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エクステンデッド・ドリーム 《-Ⅲ- Loading Nightmare》  作者: 華野宮緋来
《MN編》第五章「夢から覚めた日」
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《E・D内部/???=?? ???:視点》④ ”懺悔”

遅くなって申し訳ありません。伏線回収話です。

《E・D内部/???=?? ???:視点》

 私――トレスが、この事件に全ての発端として関わった自覚はあった。

 そもそもの始まりは室月日々貴が遭遇した交通事故である。交通もままならない不便な土地へと赴き、その帰りに彼は利き腕を切断する程の大怪我を負った。彼のバイオリニストとしての人生はたった一日で絶たれてしまったのだ。

 この事実を後にニュースで確認し、私は激しく後悔した。彼を呼んだ事に酷い罪悪感を覚えた。こんな事故が起きるとは思っていなかった。そう告白すれば誰もが私を慰めてくれるだろう。けれども、私が欲しかったのは己への断罪である。はぐらかした声に守られるよりも、非難する訴えの雨に打たれたかった。

 ごめんなさい。

 私のせいだ。私のせいでこんな事になってしまったんだ。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 ――ごめんなさい。

 私が通うリハビリ施設。そこでは、定期的に音楽家を招いての演奏会が開かれていた。来てくれる演奏家を誰にするかは、利用者の意見が反映される。当然、私だってその利用者に含まれていた。必ずしも採用されるとは限らないが、私は事あるごとに同じ演奏家の招待を願った。間近で聞きたいと思って、何度もその名前を意見書に書いた。

 ついに要請が通った時は嬉しかった。その日の訓練はいつもより頑張った。高鳴る鼓動を嫌いな運動で発散させる位に、私は喜んだのだ。

だけど、この時から不幸は始まっていた。

 演奏会が終わった後、彼はバス停にて事故にあった。そして大事な利き腕を失くしてしまった。バイオリニストとしての夢も、絶たれてしまった。


「私の……トレスの……ちあの、せいだ」


 望まなければ良かった。始まりを振り返り、私は強く後悔した。

 それから数日が経った。私は音楽雑誌を買い集め、彼についての情報を蓄えていた。彼が何処かで再起していないか。その行く末を知る事に私は希望を託していたのだ。ただでさえ動かない身体に伸し掛かる罪悪感を、少しでも軽くしたかった。

 そして、私が最後に辿り着いたのはE・Dでのバイオリンの演奏会。そこに関わる演奏家達の中に、彼がかつて師事していた人の名前を見つけた。自分の教室から代表者を出す、という情報もネットから得た。

 チャンスだと思った。あの人の音楽がまた聴ける。失われていなかった、と希望が眼の前を照らし始めた。

 だけど、壇上に上がったのはあの人ではなかった。全く別の人。私が望んでいた音色も殆ど引き出せていない。持ち上がった期待は、一瞬にして落ちた。

 拙い演奏が終わるまで、私はずっと俯いていた。

 合間に照明が消える。

 ――不意にざわめきが私の耳を揺らした。何か異常でも起こったのか。前方の観客が小声を募らせていたのだ。焦りや困惑が浮かんでいる。私は少しだけ暗い壇上の方へと視線を向けた。


 誰かが、立っている。


 そう認識した途端、巨大な光が壇上に灯った。輝きは球状にまとまり、客席の方を向いていた。何だろう、と目を細める。明るさによって浮き彫りになった人影は見えた。でも、そのアバターの全身は黒い。まるで影を着ているかの様だ。

 ぴかっ、と光の球が輝きを増した。

 ――いや、違う。

 放たれたのだ。ゆっくりとアバターの手元から離れ、観客席に埋まり込む。そして、通過した痕跡には何も残っていない。全てが抉られていた。

 遅れて、阿鼻叫喚じみた悲鳴が会場に響く。私の方に飛んできた訳ではなかった。それでも身の危険は感じる。私はすぐに逃げようとした。


「アアアァぁぁああああッ!」

 高い声が空気を裂く。まるでバイオリンの音色の如く、人々に訴える。


「え…………」


 元から鈍かった私の足が止まる。私の中の直感が、あのアバターの正体を悟らせていた。視界の中央でかつて見た雰囲気が重なっていく。姿形が変貌していても、私にはすぐ分かってしまった。

 あの人だ。

 私のせいで全てを失ったあの人が、あそこで暴れているのだ。


「あ」


 視界が闇に覆われる。かつてない絶望に苛まれ、私は胸を抑えた。「どうして?」などと問う資格も無い。目下で起きている出来事は自分に責任がある。それだけが紛れもない事実だった。

 何があったかは分からない。

 でも、何かがあったのは分かった。


「ああ……あ」


 無意識に私の声が漏れていた。酷く掠れている。

 私が悪いんだ。

 ――あんな風になるまで、私があの人を追い込んでしまった。きっともう以前の様にバイオリンを弾けないんだ。私の様に満足な生活をもう送れないんだ。


「ああああ……あ……!」


 目の前に広がる全てが、私の辿り着く末路だ。自暴自棄になり、どんな希望にさえも手が届かない。挙句の果てに他者への害と成り果ててしまう。

 涙が勝手にこぼれた。

 嫌だと思っても、どうしようもない。夢の世界でさえ、理想は叶えられないのだ。現実ならば尚更だ。病に伏した肉体は痩せ細り、やがてこちらでも歩く事を困難にする。身体が枯れ果て、心も腐る。

 あの人は、私よりも早く、そこに追い付いてしまっただけ。私も時期にああなってしまうのだろう。

 高森千明季という私は、一生涯救いの無い夢を見る。

 ――ああ、そうか。

 これはきっと……悪夢だ。


「っ」


 自覚と共に、視界が暗転する。




 ――――目の前に――手――誰が――。


 ――私は――――。


 ――――暗く――――夢が――――――。




 そして、気づいた時にはもう私は悪夢ナイトメアと化していた。両足の感覚が突如として無くなる。バランスを崩したので近くの椅子に上半身を転がせ、自分の下肢に視線を配る。

 足元は綺麗に消失していた。すっぱりと切断されており、その水平な面には黒い靄が広がっている。


「おい、大丈夫か!?」


 観客だったのだろうアバターが声をかけてくれる。右腕がこちらに真っ直ぐと差し伸べられていた。どうやら、今の私は攻撃を受けた被害者の様に見えるらしい。

 両足を失っているので移動出来ない、と判断された私はそのアバターに持ち上げられた。親切なその人は何も訊かず、急いで連れ出していく。元から軽かっただけに、私達が現場から逃げるのにあまり時間はかからなかった。

 騒ぎになった会場には騎士団が駆けつけた。だが、あの人の姿は既に消えていた。マイルームにでも逃げ込んだのだろう。ここでの事態は収束したが、被害は時間をかけて更に拡大していった。私の様子を見た兄の行動やあの人による騎士団への襲撃。一つ一つを知る度に胸を痛めたが、私はあの時まで何も言いだせなかった。

 現実で兄の知人が来た日も、酷く動揺した。全てばれているんじゃないか、と疑って無理に拒絶してしまった。間違った、あれでは怪しまれる。彼女等が帰った後、私はそう後悔していた。

 それから先の出来事は、今、目の前に居る人たちが言った通りである。

 ――あの人の事を――知って――会いに行った。外見は隠した。会わす顔なんてない。ただ後ろめたさに支配された結果だ。

 私には、この人の為に動く義務がある。

 だから騎士団の襲撃に手を貸した。警告の後、古城の戦いに手あの人が有利になる様にと私の能力を使った。

 両足を失くしつつ、古城での不意打ちも実現させた、私のチカラ。

 その本質は――。



「移動。……正確には、転移させる能力か?」



 告白を遮っての唐突な指摘に、私は思わず顔を上げた。


「物体の境目を問わず、任意の部分を任意の場所に送る能力。それがお前の悪夢としての能力だな?」


 真実を告げたのは黒髪の控えめな装備をしたアバターだった。冷徹さを感じさせる瞳と声色が、次々と明らかにしていく。


「お前が消失ではなく、他の力で自分の足を消したとする。そして、古城での全員の目を掻い潜った襲撃。これら二つを踏まえると、自然に答えが出る」


「答えって……」


 お兄ちゃんが震える唇で問う。複雑な話ではないのだが、事実を受け止められていないのかもしれない。それも、きっと私のせいだ。


「システムに乗っ取りながら、システム以上の規模を発揮する。悪夢に共通するその法則を考えれば、《転移》させる能力が最も辻褄が合う。通常のシステムにおける転移も、アバターの身体を分解させているからな」

「……そっか。私達も普通は場所を指定して移動するもんね」


 金髪のメイド服を着たアバターが同意する。彼の考えは恐ろしい程に合っていた。私はただ黙って頷く。


「……最後に、両足を何処に飛ばしたか、だが……」


 流石にその場所までは分からないだろう。私でも知った時には驚いたものだ。能力によって偶然にもそこになっていた。結果的に私の正体を隠す要因となったが、もうそんな必要は無い。

 私は口を開ける。彼に両足の在処を告げようとした。


「すぐ近くにある筈だ」

「……っ」


 大層な仇名を持つアバターの推測に私は戦慄した。

 ――どうして分かるの?

 最早、不気味と言える察しの良さだった。頭の回転が速すぎる。こちらの世界でも優れた才能を持っているのに、知力まで高いのは卑怯だと思った。現実ではさぞ優れた人間なのだろう。現実でのスクールカーストでは、頂点に近い位置に立っているのだろう。少し卑屈な感情が芽生えた。


「あ、あの……先輩。どうして、そんな事が」


 猫妖精の少女がおずおずと彼の後ろから尋ねた。


「あまりに離れた場所にあれば、トレスというアバターが二つ同時に存在している事になる。それでは損傷率に影響が出るか、周囲の人に気付かれる可能性が高くなってしまう。そうしない為には、両足を自分の近くに置くのが一番だ」


 鋭い瞳を動かし、彼はある方向を見つめた。


「誰にも中を確認出来ず、尚且つ常に自分の傍に有り続ける。そんな好条件の隠し場所を彼女は初めから連れていたんだ」


 重要な意味を含んだ言い回しに、他の三人が反応した。顔色を変えて、一斉に彼の視線が向いている先を確かめる。

 両足の隠し場所が、弱い鳴き声を放った。


「ヒーン」


 魔獣であるペガサスのミーア。この子がいつも私の身体を守ってくれていたのだ。

 ミーアは頭を低くして私に寄り添ってくれた。雰囲気を読み取って、私を心配してくれたのだろうか。優しい子だ。私は感謝を込めて、丁寧に撫でてやった。


「…………トレス。……今までの話は……本当か?」


 お兄ちゃんはまだ信じられないといった顔を浮かべていた。困惑と衝撃に打ちひしがれている様だった。やっぱりショックだろう。申し訳ないと思っている。私の為に沢山頑張ってくれたのは知っている。でも、全てが無駄だったのだ。


「……本当だよ」


 怒られてもいい。覚悟は出来ている。

 でも、お兄ちゃんはこんな状況でもお兄ちゃんだった。小さく頭を振って、必死に言葉を捻り出す。


「じゃ、あ……。お前の足は、すぐに戻る、よな……」


 心配を続けてくれる姿勢に、胸が痛んだ。責めてくれれば良かった。文句を抱いては、急いで喉奥で塞き止める。私にはその不満を訴える権利なんかない。


「……おい。どうして、黙ってるんだよ」

「…………」

「答えてくれよ、トレス」


 私の後悔は以前から始まっていた。自分の判断は正しかったのか。罪悪感を持ちながら何度も自問自答してきた。最後には、ほぼ他人の人達に頼った程だ。悪夢として選んだ行動は反省している。

 故に、可能ならば両足はすぐに戻すつもりだった。


召喚コール


 ――空気にそぐわない冷めた呟き。

 直後に、断罪裂剣と呼ばれていた人の手に黒い大剣が握られていた。軽々と武器は持ち上げられる。誰もが呆然としている間に、切っ先は私に喉元に突き付けられていた。


「自分で能力を制御しきれていない。だから、元に戻せないんだな?」


 以前に投げかけられた覚悟が返ってきた。

 何となくだが、私は自分の両足を治す方法を知っている。正しくは、治す以前に受けなければいけない結末を待っていたのだ。

 熱を捨てた騎士が人知れず囁く。


「……悪夢は、一度は強制的に退場させなければいけない」


 

 ――私は、この人の手で夢から覚めるべきなんだ。



ということで、今回の事件では悪夢が二人いました。悪夢の視点を確認すれば、その伏線が確認出来ると思います。次回は一週間後に更新する予定です。

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