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《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》⑥&《E・D内部/グランツ=高森 燈哉:視点》② ”出現”

投稿します。ついに悪夢が姿を現します。

《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》


「マーディさんからの贈り物っす! これに呼ばれたらすぐに出て下さいっす! 呼んだ部隊の所へと飛んで行けるっす!」


 薄い板を模した即興の転送装置を渡し、アイラは騒がしく説明した。輝く炎を灯した手足を振り回し、ジェスチャー交じりに使用方法を述べていく。ランタンである彼女のアバターは地面から若干浮いており、言動がとても滑らかだった。

 それはここから走り去る時にまで及んだ。円卓の騎士、及び隊長のアイラは忙しいのだろう。E・Dでの部室に居たのは数分程度。長くはかからなかった。浮遊した両足を滑らせ、瞬く間に部室から遠のいた。

 そんな出来事は、もう数日前になっている。


「…………」


 仁王立ちのまま、俺はテーブルに置かれたプレート型転送装置を見下ろしていた。閉ざした唇がきつい。心が固い。気を張り詰める期間が一向に訪れなかった。

 神経が、滅入る。

 微弱な緊張が頃合いを見計らって襲ってくるのだ。騎士団からいつ召喚の合図が出されるのか、常に意識を張り巡らせていた。それ故に、消費するだけの我慢比べが延々と続いていた。


「大丈夫? 部室でずっと待ってるって、何だか疲れない?」


 金髪をなびかせ、ユリアが尋ねて来る。俺は「大丈夫だ」と短く返した。両腕をきつく組んで頬を引き締めているが、特に問題となる点はない。挙げるとすれば、待機しか出来ないもどかしさに幾度も覆われていた。

 騎士団の悪夢退治に協力して、数日間が経過。

 騎士達による巡回は今日に至るまで引き継がれていた。派手に公言してあったので、好奇心で集まる野次馬は大勢だそうだ。夢が終わる度、マーディからの電話で愚痴を聞かされている。

 俺が参加しても良かった。だが、断罪裂剣のクリムは余りにも名を知られている。騎士団への不意打ちを企んでいる悪夢にとっては、大きな障害になるだろう。襲撃も尻込みするかもしれない。それでは囮とは到底に呼べなかった。遠くで姿を潜め、いざという瞬間に現場へ出現するのだ。


「で、でも……ここで待ってなきゃ、いけないんですよね」

「ああ」


 シャロの確認に応える。現時点では、待機こそ最善手だ。何処かの部隊から応援があれば、すぐに駆け付けねばならない。その段階まで待つのが、今の役割だ。


「ナ、悪夢の動きって、何か法則が、ありますかね……?」

「さあな」

「先ぱ、――高森先輩のアバターと待たなくて……も?」


 もごもごと口を動かすシャロを、黙って見つめ返す。

すると、彼女は両目を微かに潤わせた。怒ったつもりはない。咎めるつもりもない。少し気になっただけなのだ。そんなに怯えた顔をしないで欲しい。


「す、すいません……」


 部室の椅子に座りながら、シャロは頭や背筋に続いて猫耳を曲げる。

「こら。イライラしてるからって、シャロちゃんに当たっちゃ駄目だよ?」


 ――だから、してないんだが。

 そう胸中で断りを入れるも、部長のユリアには叶わない。席を立ち、彼女は後輩の元へと寄っていく。


「どうしたの? 何か気になる事でもあるの?」


 ユリアの質問は俺の代弁でもあった。先程からシャロの様子がおかしいのだ。不審な言動を繰り返している。普段は俺と同じ位に寡黙で、殆ど話題を振られる側である。滅多な理由が無ければ、無言を保っている筈だった。


「あ、あの……!」

 シャロが頭部に生えた二つの耳を立て、声を絞り出す。

「ここで待っていなきゃいけない、って分かってるんです。……で、でも。どうしても気になっている事が、あ、あって……」

 頬を真っ赤にしつつ、シャロは必死に話していった。

「高森先輩にも相談しなきゃいけないと思ってて……。で、でも最近はこっちでの姿が見えなくて、それで、中々言いだせなくて…………」


 依頼者である高森燈哉――グランツは近頃E・Dでの部室に顔を出さなくなっていた。一般人として手を出さない方が良いと判断したのか。妹の世話に時間を割いているのか。そのどちらかは俺には分からない。あるいは、違う何かに集中しているのかもしれない。

 けれども、現実での出御高校では時折俺達の様子を窺っている。こちらで会えないとしても、心配する事柄でもなかった。


「シャロちゃんが言いたい事って、悪夢に関する事なの? トレスちゃんの両足を取っちゃった、危ない悪夢の?」


 ユリアが首を傾げて尋ねる。


「え、えと……その……そうかもしれない……です」


 やけに歯切れが悪かった。口下手とは何処か違う。シャロは何らかの疑念を抱いているらしい。


「あ、あの……先輩は、騎士団を襲っている悪夢の事、どう思っていますか?」


 シャロの声は俺の方を向いていた。俺も軽々と喋る訳ではない。そこを踏まえた上で、この後輩は意見を求めている。


「どう、と言われてもな」


 どんな回答を求められているのだろうか。持っている消滅能力から、実に厄介だとしか言い様がない。伝聞だけの印象を更に掘り返しても、新しい特徴には至らなかった。これから戦う悪夢は、俺にとって単なる敵だ。ただ、それだけ。

 …………いや。

 別の視点から見つめると、違った面が映り込んで来た。根拠もない空想が頭をよぎる。自分の記憶が揺さぶられると共に、喉の辺りが苦しくなった。

 E・Dは現実での地域ごとにフィールドが区切られている。つまり、自分達の周辺に居るアバターは、現実世界でも周辺に居る割合が多い。この条件を適用すれば、高森燈哉が探している悪夢の本体も彼の近くに存在する事になるのだ。


「……俺は、その悪夢を一度も見ていない」


 だから、詳しくは追及出来ない。

 そう言おうと思ったが、俺は首を横に振って止めた。代わりに、馬鹿げた考えをユリアとシャロの二人に明かす。


「けど、知っている気が、する……」


 有り得ない、と理性では否定した。だが、脳裏に刻まれたとある面影は、そんな声を塗り潰していった。

 現実の鈴夜湊より中性的な人物。どんな名前だったのか、俺の記憶は曖昧である。覚えているのは、あの生徒が不幸な事故で利き腕を切断したバイオリニストだという話のみ。義手で殴られそうになった俺自身の経験さえ、時が経てば捨ててしまいそうだった。

 俺は他人に興味を持たないし、固執しない。だが、あいつに言いがかりを付けられる隙を作ってしまった。


「え? えっ? え!?」


 部長が驚愕の表情を浮かべる。テーブルの上に両腕を乗せ、力強く身を乗り出した。


「どういう事!? また悪夢の本体が私達の近くに居るって事!?」


 また、という発言に後輩は敏感に反応した。唇を軽く噛んで、片腕を抑える。伏せられた視線が全てを物語っていた。

 同級生からのいじめによるストレスで悪夢となったシャロ。本人だったからこそ、二人目の悪夢には何らかの情を抱いているのかもしれない。マーディの時もそうだった。悪夢に関して饒舌になっていた。

 今度も相当な苛付きに突き動かされている筈だ。

 ――消滅能力へと至る程の、ストレス。


「…………」


 ますますあの生徒に条件が当て嵌まっていく。俺へ当り散らした言動が証明してしまっている。

無言だというのに、頬が酷く疲れていた。的中していく予想に重圧を感じてしまう。


「……だ、だから、その」


 猫妖精が目線を下げ、言い淀んだ。


「今になっても、もう遅いって分かってるんですけど。でも、やっぱり」


 口にする勇気を溜めていた、とするのが正しいのだろう。シャロは瞳を張り、思いつめた顔で俺を見上げた。

「確かめたい、事が、あるんです……!」



《E・D内部/グランツ=高森 燈哉:視点》


 野次馬達の中に紛れ、俺は騎士団の動向を探っていた。武装は万全だ。弓矢は持てる限り買っておいた。主要武具である弓も、指の一振りで召喚出来る。


「今日で、三日目か」


 俺は周囲の騒めきに飲み込まれながら、小さく呟いた。

 半壊した古城。遠くから中身が丸見えの建物を、騎士団は大勢で回っている。確かに隠れるには絶好の場所だ。だが、捜索に進展がある様には見えなかった。観衆の一人としても、残念に思う。

 鈴夜湊――断罪裂剣のクリムには頼れない。

 その決心を胸に、俺は独自で活動していた。ここ数日間、適当な部隊に引っ付いて悪夢の襲撃を待ち望んだ。結果はご覧の通り。黄色い声援を飽きる程に聞いているだけだった。


「くそ、今日も出てこないのか? いつになったら出てくんだよっ」


 吐き捨てるも、遠目で眺めている騎士団に変化はない。現れない事が普通の奴にとっては一番だろう。危険な目にあわないからだ。でも、俺達兄妹にとっては最悪な事実になってしまう。

 悪夢をこの手で倒せない。だから、妹の両足を取り戻せない。


「っ」


 駄目だ、それだけは駄目だ!

 俺は頭を振って、浮かんできた予想を拒絶した。

とにかく気張ろうと、野次馬を押しのけて最前列へと進んでいく。女性の密度が段々高くなっていった。無理もない。ここで部隊の指揮を取っているのは美青年で有名なマーディなのだ。多分、大半以上があの青年のファンなんだ。

 ……ちあも、ああいう男を好きになるのだろうか。……駄目だ。お兄ちゃんはそんなのを許さん!


「って、関係ねえか」


 繋がりの無い考えを捨て、俺は改めて古城の様子を窺った。

 淡い闇色の空に散りばめられた星々が、小さな光で景色を照らしていく。だが、細かな物陰までには届いていない。小柄なアバターなら何とか隠れられそうじゃないか。


「……そういや、悪夢って両腕が異常にでかくなってんだっけ。じゃ、あそこは無理か」


 閃きかけた可能性を削り落とす。そもそも騎士団の目を掻い潜ってあそこに潜むのは不可能だ。罅が走った低い塀が、俺達の侵入を防いでいる。更に突き進む奴がいるなら、誰かが勝手に気づく。


「まあ、俺も近づけないのはやべえな」


 全く考えていなかった。クリムに頼らないと覚悟したのはいいが、それでは騎士団と接触する機会を減らしてしまっている。俺は一般のアバターとしてしか相手にされない。悪夢を直に倒すには色々と都合が悪かった。

 俺の武器である弓矢も、飛び道具とはいえ届く距離ではない。見切り発車だった、と早々に後悔しかけていた。


「どうすっかな……」


 古城に視線を定めながら、俺は悩んだ。だが、中々思いつかない。能天気に騒いでいる野次馬と殆ど同じだった。

 仮想の年季を思わせる情景。その中で活動している騎士団。夕暮れを思わせる淡く黒ずんだ大空。何処か郷愁的な雰囲気を持った眺めだった。無意識の内に、退廃的に見なしてしまう。ファンタジーに良くある遺跡みたいなのだ。ちょっと不吉だが、魔王に襲われた城跡を連想してしまった。


 そんな印象を裏付ける様に、視野の中央がぽっかりと抉れる。


 白く輝く球体が現れていた。壁面を押しのけ、光を丸く放っている。

「え?」


 見間違いか。いや、あれは違う。――というか。

「こっち来てね?」


 突然に現れた光球は、俺がいる野次馬の方へと飛んできていた。それは音も無く距離を詰め、低い塀の更に下方に当たった。

 ばくん、とかじり取られた様に地面が消える。球状の窪みがあっという間に出来上がっていた。上半身を塀から突き出して確認しては、鳥肌が立った。

少し角度がずれていたら、俺の身体が消滅していた。そう考えているこの瞬間が危険なんだとすぐには分からなかった。やがて、甲高い悲鳴が耳をつんざく。周りに居た観衆たちが恐怖に身を竦めていた。

 多くのアバターが一斉に逃げ出していく。最前列に居る俺は取り残されてしまった。


「……あ」


 混乱が起こったのだ。これは、絶好のチャンスじゃないのか。

 そう思いつつ、俺はすぐには動けなかった。怒号と光が飛び交う古城を見つめ、呆然と立ち尽くしている。足が震えていた。喉に渇きを覚えた。あまりの突然さに、頭が真っ白になっていた。


 動けよ、俺……!


 念願の瞬間に立ち会えたのだ。そして、それ以上の場面に遭遇してしまったのだ。不意打ちを受けた為か、騎士団の動きは鈍かった。最初の一撃で大半の人員が巻き込まれてしまったらしい。

 大丈夫、じゃない。騎士団が追い詰められているのは、目に見えていた。


「――――っ」


 E・Dでも最大の戦力を誇る組織でさえ、敵わない。そんな事実を突き付けられ、俺は立ち向かう気力を失くしてしまっていた。


「……く」


 逃げよう。

 唇を噛みながら、踵を返そうとする。大丈夫だ。騎士団の部隊は他にもいる。次こそはあの悪夢を倒してくれるだろう。だから、俺は逃げてもいいんだ。

 前へと足を踏み出した。

 一歩だけ進み、地面を踏みしめる。胸の中で自分が訴えかけて来る。

 本当にいいのか? あの悪夢がここにいるんだぞ? 今更、敵わないと知ったからって、諦めていいのか?

 足裏が張り付いてしまったかの様だ。次の一歩に全く踏み出せない。

 あいつは妹の両足を奪ったんだぞ? 騎士団よりも誰よりも、俺が最初に立ち向かわなきゃいけないんじゃないかっ?


「く…………そぉおおおおお!」


 その思いが俺に火を点けた。

 背中を向けた筈の古城を再び出迎え、行先へと定める。形振り構わずに低い塀を飛び越えた。がごん、と瓦礫が崩れると同時に、俺は全速力で走っていく。俺の手で倒すべき、憎き悪夢の元へと――


このシスコンが功を為すかどうか。次回も早目に更新しようと思います。

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