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《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》⑤ ”アイラ”

遅くなって申し訳ありません。新キャラの名前が判明します。

《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》


 まさか、またコイツと会うとは思っていなかった。


 簡素なテーブルが置かれた広い一室。無骨な騎士団の会議室にて、ソプラノ調の挨拶が響き渡る。

「クーリームーさーん! どうも、お久しぶりっす! どうっすか!? 断罪裂剣としての調子はっ?」

「その名を大声で言うな」

 俺は相変わらずな声量に呆れ果てた。こいつの率いていた部隊が襲撃されたのではなかったのか。半分以上が身体を失くすという大きな損害を被った筈だが、そんな様子は微塵も現れていない。

 騎士団の上位、及び有事に統率する隊長として見なされる円卓の騎士。妖精のランタンをアバターとするアイラはその一人だった。俺の目前で無駄に明るく振る舞っているが、これでもれっきとした騎士である。ランタン特有の派手な炎と少女特有の細さが連想を妨げるが、騎士団の中ではそれなりの強さを誇っている。

「あ、自分、新しいの考えてきたっすけど」

「いい。言うな」

 ただし、難儀な欠点も持っていた。

「クリムさんの突進なんすけど、剛刃烈牙ごうじんれつがとかどうっすか!?」

「どうっすかじゃない。俺は言わないぞ」

「えー! 何でっすか? カッコいいじゃないっすか!?」

 最年少である円卓の騎士にして、アイラは重度の中二病だった。最初の妥協がいけなかったのか。事あるごとに俺に妙な名前を付けようとしてくる。騎士団を抜けたからもう大丈夫だと思っていた。だが、こんな形で再会するとは。

「ねえ、どちら様? その子も騎士みたいだけど……」

 ふと、俺に追随してきたユリアが口を開いた。アイラが加入した時はその幼さで随分と騒がれていたが、興味のない人には全く及ばなかったのだろう。相手が上位の騎士だとは思っていない口ぶりだ。もしかしたら騎士とさえ見なしていないかもしれない。

「ああ、こいつは……」

 俺は部長、及び部員として連れて来られたシャロの方を振り返る。

「初めまして! 自分、アイラと言うっす!」

 説明するよりも早く、本人が真っ先に名乗り始める。姿勢を正し、炎を灯した片手で敬礼の恰好を取った。キャラへの成りきり方は絶賛する程に見事である。

「妖精使用者――ランタン! 不肖ながらも、自分は円卓の騎士を名乗らせてもらっているっす!」

 アイラの自己紹介に二人の目の色が変わった。人名は知らなくても、円卓の騎士という肩書きには通じているらしい。驚いた表情で、炎を身に着けている妖精を凝視していった。

「それって確か……騎士団でも十二人しかいない役職なんだよね? ……え? とっても偉い人なの? もしかして!」

 ユリアの驚愕に、俺は黙って首を縦に振った。

 …………俺もその一人だった事は黙っておこう。後で知られるかもしれないが、何かを言われるのが面倒だ。

 マーディに呼び出され、俺達は騎士団本部のミッテ・フォルトへとやって来ていた。ここから悪夢が暴れている現場へとまた行くつもりだった。しかし、敵は既に撤退してしまっていたのだ。間近に控えた戦いに備え、今は直接戦闘に参加したアイラから当時の状況を聞き出そうとしている。

 無事に生還できたのはアイラを含めた三人のみ。他の騎士は死亡していないが、上半身や全身を消されてしまっている。彼等との連絡はすぐに取れた。マーディに確認を取った所、ウインドウは呼び出せるがアバターの肉体は存在していないらしい。まるで幽霊みたいだ、と人伝えの感想も聞いた。

 一定量の会話を挟み、悪夢に関する情報を確定させていく。

「アイラ。そいつは増援が来ると知ったら逃げようとしたんだな?」

「その通りっす」

「……質問を替える。触れると消滅する球体は、そこまで速くないのか?」

「それも話した通りっす。ただ、防具も全く意味を為していなかったっす。ゆっくり飛んでいたっすが、面積が大きいので避けるのも一苦労っす」

 ――そうか。

 マーディから聞いた話とほぼ同じだった。相違点は悪夢による戦闘方法だ。こちらには成長という印象が合う。シャロの時も驚異的な速度で戦力が進化していった。二本の触手から四本、最後には六本の剣を作り出していた。消滅能力に目覚めたアバターも同様に力を増していくのだろう。球体の発射速度が増えたりしたら、本当に勝機が見えなくなる。早い内に倒さなければならなかった。

「……に、二回も騎士の人達を……狙ったんですよね?」

 震える小声が意見を述べた。声の主は背中を縮めているシャロだった。

「もしかして……その悪夢の狙いは、騎士団じゃ……」

 充分にあり得る話だった。シャロ自身も特定の相手を襲った経験がある。それ故に騎士団を連続して攻撃した悪夢の気持ちも分かるのかもしれなかった。

「そうっす。……さすがクリムさんのお弟子さんっすね! 鋭い指摘っす!」

「弟子じゃない」

 誤解のない様に口を挟むが、アイラは気にした様子もなく笑顔でいた。一方のシャロも顔を染めて頭を小さく下げている。

 椅子の背もたれに重心を乗せた。薄汚れた天井が視界に入った。損傷率の蓄積を悟らされた。E・Dの中でも一際巨大な騎士団本部の基地。それでも、データ上の疲労は次々と計算されていく。直す為には金を払って業者に頼まなければならない。E・Dでの金銭を使用者の間で回していく重要な仕組みだった。

 ……今度の悪夢は、そうした損傷率を無視出来る……。そして、騎士団が集中的に狙われているのか…………。

「ある意味、好都合だな」

「……へ? どうして? 騎士団が狙われてるんだよ?」

 胸中の呟きが零れていた。横に座るユリアが俺に向けて首を傾げている。説明を求めている目だった。

「……騎士団の狙いが悪夢で、悪夢の狙いも騎士団。直接戦えば、被害が余所に出にくい」

 どうやら合点が言った様だ。ちょっと考えれば分かる話なのだが。辛辣かもしれないが、周りに居るシャロやアイラを見習って欲しい。年齢では彼女達の方が下だ。三人の中でユリアだけが察せない道理もなかった。

 ……ん? 男って俺だけか?

 そう考えてしまうと、慣れている筈の空間が窮屈になってしまった。少し息苦しい。現実だったら即座に顔中が茹で上がる所だ。クリムとしての頬も色が赤くなっていないか心配である。

「どうしたの? 急に思いつめた顔しちゃって。……何? もっと問題があるの?」

「あ、いや……」

 意識し過ぎた。俺は体裁を整え、再びアイラとの話し合いに臨む。

「こうなると公に発表した方が得策かもしれない。悪夢を誘い込むんだ。賭けになるかもしれないが、ある程度は悪夢の動きを制限できる」

「そうっすね。ですが、団長が許可を出すかどうかは微妙っすね……。あの人もあの人で苦労しているっすから」

 悪夢退治について打ち明ける事で、騎士団の活動範囲は格段に広がるだろう。悪夢を人気の無い場所へ呼び出せる可能性もあった。勿論、欠点もある。E・Dの通常運転に支障を来たしかねないのだ。団長は後始末の厄介さを常にぼやいている。顔を合わせる機会が多い円卓の騎士なら尚更だ。簡単に要求は出来なかった。

「……あ、マーディさんっす」

 アイラが俺の後ろに視線を送り、呟いた。つられて背後を振り向く。

「よう。全員そろってんな」

 入口の辺りで銀髪の美青年が微笑む。不釣り合いなマントを又もや羽織っていた。片手の損失は未だに治っていないのだろう。

 テーブルに席を取り、マーディが話し合いに入った。

「さっきの話だがな、丁度良かったぜ。俺達もそういう結論に辿り着いてな。……団長も発表の件を承諾してくれた。本格的に動けるぜ」

「そうっすか! よーし、自分、頑張るっすよー!」

「頑張れよ、アイラ」

 マーディが声援を送る。騎士団の戦力を本格的に注ぎ込むとしたら、円卓の騎士を何処かで投入する筈だ。そこに片腕を失ったマーディは加われない。騎士の補佐にでも役割が回されるだろう。

「ういっす! 頑張るっす! 皆さんの敵は自分が取るっす!」

 炎が燃えている両の拳を引き寄せ、ガッツポーズを取るアイラ。彼女の意気込みにマーディは満足そうな笑みを見せていた。

 眺めている俺にとっても他人事ではなかった。アイラの様な宣言は出来ないが、気力を少しだけ口から漏らす。

「俺も……出来る事はやる」

 あまり大きな声は出なかった。アイラやマーディの華やかな雰囲気に飲み込まれた様だった。

 ぽん、と俺の肩に手が乗る。予想外の接触だった。

「うん。部長命令だよ、頑張って!」

 部活を率いるユリアが俺の意志を後押ししてくれた。二つの依頼を受けている以上、悪夢は必ず倒す。妹の為に頼ってくれた高森燈哉の期待を裏切れないし、ユリアやシャロの協力も無駄にはしたくない。無理に抜けてしまった騎士団への償いも果たしたかった。

「ああ」

 応じてくれる彼女に感謝をしながら、俺は決意を更に固めた。

「…………そっちもやる気は充分みたいだな? ああ、嬢ちゃん達も同じ様に頼まれたって話だがな? どうせ表沙汰にするんだ。もう騎士団の動向を言っても構わないぜ」

「いいんですか? 騎士団って、そういうのに厳しいんじゃ……」

 ユリアが横目で俺を捉える。基準とする人物によって、騎士団の規則は厳しさが異なるだろう。マーディなら許可を出すのも当然だ。

「良いって事よ。妹さんが被害にあってるんだ。早い内に安心させとけ」

 無作法ながら他人への配慮は行き届いている。俺とは全くの正反対だ。この様な人格だからこそ、俺の相棒となっていたのだろう。二丁拳銃を用いる戦闘スタイルも、大剣で突撃する俺のやり方に噛み合っている。けれども現在は片腕しかないので、援護射撃は望めなかった。

 考えにふける一方。アイラは首を勢いよく何度も頷かせていた。肯定の意を示しているのだろうが、恐らく殆ど事情を理解していない。場の空気を読んでいるのだ。能天気とも呼べるこの少女と組む事は、流石に躊躇われた。

「後は悪夢を倒すだけ、か」

 呆然とぼやいてから、俺は自分の掌を見つめた。そして強く握りしめる。傷一つない綺麗な拳だったが、見た目に反して幾人ものアバターを屠ってきた手だ。

 それを再び振るう。断罪裂剣のクリムとして。

「………………」

 経緯や心境は置き去りにする。冷たい刃の感触が脳裏に蘇って来る。不思議な事に胸の奥では炎が燃え盛っている様に熱かった。アイラの手足に点いている飾り物とは全然違う。断定の出来ない熱意を、確かに感じるのだ。



 ――この時の俺は、まだ気付いていなかった。


 こちらにおける自分がどれだけ頼られていようが、現実では根暗で友達もいない人間だという事を。あまつさえ、事件を起こした鈴夜湊がどんな印象を抱かれているのかも。


 悪夢が、俺達と同じ出御高校の生徒である事も――。


一週間以内に次回を更新したいと思います! 「能力」の方も頑張るので、そちらもよろしくお願いします!

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