表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/94

《E・D内部/グランツ=高森 燈哉:視点》① ”兄として”

湊と日々貴がいがみ合ったその後。俺は悩んでいた。不安だった。兄として、このままでいいのか?

《E・D内部/グランツ=高森燈哉:視点》


 とにかく不安だった。


 湊が襲われた日の夜。俺はトレスのマイルームにお邪魔していた。魔獣用に敷地を拡げられており、小規模ながら草原が敷かれている。ここの主であるトレスは気分が優れないと言って他の部屋で休んでいた。三部屋程に仕切られており、今は姿が見えない。だからこそ俺は自由に疑問を吐き出せた。


「あいつで大丈夫なのか……? なあ、お前はどう思う?」

「ヒン?」


 トレスの愛馬であるペガサスに話しかける。俺が頭を投げているコイツの名前はミーアだ。妹によると女らしい。だが、男の俺には馬の性別など見分けがつかない。そこでついつい同性の様に話しかけてしまう。


「ヒーン……」


 ミーアが項垂れながら悲しそうに鳴く。E・Dではグランツと名乗る俺よりも、トレスとの関係が深いのだ。こいつなりに心配しているのだろう。


「――なに、あんまり心配する事はないよな? 騎士団が動いてくれてるんだ。期待しても…………良い……んだよな?」


 やはり最後には期待が保てなくなった。ドリー部とやらに依頼を出し、その内の一人が騎士団で、しかも最強と呼ばれる《断罪裂剣のクリム》だった。幸運なのだろう。あいつに任せれば悪夢退治など簡単だと思っていた。

 だけど、どうしても百パーセントの信頼は持てなかった。現実世界における湊の顔が脳裏にちらつく。覇気のない顔付きと、感情が欠けた様な暗い瞳。そんなあいつを思い返す度に、俺は希望を削られていく気分になる。


「……おお、そうだ。ミーア。餌の時間だ。腹減ってるだろ?」


 グランツはウインドウから魔獣用の食料を取り出した。光輝く粒子が即座に草の形状を形作る。地面の上にこんもりと盛り上がり、青青しい草の束が出現した。


「ヒヒーン……。ヒーン…………」


 ミーアが実体化した餌に勢い良くかぶりついた。しかし、すぐに口を動かすのを止めてしまう。どうしたんだ? いつもは思いっきり食べ散らかすのに。


「おいおい。まさかお前まで身体がおかしいなんて言うんじゃないだろうな?」

「……ヒーン…………!」


 冗談で言ったつもりなのだが、ミーアが折り畳んだ翼を荒くはためかせた。その通りだ、。と訴えているみたいだ。

 こいつも具合が悪いのだろうか。本当だとしたら、飼い主のトレスに何らかの通知が言っている筈だ。俺は武器使用者のアバターしか作っておらず、魔獣の治療法は全く身に着けていない。ただ付き添っているだけでは駄目だ。トレスを呼んでこないと。そしてミーアの様子を見てもらおう。

 俺は妹の姿を探そうとした、が。


 ――まだ負担をかけるのか? 今の落ち込んでいるアイツに?


「…………っ」


 俺はふとした思いに胸を苦しくさせられた。両足を悪夢のせいで失い、妹はいつも顔色を青くしている。どうにかして笑顔にしてやりたいが、それを叶える術がこの手には握られていない。兄だと言うのに、心配しているだけの自分が悔しかった。


 ああ、そうなんだよな……。


 兄として他人任せではいけないと叫び、出御高校の一員として危険な湊を信頼してはいけないと思っている俺を自覚する。さっきからモヤモヤしていたのは、それを分からなかった事が原因だったのだ。少しだけ心に整理がついた。


「ヒーン……」

「もう餌はいいのか……? 後でトレスに診てもらっとけ」


 魔獣の診察はトレスに任せるしかない。だが、俺はそれ以外のやるべき事を胸に書き記した。頭を軽く撫でてから、別室に居るトレスを呼びに行った。

 《断罪裂剣》という異名を持つクリム。現実では冴えない鈴夜湊。こいつに全てを委ねてはいけないのだ。強くとも、現実での振る舞いは目も当てられない。もっと人情に溢れた奴でなきゃ駄目なんだ。

 俺は扉に近付き、そのドアノブに手をかけた。

 がちゃり、と開ける前に目前で動く。いきなりだったので反射的に掌を離した。目の前には車いすに乗ったトレスが現れる。


「トレス。具合はもういいのか?」

「うん、お兄ちゃん。そっちこそ……どうしたの?」

「……ん? ミーアが餌を全く食べないんだよ。お前ん所に何か表示が出てないかと思って。普通に体調が悪いんだったら、俺には手出しできないしさ」


 少し首を傾げた。トレスはウインドウを読んでこっちに来たんじゃないらしい。最初は魔獣使用者として薬でも与えるのかと思っていたのだが。


「…………ミーア、も?」

「……ヒーン」


 トレスの方に歩き出し、ミーアが鼻先を近づける。その部分を触れられ、嬉しそうに耳を動かした。やはり主の傍にいるのが一番なんだろう。ミーアが主を思いやり、トレスも魔獣を思いやる。そうして戯れる光景は、とても微笑ましかった。


「…………。大丈夫だと思う。特に通知が無いし、単なる気まぐれだよ」

「そっか。ならいいんだ」


 妹がそう言うのならば、そうなのだろう。


「ミーアもお前の事を心配してるんじゃないか? 早くお前の怪我が治って欲しいってな」

「…………うん」


 元気を出して欲しいと口にしたのだが、逆効果だった。妹の雰囲気を落ち込ませてしまった。瞳を伏せ、ミーアから目線を下げている。


「だ、大丈夫だ! もうすぐ騎士団が悪夢退治に動くんだ! お前の両足は必ず戻って来る!」


 ドリー部の部長から聞いた話だ。騎士団は自分達の予定を公に発表する事で、悪夢を誘き出そうとしているらしい。幾つかの隊を囮として各地に分け、敵が姿を現した途端に切り札を呼び出す。俺は被害者の家族という関係で特別に教えられた。ユリア――三原茜は普通に性格が良さそうだな。

 悪夢を倒す為に頼っているのは、E・D最強のアバターとも呼ばれている断罪裂剣。クリムというアバターであり、ドリー部の根暗そうな眼鏡野郎だ。


「……でも、お兄ちゃん。騎士団だって何度もやられてるんだよ? あんな化け物、どんな作戦を立てたら倒せるって言うの?」

「そ、そうだな……」


 急な質問で返答に詰まる。一体を相手にする団体戦は俺にも想像が難しい。ユリアが話していた内容は俺なりのアレンジが入ってしまった。


「確かどの隊も複雑な地形の辺りで待機してるんだっけ? それで悪夢からの攻撃を防ぎつつ、ダメージを与えていくって戦法だぜ」


 消滅する光球を放つらしいが、どうも命中までには時間がかかったと言われている。そこで、幾つかの障害物がある場所へと団員を分散させ、命中率そのものを減らそうという魂胆が生まれた。それなら地形ではなく建物の中がいいんじゃないか? そう尋ねたが、ユリアも同じ質問をしていた様だ。あっさりと自慢げに言い返された。


「しかもめちゃくちゃ考えられてるんだぜ? 開けた場所を選んだ事で、騎士団が回避するスペースは確保してあるんだって。凄えよ。俺、戦う度にわざわざそういうのは考えないからな。……さすが、本職だぜ!」


 語っている内に熱が籠ってくるのが自分でも感じられた。武器使用者としての性か。戦闘における話題には胸を躍らせてしまう。この世界でも暇があればモンスター退治などをやっていた。まあ、ドラゴンとかではなく、スライムやオークといった雑魚しか倒していないけど。

 トレスが鼻息を吐いて、俺を厳かに見上げる。


「……相変わらずだね、お兄ちゃん」


 そう呟く妹の顔は、ちょっとだけ笑顔になっていた。仮想世界だと知っていても、俺は嬉しいと心から思った。そして、それを守るのが俺自身の役目だと悟る。


「……ああ、俺は相変わらずだよ。…………相変わらず、お前のお兄ちゃんだよ」


 偽りの無い本心を俺は吐き出す。

だが、妹には上手く伝わらなかった様だ。当たり前だと言いたげな目で見返してくる。長くは続かなかった。兄である俺の言葉から目を逸らし、再びミーアと触れ合っていく。

 感謝は要らない。トレスが、ちあが、妹が元気でいてくれれば俺は満足なのだ。


「…………っ」


 拳を強く握る。専用の武器を使い、攻撃を撃ち放つ瞬間をはっきりとイメージする。モンスターと戦う時よりも鮮やかに思い描けた。俺が覚悟している、という証なのかもしれなかった。とにかく全身に漲ってきている、やる気が。


(妹を助ける為に、兄が黙っていたら駄目だ。アイツなんかには任せておけない!)


 自分一人だけでも進む事を、俺は決心した。


初の高森燈哉視点です。ぼっちじゃないです。シスコン野郎です。「死す痕」って今変換されました。

この判断が悪夢退治にどう関わって来るのか? 頑張って書き上げようと思います。とても遅くなって申し訳ありませんでした!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ