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《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》① ”白銀の大剣”

LN編二話目です。この編はゲーム要素を増やした、少し明るいお話を目指しています。今回の話も最初から戦闘シーンです。多めにしていきたいと思います。

《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》

 本音を言ってしまえば、最近はE・D内(こちら)に来るのが少し憂鬱だった。


「おらぁ!」


 怒号が聞こえた。

 拳大の光球が、輝く帯状の輪というエフェクトを纏って俺に迫る。初級魔法《魔弾》の強化系である《陽魔弾シャインブラスト》だ。命中すればダメージと同時に一、二秒のスタンがかかる。

 それが俺の背後から飛んで来ていた。


「――ふん」


 自己流スキルの《音響探知サウンドサーチ》で射出を読み取り、身体を横にずらしてよける。手ぶらなので身体が軽い。回避自体は簡単だ。

 だが、俺の正面にはまだ他の敵が二人映っている。片方は短刀を装備しており、もう片方は耳や鼻が無骨な形状をしている巨体のアバターだった。恐らく後者はトロールという種類の妖精だろう。

どちらも近距離戦が得手だと思うが、技術スキルの存在もある。下手に背中を見せたくはなかった。

 そこで、敵の先手に乗じる事にした。


召喚コール


 呟きと同時に、右手に光の粒子が走る。大型の剣を瞬く間に模り、色を持って実体となった。

 現れたのは、白銀の大剣。

 俺はシステムから呼び出した武器を振るった。今もなお直進している陽魔弾に軌道を重ねる。ブン、と風は切られた。遅れて光の球も両断された。直後に出る破壊判定。中心から放射線状の光明が一気に溢れた。

 目くらましだ。

 地面を蹴る。武器使用者らしき短刀使いまで距離を詰める。


「速っ――!」


 目の前のユーザーが呟く。先程の光で反応を意図的に遅らせたのだ。対応してもらっては少し困る。

 武器としての重量差を利用して、構えられた刃の上から大剣を一閃させる。短刀の損傷率が百を超えた。音を立てて砕け散る。

 続けて、相手の肩から腰にかけて斜めの線が入った。ずるり、と肉体が動く。袈裟切りの痕をなぞり、重みに負けて上半身が落ちていった。


「こんのおおおおっ!」


 真横で佇んでいた巨人の妖精が、仲間の退場に怒りを露わにした。荒い足取りで近づきながら、右腕を背後へ大きく引き付けた。

 流石にトロールの拳は受けたくない。俺は大剣の柄から手を離し、すぐさま駆け出す。武器は自動的に収納される使用だ。心置きなく放置出来る。

 俺は開いた懐に身を寄せた。突き出された拳が頭の隣で唸る。髪をなびかせる程の風圧を感じた。筋力と重量をかなり鍛えているのかもしれない。ここまでの重い攻撃はまともに食らえば危なかった。


「……召喚」


 その代わり、一撃ごとの硬直が長い。この間に俺は大剣を再び呼び出した。対処が追い付かないトロールの腹部に剣先を刺し込む。


「ごあっ……! てめえ……!」


 頭上から敵意に満ちた視線が降り注ぐ。けれども、表情に笑みが覗く。現状の優位さに気が付いたのだろう。

巨人が両腕を広げた。俺の背後を閉ざす様に指先を示し合わせている。

 そうだ。

 一発ごとに力を注ぐ戦法は俺も同じだ。今から激しい移動は難しい。しかも相手はトロール。捕まってしまえば、体格差の関係で逃げ出す事は不可能だろう。

 ――もっとも、さっきの突きは全力じゃないんだが。

 貫通しない程度にわざと弱めた。その理由はすぐさま形になる。

 ドォン! 


「うおおっ!?」


 爆発がトロールの腕を叩いた。衝撃がアバターから驚愕の声を引き出す。直後、巨体の妖精は俺ではない誰かに瞳を向けた。


「ブルーグ! どこ狙ってやがる!!」

「うるせえ、デカぶつ! お前こそ邪魔なんだよ!」


 単なる同志討ちだった。

 陽魔弾が通用しないと分かった途端。背後から俺を狙っていたユーザーは、より強力な魔法を用意し始めたのだ。

 そのモーションを俺は視界の端で捉えていた。回避か防御か。時間をかけたくなかったのでどちらも選ばなかった。逆に攻撃の過程に加えた。


「ふっ!」


 油断を誘う為に少ししか埋め込まっていない白銀の切っ先。その直線上にある握りを掌で掴み、俺は両足を思いっきり伸ばした。

 水を吸ったスポンジを、深く押し潰す様な音が生まれる。大剣が進む。鍔近くまでトロールの肉体が刺さった。

 馬鹿な、とでも言いたげに巨人は両目を剥いた。そして、口を開いた瞬間に肉体を光の粒子に変える。E・Dからの退場だ。更に大剣で身体を引き裂こうと考えていたが、運良く急所を貫いていたらしい。俺より二回りは大きいアバターはデータの残滓と共に消えていった。


「…………は? 何だよ、これ。本当に何なんだよぉ!? どうして三対一で俺達が負けるんだよ!?」


 二人の仲間が倒された場面に対峙して、魔法使用者らしき男が喚く。


「次はお前だ」

 俺はゆっくりと顔を向けた。

「――ひ」

 最後の一人が引き攣った表情になる。


「ま、待ってくれ! ちょっと話を聞いてくれよ! 俺達は何も悪くないんだ。ただ生意気なガキ共にマナーを教えようとしただけなんだ。…………ちくしょう! 聞けよぉ!」


 歩みを止めない俺に対し、男は表情を一変させる。怒りに任せて魔法を放った。魔弾に連なる光の球が発射される。

 ……まずは降参しろよ。そうすれば決闘が終わるのに。

 ゆっくりと歩きながら大剣を裁く。撃ち出された魔法を目の前で断ち切った。即興で放てるタイプには威力が無い。こんな物に当たっても損傷率は殆ど変動しないだろう。

 そう考えながら、俺は時間を与えていた。

 ――この戦いは本来バトルロイヤル形式、すなわち味方を持たずに全員を敵とする決闘だった。だが、俺と戦った三人は協力関係にあり、本来の想定から外れた多対一の方式に持って来た。事情によって俺はそれを飲み込むしかなく、彼等は開戦前までしたり顔を浮かべていた。


「……終わりだ」


 男の前に立って告げる。結局最後まで降参はしなかった。数分前までの表情が嘘の様である。

 これ以上の猶予は必要ない。白銀の刃を振るい、腰が引けたアバターを斬る。

 声の無い断末魔が、輝く残滓と共に天へ舞い上がっていった。

 最後の一人が決まると同時に、決闘の場を覆っていた円状の壁が消える。仕様で構築されていた結界だ。この仕切りによって周囲への影響を気にせず戦える。大きさを自由に決定できるのが中々に便利であった。


「ふう」


 光の塵を跨ぎながら、俺は全身の力を少しだけ抜いた。


「――お疲れさま!」


 戦闘を終えた俺の傍に一人の少女が寄って来た。長い金色の髪に整った顔立ち。身に着けたメイド服が、仮想世界ならではの空気を含んでこの上なく似合っていた。


「やっぱり強いね。ほとんど無傷出し」

「……あっちが連携でヘマをしただけだ」


 トロールが攻撃魔法を遮らなければ、最低でも一撃は俺に当たっただろう。

 争いの痕跡が残っている広場を振り返る。中々に荒れていた。主に俺の大剣や靴跡のせいだった。

 ここの近くにはダンジョンが有る。損傷を直しに来るユーザーは居ないだろうが、時間が経てば元に戻る筈だ。後処理をする必要は無い。


「依頼はこれで完了……でいいのかな?」

「多分。決闘でローテーションの時間を定めようとしたのはあいつらだ。これで

順番を破る様だったら、後は騎士団の出番だ。口約束でも証人がいれば動くだろう」


 肝心なのは誰に発言を任せるか、だ。

 俺は横目で隣の少女を見た。ユリアという名を持つ彼女が視線に気づく。どうやら思惑を悟ったらしい。


「ちょっと。私に押し付ける気?」

「…………俺はもう騎士団のメンバーじゃない。というか、今は会いたくない」


 黒から白に変わった髪を手で抑える。愛用していた軽量の鎧も外しており、身体が何となく落ち着かない。イメチェンと言えば聞こえはいいが、以前までの恰好から大きく変化した事がむず痒かった。

 ユリアが口を小さく尖らせる。


「まだその姿に慣れてないの? 私がせっかくピッタリなの選んであげたのに」

「それは、そうだが。派手すぎるというか」

「そんなの全然派手じゃないよー! むしろ地味だよ、地味! 色素が薄いって感じだもん! 大丈夫。とってもクリムらしいよ!」


 さり気なく酷い発言が出たな。別に怒りはしないけど。……俺一人じゃデザインを決められなかったし。

 部活をするにあたり、断罪裂剣のクリムという存在は有名過ぎた。黒目黒髪と漆黒の大剣、簡素に装備した鎧。少し知識がある者はそれだけで俺に気付く。そして、驚愕やら興奮で場が混乱してしまう。高森先輩や澤野先生が正しくその例だ。

『じゃあ、いっそのことアバター変えちゃおっか』

 この問題が浮き彫りになった数日前。ユリアは俺にそう提案した。

 E・Dでは三つまで自分専用のアバターを作成できる。だが、時間を費やして伸ばしたステータスまでは引き継がれない。そこでユリアは俺の外見だけを弄ったのだ。

 黒髪を白髪へ。鎧を取り除いて、より身軽な洋装へ。

 主要武具の大剣さえ別の物を用意した。武器使用者の浮遊領土で選別し、高級品を買いそろえた。費用については困らなかった。騎士団の一員だった時に目的もなく貯めていた金から引き崩したからだ。

 ここまでを乗り越え、現時点での俺の外見は完成した。やはりログインする度に少々の面映ゆさを覚えてしまう。憂鬱の原因だ。時間が経てば収まると信じたい。


「あの~」


 会話の切れ目を見計らい、一人のアバターが俺達に声を掛けてきた。帽子を被った、短い黒髪の女の子だった。長い杖を持っている。おそらく魔法使用者なのだろう。魔法発動を補助する武具として杖は最も頻度が高い。


「あ、依頼者さんだ」


 初めて知った。とあるパーティーのリーダーから依頼されたと聞いたので、無意識に相手が男性だと思っていた。

 意外性に耽る間にも、彼女は俺達の方に歩み寄って来た。


「か、勝っちゃった……んですか? あの三人に」


 おずおずと尋ねられる。ユリアは笑顔で答えた。


「はい」


 彼女は両目を開いて俺の方を見つめた。


「嘘……! あの人達、結構有名なパーティーなんですよ!? 三人で炎獄鉱山や螺旋迷宮まで攻略したぐらいの……」


 確かに彼等は各々の戦闘スタイルはバランス良く組み合わされていた。近距離・遠距離の攻撃手段を備えつつ、トロールという防御役まで存在するのだ。ダンジョン攻略では中々に有利だろう。

 しかし、対人戦の経験が不十分だった。背後を取るのは悪くないが、意志疎通が完全に出来ていなかった。そこが敗因だ。


「つ、強いんですね! うちの学校に貴方みたいなユーザーが居るなんて知りませんでした! 名前を聞かせてもらってもいいですか!?」


 勧誘だろうか。彼女は目を輝かせて名前を聞き出そうとする。

 俺はやんわりと断るつもりだった。人格からして、誰かと共に戦うのが向いていない。せいぜい援護をしてくれる相棒が一人でもいれば事足りた。


「駄目です! クリムは内の大事な部員です!」


 両手でバツを作ったユリアが彼女を食い止めた。頬を膨らませている。おもちゃを奪われるのを嫌がる子供を連想させた。


「…………え? クリム?」


 ――あ。

 またやってしまった。依頼が舞い込むようになってから、ユリアはこうした失敗を何度も繰り返していた。うっかり俺の名前を呼ぶ。その行為が《断罪裂剣》という異名を高い確率で思い起こさせる。


「それって、騎士団の」

「クリームパン」


 俺はすかさず依頼者の思考を遮った。


「へ……?」

「名前、だ。クリームパン。略して、クリム」

「…………へえ……」


 目の前の彼女から突き付けられる視線が、俺の自尊心をじわじわと削り取っていく。嘲笑ではないが、賞賛でもない。どことなく生暖かい。例えるのが難しかった。とにかく心を侵略して濁らせていく。断罪裂剣という二つ名の方がまだ受け入れられた。


「いい名前ですよね。美味しそう!」


 原案は隣で笑っているメイドが出した。最初の依頼で口にした名前だ。訂正は難しく、以降も《クリームパン》で通すしかなかった。


「まあ、そうですね」


 先程から態度が打って変わって冷たくなった。渇いた苦笑でユリアに相槌を返す。

 どうやら俺への勧誘も留まったらしい。それで好都合だった。胸の奥底で恥ずかしさが踊っているのを除けば、何も問題は無い。本当に。


「…………とにかく、今回は助かりました。これで安心してダンジョン探索が出来ます。この通り感謝しています」


 気分を切り替えたのか、依頼者が俺達に頭を深々と下げた。


「これが私達の活動ですから。役に立てたなら、こちらも嬉しいです」


 ユリアが頬を緩めて応じる。

俺も一応は同じ気持ちだった。しかし、上手く表情に出せない。仏頂面が癖になってしまっている。談話は、申し訳ないが部長に任せるしかない。


「じゃあ、また困ったらことがあったら、気軽に相談してきてください。いつでも待ってますよ」


 依頼の完了が正式に下された。部長は帽子を被ったアバターへと義務的な挨拶を渡す。二人の間から暖かな空気を感じた。部活の調子は順調。そう表現している雰囲気に、俺は微かな感動を覚えた。

 長い杖を身体に引き付けながら、黒髪の少女は語る。


「次に困る機会があるとしたら……体育祭ですかね。ウチのパーティーから二人位出る予定なんですけど、貴方みたいな強い人が居ると上位に入るのが難しそうです」


 嫌味も無くはにかむ魔法使用者。それは世間話に過ぎなかったのだろうが、俺とユリアの虚を的確に突いた。


「ん?」


 何だ、今の話は。

 どうして体育祭と今の俺が関係してくるんだ?


「……あれ、知らないんですか。今度の体育祭で面白い催しが有るんですよ?」

「面白い、催し?」


 ユリアが金髪を揺らしながら首を傾げる。


「ええ。腕に自信のあるアバターを集めて、バトルトーナメントを行うみたいなんです。体育祭と言っても時期が被っているだけなんですが、豪華な賞品も出るっていう噂がありますよ? 出場しないんですか?」 

 そんなに強いのに、と依頼者は最後に付け加えた。


「トーナメント…………」


 俺は無意識に呟いていた。

 ――最強のアバターと噂されてはいるが、自分としてはそんな境地に立ったつもりはない。戦いに少し慣れているだけだ。話を耳にした今でも優勝を狙う気力は湧いてこない。進んで出ようとは思わなかった。

 そんな考えを裏切るかの如く、少女が隣で口を開く。


「……面白そう……!」


 これは面倒な事になるな。

 そう予感した時点で、新たなる難題が課されていたのだった。


「断罪裂剣のクリム」か「クリームパン」か。茜のセンスが段々とヤバイ方向にに……!

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