《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》⑧ ”二撃目”
風邪を引いていた為に、更新が遅くなってしまいました。申し訳ありません。
どうやら通用するようだな。
俺は間合いを広げつつ、悪夢の動向を探った。大剣を収納して、常に跳躍出来る体勢を取る。
「あああああアアアアあああァァあああっ!」
少ない言葉で悪夢が悲鳴を上げた。俺が切り落とした腕を見つめ、大仰に嘆いている。その様子だけを見れば隙だらけだった。すぐに追撃が出来る。だが、自慢の腕を失くした悪夢の嘆きに足を取られていた。連想してしまうのだ。あの、細身の男子生徒を。
「あああぁぁアアア!」
「――っ。まだ動くか」
悪夢が残っていた片腕を振り回した。無造作に床へと叩き付けては、粉塵を撒き散らしている。俺を狙っていた様だが、避けるのは簡単だ。やはり、前回の悪夢だったシャロより戦闘に慣れていないらしい。
降って来る黒い拳を掻い潜り、俺は更に距離を広げた。
「…………」
膝を軽く曲げ、駆け抜ける準備を整える。
先程から観察していたが、悪夢の切られた腕は再生する様子も無い。二度目の突進を行うには充分な頃合いだ。大剣の一振りで断ち切った、という事実も俺の背中を後押ししてくれていた。
しかし、油断は禁物である。
あの悪夢は巨大な両腕に宿した消滅能力が脅威だった。その片方が断たれた今なら、消される危険性も半減しているのだろう。けれども安心するにはまだ早い。とある懸念が胸の中で燻り続けているのだ。
一瞬の失敗が命取りになる。シャロの時の様に、痛覚を感じるだけじゃ済まされない。
「アアアぁぁァああ…………ッ!」
黒いアバターの声色が落ち着きを取り戻した。怒りを保ったまま、俺への警戒を倍増させている。繋がっている方の掌が光を集めていた。速い。片方に集中しているせいか、光球の蓄積速度が格段に上昇している様だった。
どのみち、行くしかない……!
俺は重心をより低く落とし、消滅させる光球の発射を見極めようとした。
撃たれる。
そう思った途端に足は動き出していた。光球が放たれる寸前には全身の神経が駆け巡っている。目算で一メートルは遠のいた後で、俺が立っていた場所を光の球がゆっくりと通り過ぎた。蓄積は効率が良くなったが、発射速度そのものは向上していない。これなら問題は無かった。撃てる掌は一つだけ。悪夢の素振りを凝視していれば、どう狙われているのか明らかである。
――また、だ。今度は確認もせずに手元を地面へ向けた。そして、又もや「召喚」と小さく呟いた。
大剣の実現化。その際の反動が、伸ばした腕から全身へと作用される。柄から切っ先までの圧力が俺を横へと飛ばした。
跳躍した先で、膝を使いながら着地する。勢いをなるべく保とうと、すぐに加速を再開した。やっている事は最初の方法と同じだった。ただし、二回目なので幾つかの手順は省略している。それ故に僅かながら進む速度が良くなっていた。
目の前に映っている景色が先程より震えている。何の障害も無い場所での全力疾走へと近づいていたのだ。
「あああアアアああああ!!」
悪夢が叫んだ。俺を目掛け、溜めていた再び光球を撃った。やけくその様に同じ事を繰り返している。こんな攻撃はもう通用しないと理解していないのか。
俺はまた大剣を地面へと打ち付け、急激な移動で横に飛び跳ねた。がんっ、と響く金属音を置き去りにして光球を避ける。
走った。悪夢の傍へと前進した。二階の攻撃から、次の光球がいつ放たれるか計算している。一発だけ発射を許してしまうが、それさえ回避出来れば懐に飛び込める。そこで俺は大剣を振るうつもりだ。
「あと、一撃」
それで決着が着く筈。俺は悪夢の掌に注意をしながら、最後の発射に備えた。
…………何だ? 遅いぞ。
違和感が生じた。その手に光を集めている悪夢だが、俺がどれだけ近づこうと撃ち放つ素振りを全く見せなかった。接近戦で挑むつもりなのか。だが、悪夢の両腕は体格に不釣り合いな程に巨大なのだ。懐に飛び込まれたら対処は出来ないだろう。素人故の浅はかな戦略を疑ってしまう。
「ぁ……あ」
「!」
これは、違う。ミスじゃない。
直感が脳裏に囁いた。全身が未知の動きを取ろうとしているのだ。悪夢は新たな一手を打とうとしている。きっと俺に対抗する為の戦法だ。このままではまずい。
俺は反射的に掌だけを構えた。
身体にかかっている加速は維持した。進むか下がるか、悪夢の行動で反射的に決まる。この選択を間違えれば、手痛い反撃が待っているだろう。
「召……」
大剣を即座に呼び出せる様、唇を微かに開いた。
「ア……!」
悪夢が反応した。巨大な腕が俺の目前で振り回される。掌に溜まっていた光が分散して消えた。意図的に蓄積を解除出来るのか、という驚きと同時に地面へと立てかけられる。残った片腕は肘を大きく曲げ、小さな本体を急角度に倒させた。
まさか、これは。
焦った瞬間、悪夢の黒い身体が素早く飛び退けた。地面に密着させた掌を基準点とし、折り畳んでいた肘を伸ばしたのだ。
俺の技が真似られた。大剣の反動を見て、悪夢は即座に学習したのだろう。身の丈はある腕を用いて身体を飛ばす。それによって俺から急激に距離を取っていた。アバター一人分を悠々と動かすとは。改めてその腕の頑丈さを実感させられた。
「く」
――悪夢が想定外の行動で遠退いたのは、まだ俺に勝つ要因にはならない。光球を消した上での移動だ。再度溜める時間で近づく事が出来る。
後ろへと跳躍した悪夢は、盛大な音を響かせて着地した。ドガンッ、と足をもたつかせながら立っている。掌には輝きが薄らと灯っていた。させるか。俺は足裏で床を蹴りつけて直進的に加速した。
「召喚……!」
大剣を呼び出し、迷わずに駆け抜ける。
「あああァあ!」
俺の武具召喚を目撃した悪夢が唸った。切断された方の腕をこちらへと向け、足幅を広げている。黒い刃で切断した断面に魅入られた。その腕から光球が放たれる、という不安に心が絡めとられた。だが、それは有り得ないと切り捨てる。現に蓄積の際に伴う光は短くなった腕に殆ど集まっていなかった。
代わりに、赤く炎を纏った小さな球が向けられた腕の前に現れる。
「っ! 魔法、使用者か……!」
間違いない。魔法を使った攻撃だ。
消滅能力は悪夢となった時に増えたのだろう。ならば、それ以前にどれかの使用者として持っていた力がある。目の前に居る悪夢の場合、それが魔法だったのだ。あろうことか切られた腕で魔法を使えるとは思っていなかった。虚を、突かれた。
魔法の外見から威力と種類は推察出来る。あまり上級な魔法ではない。しかし、俺の足を確実に止めてしまう。短い時間だとしても、光球の発射を招いてしまう。そうなれば避けるのは難しかった。
食らえば終わりの、光球。
撃たせる為に挟んだ魔法。
二段構えの攻撃に面して、俺の目の前は真っ白になった。身体中の神経が研ぎ澄まされる。冷や汗の様な感触が肌をなぞる。悪夢までの距離はわずか。選択肢はもう多くなかった。
駄目だ――。
俺は歯を強く握りしめ、柄を持った拳を力ませる。
「避けろっ!」
その叫びが俺の両耳に届いた直後。球形をした小さな魔法は発射された。
今回は短めです。すぐにこの結末を更新したいと思います。一日後か、二日後か。一週間以内には次話を更新する予定です。




