表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/94

《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》⑦ ”召喚”

クリム(主人公)VS悪夢。戦闘シーン中心です。

《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》


 まるでかつての自分を見ている様で、気分が悪かった。


 騎士団を抜けるきっかけとなった悪夢の事件で、俺は独断行動をした為に騎士達へ迷惑をかけた。全てを自分で決め、全てを自分で片付け、全ての責任を自分で背負った。それらに失敗は無かったと今でも思っている。でも、いざ似た状況を目の前にしたら、反省の念が少しだけ沸き起こってきた。


 何だかな……。


 関係があるのに無関係にされるっていうのは、案外くるな。

 俺が自ら退場した時のマーディも、こんな気持ちだったのだろうか。今の俺と独断専行した人物の心境に違いは有っても、やっぱり両方とも賞賛は出来ないらしい。


「……はぁ……」


 溜息が零れた。高森燈哉――グランツと、元相棒のマーディ。その二人の前で俺は踵を返す。今は雑談する暇も無かった。

 後ろを振り向いた先では、黒い異形のアバターが立っていた。

 悪夢ナイトメア

 ストレスを限界まで溜めこみ、E・Dで異形化したという都市伝説上の存在。芳野結那の時は半信半疑で立ち向かっていたが、二度目となると抵抗なく受け入れられた。


「……ァ……ア!」


 酷く肥大化した両腕を痙攣させながら、悪夢が声を漏らす。窪みの無い顔面からは心情を読み取れないが、怯えている様にも感じられた。もしくは、警戒されている。


 それでも戦おう。


 様々な思考を余所に置き、俺は小さく「召喚コール」と命じた。光が掌を満たし、大剣を素早く模った。


「お前に対して恨みはないが」


 相手がどんな状況だろうが、俺のやる事はただ一つ。


「何もしない、という事をもうしないと決めた」


 元から企てられていた戦いに目を向ける。予定とは大幅に変更があるが、諦める程ではない。一歩踏み出す度に、意識が研ぎ澄まされていく。武具である大剣にも神経は巡っていった。握った柄から切っ先まで重みを感じる。

 断罪裂剣と呼ばれた記憶はまだ生きていた。しばらくはドラゴン等のモンスター退治しかしていなかったので、満足に戦えるか不安だったのだ。けれども、騎士団に入っていた頃と変わりはない。上々の仕上がりだ。


「ア……ぁ」


 悪夢が後退する。それを追う様に、俺もまた大剣を構える。

 ここに来るまで様々な事情を知った。それらを理解した上で、俺はこの古城に舞い降りてきた。今更、覚悟など必要ない。ただ大剣を振るい、漆黒の刃で敵を断ち切るのみ。断罪裂剣の二つ名の如く、突き進む。

 大剣を強く握り、先程の言葉から続く結論を口にした。


「だから、倒させてもらうぞ? 悪夢」


 その発言をきっかけに、俺は一気に駆け出した。


「――ふっ」


 罅が入った床面を蹴った。数メートルの距離で勢いに乗る。大剣を後方へと引き付け、両腕を小さく振りかぶった。

懐まで飛び込み、素早く斬りつける。俺の動きをそう推測したのであろう悪夢が、両掌に光を宿して身構えた。


「せいっ!」


 しかし、それはフェイク。まやかしの動作だった。

 後から添えていた手を離し、元から支えていた方の腕を大きく振るう。走行の流れを半身へと注ぎ込み、肩、肘、手首と連結させる。そして、俺は一息に大剣を投擲した。


 ごうっ、と黒い刃が唸りを上げて突き進む。


「!」

 悪夢の動揺した気配を感じ取った。極端に両肩を跳ね上がらせ、半歩身体を下げる。


「……ァア!」


 迫り来る大剣を消し飛ばそうと、悪夢が光る掌で迎え撃つ。投げた大剣は多少の角度を付けていたので、そのままであれば悪夢の足元に突き刺さる筈だった。奴の巨大な両腕ならぎりぎり届くだろう。損傷率に関係なく消滅させるなら、俺の大剣も簡単に消されてしまう。

 そんな結果には、決してならない。

 突き進んでいた刀身から光が漏れる。光は多数の粒へと還り、武器の輪郭は静かに分解されていった。やがて、大剣が宙で消える。

悪夢の光球には一切触れていない。これはE・Dなりのシステムに整った結果である。大半の所有物は、所有者の傍を離れると自動的に仕舞われる。それを応用した陽動の攻撃だった。


「…………」


 この隙に、場所を替える。

 俺は大剣を放った位置から真横へと疾走していた。次の一手は既に片手で進めている。


「――マーディさん!」

 耳が少女の声音を聞き取った。ここに来るまで一緒だったアバターの物だ。


「嬢ちゃん、か?」

「はい! 早くここから離れましょう! ほら、先輩も!」


 現在の上司であるユリアが離脱する事を提案した。近くには後輩のシャロも居る。彼女等は俺と一緒に来ていたのだが、近づいた途端に俺が飛び降りたので打ち合わせはしていない。

 その支援は有り難かった。唐突な出現に驚いているだろうマーディ達には、早々と退いてもらいたいのだ。


「ちょ、待てって。何でお前らもここに……」

「いいから早く! シャロちゃん、マーディさんを運ぶの手伝って!」

「は、はい……っ」


 四人が遠ざかっていく光景が、脳裏でくっきりと見えた。音響探知の技術により、彼等の安全は確保されたのだと知る。安心した。全力で戦える。


「……ァ……!」


 悪夢が俺の移動に気付いた。顔の向きをユリア達から俺の方に替える。光球の射線は俺へと繋がれているのだ。巻き添えを出す心配は無くなった。


「遅いな」


 俺はぽつりと呟いていた。今度の悪夢は反応が鈍感なのだ。やはり戦闘には慣れていないのだろうか。先程の投擲も、ちょっとした中級者ならすぐに悟った筈だ。けれども、あのアバターは全力で身構えていた。

 消滅させる光球の能力は驚異だ。

だが、それ以外は普通の騎士達より劣っているらしい。

 元から想定した戦略に俺は自信を持った。人差し指を動かし、実行に移す。出現していたシステムウインドウの欄を操作し、装備にとある指示を下す。

 直後、光が俺の全身を包んだ。


「……なっ! 何してるんだ、お前!?」


 ドリー部の部長に引率されて避難していたグランツが、声をうるさく荒げた。

 身体中の発光が静まると同時に、俺は身軽さを感じた。少し肌寒さも覚えるが、戦闘に支障は出ない。グランツの叫びだけが耳障りだった。別に答える義務も暇も無い。ちょっとした面映ゆさに捕らわれるが、用心を続けた。


「何で、装備を外してんだよっ!?」


 纏っていた防具を全て解除し、俺は簡素なアンダーウェアの恰好で悪夢と向き合っていた。これで防御関連の数値は初期値同然になっているだろう。それでいい。相手の消滅能力を前にしたら、ほとんど役に立たないのだ。


「……これで」


 重量の概念はE・Dでも適用されていた。装備すればする程に、自身の重さは増えていくのだ。故に、防具が意味を為さない今となっては身に着けたアイテムが全て重りとなっていた。


 それならば、防御を捨てて速度に頼ろう。


 俺の戦闘スタイルは基本的に大剣を生かした一撃ごとの威力特化。手数が他の武器より少ない代わりに、反撃を殆ど許さない。初撃ならば速度も乗っている。悪夢の消滅させる攻撃は食らわずに済むと踏んでいた。マーディに言われた通り、短期決戦で挑む。


「あ、ア、あ、アアアぁあ!」


 悪夢が俺に向かって一発の光球を発射した。

 速度が遅い、という話は本当だった。魔法使用者が使う初級の魔弾よりも弾速が見劣りしているのだ。代わりに、その直径は人間の上半身を飲み込める程度に大きい。距離が空いているなら避けるのは容易いが、接近した際には難しくなるだろう。

 だん、と俺は再び走り出した。最初の光球からは進路も逸らしてある。


「まだ、一発目」


 アイラの報告から察するに、奴は両腕同時に光球の蓄積が出来る。もう一発の余力が残っているのだ。

 自由になった両手を振って、俺は加速していく。鎧を脱いだ効果は意外と有った。足にかかる負担が少なく、軽快に走れる。


 ――来た、二発目。


 想定した光球が飛んできた。一発目を避けた影響で、俺は右斜めの方角に駆けている。そこを狙われた。悪夢の攻撃は、俺の身体に重なるのであろう軌道へと向かっていたのだ。このままでは交差して、上半身を消されてしまう。


 このまま……俺が予想通りに進めば、の作戦だけどな。


 視線を足元に降ろした。咄嗟に片手を伸ばし、掌を焦点の先に合わせる。


召喚コール


 俺はそう呟き、大剣を再び取り出した。

 手から床へ、その体積が収まらない位置で、超重量の大剣は切っ先を伸ばしていく。基本的に床の耐久度はかなり高く設定されている。単に武器を当てただけでは少し刺さるぐらいだ。俺の大剣でも、結果は同じになる。

 だからこそ、先端にかかる力は持主の俺へと返ってきた。黒い大剣は床面へ微かに埋まり、そして俺を反対方向へと突き飛ばす。目の前が凪いだ。手元にかかる負担には逆らわず、逆に地面を蹴って勢いを足した。


「――――あァ!?」


 悪夢が唖然とした息を吐く。

 武器の召喚を利用した反動で、真横に飛んだ。当然、光球は完全に回避している。悪夢の先読みは挫かれたのだ。


「アリなの、それ!?」


 ……勿論、アリだ。タイミングが難しいけど。

 遠くで絶叫するユリアに対して、俺は内心で答えてやった。

 この跳躍方法は便利そうに思えて、色々と面倒な条件がある。まずは戦闘時でありながら武器を持たない。次に、一定の強度と長さを誇る武器が必要だ。また、厄介な事に飛ぶ方向が限定されてしまう。

 しかもこれを行う度に速度は激減するのだ。今回は戦っている相手の戦闘スタイルと相性が良かったので使ったが、多用は難しかった。


「……」


 疾走を再開して、距離を詰める。一直線に走っていないので、悪夢の懐にはまだ飛び込めそうになかった。その間にも光球は飛んで来る。


「っ」


 今度も同じ様に避けた。

 反対側に手を突き出して、俺は大剣を召喚した。光球の表面から薄皮一枚の間合いで飛び越えていく。短く跳ねた後で、古城の割れている床に着地。靴先の接触から両膝の屈折に続け、推進力を蓄える。

 それを前方へと解き放ち、更に突き進んだ。


「あああアアぁアアア!」


 けたましい叫びを吐き、悪夢が三発目の光球を掌に実らせた。近づいている俺へと標準を定め、すぐにでも発射しようとしている。眩い煌めきが放射線状に差し込み、古城の崩れた敷地に影を落としていた。


 まだ届かない。回避で遠回りをし過ぎた。


 大剣が設定範囲外で光に還るのを横目で見届けながら、悪夢への道のりを淡々と走る。この位置からでは斬撃が届かない。捨身の如く大きく踏み込んでも、あの両腕を断ち切るには足りないと悟った。

 どうする? 

 踏み止まるか。今から間に合うのか。

 ――そう問いかける理性の裏で、俺は既に決めていた。

 加速だ。

 もっと、悪夢が動くより早く駆け抜けるのだ。

 かなり低く据えていた重心を、俺は少しだけ浮かした。宙に一瞬だけ身を委ね、片手だけを地面へとかざす。


召喚コール!」


 大剣を再三にわたって具現化させた。

 きぃん、と微かな唸りが強固な床へと押し出されていった。自由になった肉体に力が加わる。下からだ。足元を目掛けて穿った一点から反動が伝わっている。地面へと働く引力にも勝り、俺の肉体に速度を加えてくれた。

 時の流れが一段と遅くなる。悪夢の動作を全て目で追えた。触れれば消滅する光球の発射直前。光源より向こうにある腕は、ぴんと伸び切っている。跳躍に役立てた聞き手を素早く引き戻す。その間だけで、悪夢はもう間近に迫っていた。近い。そして、黒いアバターのもっと向こうへと届く事が出来た。


 召喚コール


 唇が無意識に瞬いた。大剣が相応の速さで形を作る。


 この腕を、断つ。

「はああああっ!」


 高速で回る事態の手綱は握った。爪先から頭部に至る関節を操り、俺は全力で漆黒の大剣を振り回す。

 ブォンッ! と、烈風が唸った。髪の毛が若干欠けた気がする。

 悪夢とすれ違い、その先へと俺はもう着いていた。斬撃はがら空きだった関節へと叩きこんでいる。疾走を終えた頃にようやく意識が向く。確かめる暇はなく、短い沈黙だけを聞き入れていた。

 誰もが言葉を失くしている。当事者の悪夢や俺、逃げているユリア達も静寂をただ許していた。


 

「――――ぁ」



 後方で佇んだ悪夢が無音の空気を壊す。

 背中越しに聴き慣れない音を耳にした。巨大な何かが、落ちた様だ。俺はそれを知っている。手応えは感じていた。だから、斜めに傾いた切り口から滑った。驚く程でもない、当然の結果である。


 色褪せた古城で、悪夢が誇る影色の腕がこぼれ落ちていた。


日曜日に更新出来るように頑張ります。次も悪夢戦になっています。後1,2話は戦闘が続くと思います。迫力が出る様に描写していくつもりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ