト》も初めから空中での加速に使うつもりだったのか。

 ……ここまでやるとは、思いもしなかった。

 完全に虚を突かれた。


「当、た、れえええ!」


 シャロの声が上から降り注ぐ。

 数えられる秒も残ってない。すぐに短剣が俺の身体に突き立てられるだろう。そんな最中でありながら、俺は微笑を超えて確かに笑みを浮かべた。

 低位置にあった大剣を、勢いは殺さぬまま、角度を上げながら振るう。両足に乗せていた体重を緩める、イメージを取った。実際に踵が上がる。


 たったそれだけで、俺の場所は数センチずれた。


「…………え……?」


 呆然とした呟きが正面を落下する。

 大剣を真横に振り、その遠心力で足を滑らせたのだ。短い距離しか移動出来ないが、猫妖精の牙を回避するには充分だった。


「終わりだ」


 彼女に背中を向ける。

 そして、水平に回っていた大剣をシャロの胴体へと引き寄せる。また正面を向いた時には、細身のアバターは二つに両断された。

 『YOU WIN!』と視界が文字で埋まる。

 こうして、シャロとの戦いは俺の勝利で終わった。グランツ戦と比べたら無傷で済んでいる。戦果で言えば差があるかもしれない。それでも、俺は彼女が強敵だったと言いたい。

 本当に不思議だな。

 苦戦しかけたのに、嬉しいと思っている自分が居る。

 義務や使命感に追われない勝ちを手にして、俺は久方ぶりに清々しい気分になった。


後輩には少し甘くなっている? こういうスキル・アビリティを序盤で出すべきだったと最近後悔しています。設定的に、シャロはクリムの次に戦闘センスが高いです。EN編で悪夢能力の進化が多かったのも、それが関係しています。

次話は一週間後に投稿――出来ないかもしれません。頑張って書きますが、出来なかった時は申し訳ありません。

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