表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/94

《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》②’+《E・D内部/グランツ=高森 燈哉:視点》① ”再勝負”

決闘の仕切り直し。クリムvsグランツです。

 E・Dでの決闘において、規則として定まっていない暗黙の了解は幾つか存在していた。武具の召喚もその内の一つだった。

 理由は数多くあるが、根本的には公平を期する事が主となる。そもそも対戦をするのは武具使用者だけとは限らない。魔法使用者や妖精使用者だって居る。彼等は攻撃手段として魔法を用いる。けれども、殆どの魔法は多かれ少なかれ発動までに時間がかかってしまうのだ。その事実は、初めから武器を持つ相手との戦闘で、必然的に後手へ回るという不利を強いた。 

 そこで考えられたのが、武具を召喚するタイミングの変更だった。

 武器を呼び出すのは決闘開始直後。

 攻撃の前に武器の召喚をする事で、魔法の持つ時間のハンデに並ぼうとしたのだ。

 …………どの道、この場では問題ない話だが。

 目の前に居るのも同じ武具使用者で、しかも顔見知りだ。そうした習慣は忘れても構わない。何より、武器を使って欲しいとグランツが直接言ったのだ。素直に従おう。


「召喚」


 銀の大剣が瞬時に現れた。柄を手で握り、軽く振るう。かつての黒い大剣と重さはほぼ同じなのだが、未だに馴染んでいない感触がある。外見の違いかもしれない。繊細だ、と自分でも少し驚いた。


「よーし、そうだ」


 グランツが満足そうに顔を綻ばせた。彼もその手の中に主要武具を収めている。

 先手必勝でなりふり構わず倒した一回目には気付かなかったが、弓のサイズが以前に見かけた時よりも小さくなっていた。使われている素材や装飾の質は下がっている訳ではない。単なる小型化とは考え難かった。

 これまでの弓とは異なる別系統の武器だろう。俺対策として用意した、と考えるのが普通だ。充分に注意が必要である。


「いくぜ、クリム! 遠慮して手加減とかするなよ!」

「さっきもしてないのに……」


 俺の独り言を無視して、E・Dのシステムはカウントダウンを始める。先程と同様に『3』という数字が眼の前に浮かんだ。

 『3』……『2』……『1』!

 数字が減っていく最中、俺は意識を鋭く集中させていった。神経が刃の如く研ぎ澄まされる。現実では程遠い昂ぶりが身を包んだ。

 ついに二度目の『START!』が四散する。

 戦いの幕が切って落とされた。


「っ!」


 取る戦法は前回から変えなかった。大剣の間合いまで踏み込み、攻撃する。裏を返せば弓矢の間合いを潜り抜けねばならない。その為にも、まずは初めに距離を詰めようとした。


「どりゃぁあああ!」


 俺が地面を蹴るのと同時に、グランツが叫ぶ。構えていた弓――否、矢が鮮やかな緑色に輝いていた。

 弓使いは素早く弦を引いて、口を大きく開ける。


「くらえ!」


 もう撃った? 早すぎる。標準が付いてない筈だ――。

 些細な動揺の合間にも、光の細い矢が迫って来る。これは《スキル》だ。何らかの現象が関わっているだろう。

 矢の軌道変更か。命中後の追加攻撃か。

 グランツの思考を汲み取ろうとしたが、次の瞬間にはどちらの予想も裏切られていた。俺の目がスキルの効果をはっきりと捉えたからだ。


「そっちか……!」


 後続に二本目の矢が飛んでいた。更に三本目が背後に並んでいる。矢を連射させる技だったらしい。

 一本目は大剣で叩き落とせるが、それ以降は分からない。俺は大剣を突き出し、白銀の刀身に身を隠した。

 ガガガガッ! 衝撃が重量を支える腕に伝わる。一発ごとの威力は弱い。しかも命中率が酷く悪かった。当たった箇所が大剣の根元から剣先、と大きく振れていたのだ。


「やっぱ通らねえか。でも!」


 盾代わりとなった武具の向こうで、何かが地面に落下する音が聴こえた。音響探知だけではどんな物かは分からない。ただ、嫌な予感を覚えた。確証はないのだが、彼が言っていた俺への対策はそれに違いない。

 今度の想像は的中した。放り投げられた物体がすぐに異変を起こしたのだ。


「煙幕……か?」


 どうやらグランツはアイテムを使ったらしい。視界の両端に灰色の煙が立ち込める。小さく覗けていた相手の姿も次第に飲まれて消えていった。

 弓矢使いが、自分から視覚を潰したのか?

 これまでお互いが見えていたのだ。飛び道具でも的を絞れなくはない。だが、命中率は格段に落ちるだろう。加えて、俺には音だけで動向を把握する技が有る。煙はグランツの障害にしかならないと思われた。

 早計か、もしくは……。

 音響探知の存在はグランツも知っているのだが、使えるという話は聞いていない。それにあれは回避や防御用の技術だ。弓矢を用いる戦闘スタイルには不適格である。


氷の矢(アイス・アロー)!」


 思考中に技名が聞こえた。スキルだと直感する。

 視野の中央で煙が揺らいだ。先端に青い光と結晶を纏った矢が飛んで来る。

 身を横に引いて躱した。今度は連射ではなく、切り落とす事も可能だった。だが、その隙が狙われるかもしれない。注意を執拗に重ねたかった。

 パキンッ! 俺から逸れた矢が地面に激突し、氷結を生み出す音を発生させる。身体を氷によって硬直させ、動きを鈍らせる作戦か。


「もういっちょぉぉおおお!」


 グランツの叫びが再び轟いた。直後に細く輝く弓矢が立て続けに襲って来る。

 連射のスキルだ。今度も回避に徹する。地面を蹴って斜め前方に加速した。先程まで経っていた場所を緑色の閃光が通過していく。


「性能自体は下級のスキル……」


 ……だが、それを逆手に取っている。命中率の悪さを範囲に置き換え、発動の合間を節約しているんだ。

 普通は次の起動まで待機する時間が要求されるのだが、グランツが使ったスキルは短い間隔で放たれていた。威力等が低いスキルの良くある特徴だ。

 なるほど。狙いが分かってきたな。

 胸中で整理を付け、俺は両耳の神経を研ぐ。

 ――あの連射スキルじゃ大剣は壊せない。これはグランツにも分かっているだろう。つまり、攻撃ではないのだ。足止め。俺を接近させない為の策だ。


「《アイス・アロー》!」

「!」


 又もやスキル名の宣言が響いた。前に進みながら小さく屈む。左肩の上部を氷の矢が掠めていった。


「《アイス・アロー》! 《アイス・アロー》! 《アイス・アロー》!」


 三回、氷の矢が発射される。全てを音響探知で認識した。避けられる。後退せずに左右のステップで素早く潜り抜けた。

 今の射撃と発声で大体の場所は分かった……!


「煙が邪魔だな」


 聴覚だけに頼り切るのは危険だ。俺は大剣を左から右へと払った。生じた風圧が視界を埋め尽くしていた煙を吹き飛ばす。

 晴れた視界の片隅で、苦笑いを浮かべている男を発見した。すかさず地面を蹴る。矢を発射される前に斬りかかるつもりだった。


「ちっ!」


 流石に下がるか。

 舌打ちをしてから、グランツは構えを崩して背後に退いていく。その際、手元から丸い球体をこぼした。球面が地面に触れる。――発光。先程の煙が全体から溢れ出した。澄んでいた視界が再び曇ってしまう。


「同じ手を?」


 予備を用いた事に少し驚いた。

 執拗に繰り返すとなると、この煙幕はグランツの戦略を支える柱になっているのかもしれなかった。単なる目潰しではない。そう悟ると同時に、俺は大剣を前に構える。

 数度の衝撃が武器を振動させる。例の連射スキルだ。


「さて、どうするか」


 今の攻防で距離を開けてしまった。大剣を盾として扱いつつ、両耳を研ぎ澄ます。基本的に一定の間隔を取った上での射撃だ。スキルの性能を見る限り、そう遠くまではいけないだろう。

 ――って、また聞こえた。

 聞き慣れたスキル名の直後に矢が飛翔して来る。やじりを覆う鋭利な氷塊を引き付け、大剣を振り上げる。棒の部分を切断した。残骸は後方で地面に突き刺さった様だ。凍結を意味する効果音が聞こえた。

 面倒だな、これ。

 俺は前かがみになり、突進する機会を探った。足踏みはグランツの思う壺となるだろう。時間をあまり与えたくなかった。

 ここまでのやり方を考えると…………彼の狙いが少し分かって来る。


「大剣を使わせないつもりだな」


 間合を取りつつ、防御が最適の連続攻撃を仕掛ける。一振りの隙が大きい大剣は障壁として扱った方が有効だ。攻めに転じにくい。そうした状況をグランツは俺に望んでいる。

 彼に近付く為には、連射スキルを見極める必要があった。


「…………」


 すぐガード出来る様に、大剣の腹を軽く正面に向けておく。握りも緩くした。一方で、足幅は縦に深く取った。

 ――次の連射がチャンスだ。

 周囲の音響、煙の変化に気を付ける。数本の矢を大剣で防ぎ、そこからグランツが居るであろう方角に駆けるつもりだった。


「来た……!」


 光の矢が空を走った。数本を確認する。白銀の大剣を垂直に立てて身構える。

 衝撃。

 閃光が小さく炸裂した。散った残滓が白銀の刀身に反射し、辺り一面を輝きに染める。

 今、だ。俺は最後の矢が消えると同時に、勢いよく前進した。


「は、や――――っ!?」


 グランツが驚愕の声を絞り出す。

 直進していく先で足音が滑った。俺の接近を受けて逃げ出したのだろう。やけに反応が早い。煙の流動があったとしても妙な速さだ。性質の付与・上下に関わる《アビリティ》の存在が疑える。それなら自ら視野を悪くしたのも頷ける。

 武具使用者は主要武具に置かれた七つのスロットに、好きなスキルやアビリティを設定できる。グランツは既に二つのスキルを明らかにした。そして、アビリティと思わしき視界の能力があった。

 ……残りのスロットは、三つ(、、)……!


「こ、の、やろ……!」


 推測の最中に、連射スキルが発動された。方向はでたらめだった。俺の動きを止める為に無我夢中で撃ったのだろう。


「ふん」


 両足で制動をかけ、大剣を掲げる。

 一本が表面に激突した。小さく弾けた。緑色の輝きが淡雪の如く降っていく。

 くそ。離してしまった。

 グランツは今の瞬間で定位置から逃げていた。一息の合間ではもう追い込めない。再び機会を呼び寄せるしかない。


「……ふっ!」


 大剣を左上から右下へと一閃させる。煙が切り払われ、目の前が明瞭になった。グランツの全身も良く見える。


「うわ、やべ!」


 慌てた様子で彼が球体を取り出し、投げる。その動作が俺に猶予を与えていた。瞬く間に弓矢を構えたが、遅い。

 煙が足元を漂う。直後に俺は前へと加速した。



《E・D内部/グランツ=高森 燈哉:視点》


 煙幕を発生させるアイテムを使った所で、俺はようやく間違いに気付いた。せめて連射スキル《バレット・アロー》を先に撃つべきだった。

 ちくしょー。バカか、俺は!

 接近されたらヤバイと分かっていた。なのに、自分の作戦を優先してしまった。策に溺れたとでも言うのだろう。

 まずい、まずい、まずい! とにかく足を止めさせなければ。

 俺はすぐに連射スキルを放とうとした。標準など定めている暇は無い。全速力で後ろに下がりながら、光の弓矢を発射させる。

 緑色の尾を引いて、数本の閃光が空を飛ぶ。目標へ真っ直ぐ向かったのは二本ぐらいだった。これでも運が良い方だ。大剣のガードを引き出せるだろう。

 頼みの綱は、期待通り白銀の刀身へと吸い込まれていった。


「げ……!」


 しかし、予想外の出来事が起こる。

 クリムを狙っていた矢が、大剣と触れた途端に軌道を変えられたのだ。あれは見た事がある。以前の悪夢との戦いで使っていた技だ。武器も身体に沿って傾けられており、タイムロスは殆ど見られない。突進は続く。

 残された手段は――。


「だぁあああああ!」


 もうやけくそだ。これでも食らえ!

 素早くアイテムを取り出す。掌大の球体だ。それを俺は勢い良く投げた。


「っ!」


 クリムがそれを見て目を大きくする。まあ、当然だ。黒い表面と頂点に灯った赤い光。いわゆる爆弾の形をしているのだから。

 使いたくなかったアイテムは、俺とクリムの中間を浮く。もう爆発するだろう。振り返る暇すら惜しい。とにかく全力で離れようとした。

 瞳の遥か奥。

 中空に銀色の波が翔け上がった。強い風が俺の身体を押す。……嘘だろ。目にも留まらぬ速さで爆弾を斬りやがった。大剣の切っ先よりも遠い場所にあったのに、届いた風圧が透明な刃となって切断したのだ。どんだけ強力なんだよ、あいつの一撃は。

 ――轟音と光が破裂する。

 爆風が俺の全身を襲った。イタイ、イタイ、イタイ。痛覚はないのだが、色々な意味でキツいダメージだ。目の前に赤い数字。損傷率は二十五パーセントにまで達していた。

 クリムの斬撃で押し戻されたせいもあるのだろう。あまり無視出来ない被害だった。だが、これはまだ幸運な方だ。爆弾の威力は半分に抑えられた。後、攻撃をさせた事で移動も妨害出来たのだ。……うん、上々!


「《アイス・アロー》!」


 氷の矢を放つスキルを使った。爆発のせいで体勢が崩れている状況だ。予想通りに、矢はクリムの手前に突き刺さった。

 ――く。

 思わず喉から声が出そうになる。それを必死に堪えながら、俺は続けて《バレット・アロー》を発動させた。

 緑色の尖った光が飛んでいく。爆風に煽られていた煙が今になって漂い始める。閃光は灰色の景色に穴を開けていった。

 丁度、その時。

 アビリティである《視覚強化Lv.5》が奴の様子を教えてくれた。これのおかげで煙の向こう側に居る相手もぼんやりと見えるのだ。黒いシルエット状の姿だけだが、地面に突き刺さっている大剣が分かった。頑丈な武器を盾にして、本人はその後ろに隠れているのだろう。

 今だ!

 チャンスを察して、二つのスキルを交互に発射させていく。ガガガ、と緑の矢が大剣に衝撃を与える。

 ――く、く、くくくくく!

 策に嵌ったなあああああ! 断罪裂剣っ!!

 この瞬間を待っていたんだ。完全に防御に回る、この瞬間をな! 逃げ道も既に潰している――お前はもう逃げられない!

 高くなるテンションを胸に、俺は弓をきちんとした高さで構えた。そして、今回の戦闘で三つ目となるスキルの名を小声で口にする。


「《スカーレット・アロー・テンペスト》……!」


 指で抑えていた矢が緋色に輝き出す。こんぐらいのレベルになるとやっぱり発動まで長い。俺はじれったく感じながら光の充填を待った。末端から始まった光はまだ半分までしか到達していない。

 クリムの大剣は未だに地面に突き刺さっている。黒い影だけの姿でも凄まじい迫力を感じられる。だが、その外見に震えるのも今日までだろう。何故なら、俺が完膚なきまでに勝ってしまうからだ。

 ――勝算はもちろんある。正しく言うなら……コツコツと積み上げて来たんだ。


「逃げられないぜ、クリム」


 奴の強さの秘訣は、超速での一撃必殺にある。重い大剣を持ってる癖にくそ速い。矛盾したこの力を打ち破る為に、俺は長い間頭を悩ませた。だが、ある時に気付いたのだ。無敵に思えたあいつにも弱点がある、と。

 奴は全てが強力過ぎる。

 その代償として、小回りが利き難いのだ。

 技術を磨いて色々と補っているが、そこを徹底的に突く事で勝機が掴める。現に俺はそうしてきた。

 何度も撃った《アイス・アロー》。こいつの標準は初めからクリムではなく、周辺の地面に定めていたのだ。

 命中箇所を氷で覆うこのスキルをクリムの移動範囲にばら撒いて、氷という小さな障害物を置いてやったのだ。もしもあいつが直線的に逃げようとした場合、どれかに引っ掛かるはず。煙が漂っているので足元までは見えないだろう。スキル名を大声で言っていたのも、避けてもらう為だったのだ。

 これで自慢の足を潰した。残るは盾となっている大剣のみ。こちらは攻略自体がさっきよりも簡単だった。守っている部分の外側から攻撃してやればいい。実現するのは、発動中の《スカーレット・アロー・テンペスト》のスキルだ。


「チャージ、完了」


 矢の先端まで緋色に染まった。大剣の影は動いていない! クリムが気づく前に間に合ったのだ。

 抑えきれない笑みが口元を歪めさせる。

 勝った! 第三部、完っ!


「いっけぇぇえええええ!!」


 我も忘れて叫びながら、俺は強く輝く緋色の弓矢から指を離した。


次回には決着がつきます。そして、シャロも……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ