《E・D内部/???=?? ???:視点》③ ”隊長”
久しぶりの戦闘シーンです。悪夢対騎士団! 結果は既に判明していますが、どうぞお楽しみください。
《E・D内部/???=?? ???:視点》
淡青色の円柱が数多く聳える古代遺跡。ここはモンスターが出現せず、古代文明を模倣した見事な建築が残っている事で人気な観光名所である。E・Dの製作者にどんな意義があったかは不明だが、私も神秘的な雰囲気が漂うこの場所をそれとなく気に入っていた。クラシックの様な荘厳さに意識が感化されるのだ。
そんな光景が荒れ果てるのも、数瞬の内でしかない。
重い腕を私は伸ばした。
そして、意識の流れと共に形作られた球体を発射させる。白い光を放ちながら、球体は二人の騎士を飲み込んだ。無音の破裂を響かせ、上半身を失くした騎士達を生み出す。
「――くそっ!」
二刀流の騎士が私から飛び退けた。だが、もう片方の掌で溜めてあった球体を落下地点へと飛ばしてやる。ゆっくりとした速度だったが、空中で身動きの取れないアバターは避ける事も出来なかった。
これで、三人。残りは五人だ。
「この、化け物めっ!」
騎士の一人が私に向けて攻撃を放とうとする。詠唱による時間省略を併用し、瞬く間に極大の魔方陣を複数も完成させた。純粋な魔法使用者としての実力は、私より数段は上なのだろう。驚くべき手際だ。通常の私なら後十秒はかかる。
淡く輝く陣の中心が大きく発光した。――速い。魔砲系のレーザーが撃たれる。私の方も回避は無理だ。
飛翔する閃光を、私は闇によって膨大した両腕で遮った。三つの衝撃が闇色の表面を揺らす。視界には損傷率を知らせる表示が浮かぶ。数字の変動は小さかった。殆どダメージは通っていない。
……何だ、騎士団もこの程度か。
「…………」
拍子抜けだった。うんざりした。賞賛にも値しなかった。
…………そんな程度でE・Dの最強を歌っているのか。笑わせないでくれ。もうお前達は目障りだ。すぐに消し飛ばしてやる。
私は再び両腕を真っ直ぐに構え、消滅する球体を溜め始めた。意図的に、二つの光源が辺りを照らす。同時に撃とうするのは初めてだったが、出来るらしい。
「散らばれ! まとまっていたら的になるぞっ!」
長髪の男が残りの全員へと指示を出す。すると、二、三人ずつの集まりが瞬時にお互いの距離を空けていった。
「あいつのガードは異常に硬い! 一斉に攻撃しないと駄目だ! 俺がタイミングを支持する! 前衛は両腕を吹き飛ばせ! その後で後衛の魔法で本体を潰すんだっ!」
周辺から「了解!」という返事が反響した。リーダー格の男による作戦と、その他の対応は流石に厄介だった。
三度目となるこの戦闘。
相手の方が経験をより多く積んでいるのだ、と強く実感させられる。悪夢による私の能力値が高いとはいえ、油断をしているのは危険であった。気分で始めた戦いとはいえ、身体中に広がっていく緊張を覚える。
「…………っ」
私を中心として、武器を持った数人が円を描きながら駆けていく。私の攻撃は飛ぶ速度が遅く、向こうは軽々と走り回っている。これでは狙いをつけても外れてしまう。どうすればいいのだろうか。
…………面倒だ。一人ずつ、捕まえていこう。
この戦闘において、勝敗にはあまり執着していなかった。負けてもいい。そんな風にさえ思っている。冷静に考えれば悪手なのだろうが、今の私にはどうでも良かったのだ。
「――――ひっ!?」
周回している騎士の中から、ナイフを持ったアバターに白羽の矢を当てる。両腕の姿勢を解いては、私は甲高い悲鳴を鳴らした男へ掌を差し向けた。
狙われた、と理解した騎士が慌てて迂回しようとする。それを遅れて認識した私も彼の軌跡を追った。
一歩、二歩、ゆっくりと進む。開いた指先をアバターに近づけていく。
「させるかああぁぁぁ!」
黒金色の鎧に身を包んだ騎士が、真横から突撃してきた。ガシャ、ガシャ、と騒音を刻みながら私の伸ばした腕に接近する。浅い円錐状に尖らせた盾を構え、鈍く光った黒色の軌跡で疾走していた。
こっちの方が速い。こっちにしよう。
私は前方に押し出していた掌を引き戻し、大振りに弧を描いた。角度を変えた瞬間に地形に少しだけ着いてしまう。その時、物体を消し飛ばした感触があった。
思い当たったのは直前の動作だった。私は消滅させる球体を蓄積させては、必ず発射する様にしていた。しかし、溜めていた球体は未だに放っていない。もしかしたら、掌に残っていたのだろうか。
撃ってから数秒しか突き進まない球体だが、自分から離さなければずっと有り続けるのかもしれない。
「は……っ? ちょ……待――っ!」
厳つい騎士との衝突により、私の想像は確信に変わった。掌と騎士の間を遮っていた盾を白い球体が抉り、そのまま身体の半分を消滅させたのだ。
勢いを失くした騎士がうるさく地面に落ちる。
肉体を食らった掌の輝きは徐々に落ち、やがて球の形を保てなくなった。最終的には虚しく発散する。ただし、維持していた時間はこれまでの最長を記録していた。目新しい発見である。
「…………」
気付くと、周囲を走行していた騎士が止まっていた。騎士の一人を防具ごと消し飛ばした事により、呆然としている様だった。
「止まるなあ! 捕まるぞおおおぉぉぉ!」
リーダーらしき男が声を大きく響かせる。だが、消滅能力の要領を掴んだ私の前では遅すぎた。
地面の上で棒立ちになっていた騎士を、未使用だった掌で垂直に押し潰した。消滅の影響は地表にまで及び、白い光が影の中までも抉っていった。合計、五人。最初に揃っていた人数の半分は身体の部位を失くしている。
「ウィルガァアアアアッ! く……そぉぉおおおっ!」
残存者に指令を飛ばしていた男が、遂に私の方へと走り出した。残りの人数は少なく、特攻を選んだのだろうか。彼の背後から、更にもう一人が勢い良く地面を蹴っていた。
二刀流を用いるリーダー格の男と、短い槍を手にした長髪の少年。それらの身体が近付くにつれ、私の掌に灯った光も膨張していく。
「――――あ」
喉から一欠けらの音がこぼれた。
重く、太い腕を私は振りかざす。暗黒の残像が上肢を追って浮かんでいく。球体から放たれる輝きと体表から曇る闇が混じり合い、走る騎士達と接触する。
――筈だった。
「せいやっ!」
どん、と鈍い打撲音が唸った。
「っ!?」
何処からか飛んで来た明るい橙色の炎が、消滅の光を宿した私の腕に激突したのだ。
炎の衝撃により勢いは落ち、私は逆に押し返されてしまう。力んでいた指先も思わず開いてしまった。集中が途切れた。消滅の光球は形状を維持出来なくなり、やがて掌から霧散してしまう。
「……これじゃあ、ダメっすか」
私の腕を押し返した炎は人の形をしており、人の言葉を吐いていた。しかも、私より幼く見える少女ではないか。十代なのは間違いない。こんなユーザーが戦闘を好む騎士団に入っているとは驚きだった。
「皆! こいつとはまともに戦っちゃダメっすよ! 今は逃げるっす!」
おかしな口調で少女が命を飛ばす。先刻まで作戦を指示していた男と比べると、煌びやかな外見故に指揮官としての貫禄にかけていた。
彼女は妖精使用者――火の精であるランタンのアバターだ。両手両足を揺らめく炎で飾っており、華奢な肉体は薄手の軽装で覆っている。腰元から下がった布付きの防具が、スカートの様に宙を待っていた。可憐、という印象が強い少女だ。
「し、しかし! 仲間が何人もやられたんですよ! このまま引き下がる訳には――!」
損傷を救われた二刀流の男が、火の妖精に食って掛かった。見た目からして男の方が少女より年上である。敬語を用いているのを、私は奇妙に感じた。
だが、その疑問はすぐに晴らされる。
「隊長命令っす! こいつと普通に戦ってたら、周辺そのものに被害が及ぶっす! 力押しで戦ったらもっと被害が大きくなるっすよ!?」
……何だって…………?
私は耳を疑った。このランタンの少女が、名高い隊長の一人だと言うのか。銀髪の美青年や妙な二つ名を持つ騎士ならばニュースで見かけた事がある。だが、彼女の様な人物は私の記憶に残っていなかった。抜擢される隊長の数は十二人にも及び、半分は知らない。だが、それを差し引いても女の子に務まる様な地位だとは考えられなかった。
見かけから下した判断。その先入観が間違いだと、私はすぐに思い知らされる。
「増援もあと少しで来るのでしょうっ!? だったら、ここで粘った方が――」
「うわー! 言っちゃダメっす!」
二刀流の男による指摘に、ランタンの少女が焦りを見せた。遅れて、発言した本人も柄を握った手で自分の口を塞いだ。
ここに来るのだ、増援が。
そう理解した途端、私の足は少しずつ後退しようとしていた。
騎士達は普段よりも大人数で行動していた。そこに隊長格のアバターが混じっているとするなら、囮だと考えるのが妥当だった。騎士を襲撃したのは今回で二度目。そんな期間で悪夢となった私への対策が立てられていたのだ。
「――クッ」
私の消滅能力は不意撃ちでこそ真価を発揮する。非常にゆっくりとしている発射速度では避けるのが簡単だ。掌に宿したままでも、戦闘に不慣れな私では限界がある。団体を追い詰めている現状も、突然の襲撃だからこそ為し得ていた。意欲の高い増援に駆け付けられたら、逆転されてしまうのが目に見えていた。
……元から勝ち負けには興味がない。けれども、分かっていながら相手の策略に乗ってやる程の心構えでもない。
逃げよう。今日はここまでだ。
「くそ! 待ちやがれっ!」
左右の手で剣を構えた男が追ってくる。軽快な足取りが連なって打ち鳴らされていた。
地面から伸びる円柱の大半は、私の攻撃によって抉れていた。一直線に走る騎士の姿を遮る物は何もなかった。逃げている間でも消滅させる光球は作り出せるので、私は最後の攻撃に備えて間合いと頃合いを見計らった。
「危ないっす!」
隊長と呼ばれた少女の手から橙色の炎が飛ぶ。サイズは小さいながらも、燃える弾は十個程度の数に及んでいた。
ヒュン、と大きな火の粉が飛来する。それらは黒い腕に命中して、複数の爆発を巻き起こした。バ、ババン! と。
…………ずれた。今のでっ?
発射しようとしていた光球が思わぬ方向へと移りゆく。小規模かつ複数の爆破によって狙いを外されたのだ。
妖精使用者は武器と魔法の両方を利用出来る。火の精であるランタンが、火属性の魔法を使っても不思議ではなかった。だが、その扱いの絶妙さには舌を巻かれる。
予想の道筋より右にずれた球体は、接近してきた男の左手を剣ごと奪っていった。
タタタタッ。
地面を叩く足音が消えない。消滅させた部位が小さすぎたのだ。一刀流に減らされた騎士との距離は未だに詰められている。
このままでは、まずい。
攻撃される!
「あ……ァア!」
戦闘にて声を怒らせたのは初めてだった。身体を男から遠ざけながらも、もう一方の掌で迎え撃とうとする。光球は同時に溜め始めていたので、連続で放つ事が可能だった。蓄積した腕自体を振り回すので、魔法による妨害も受け付けないだろう。
「うぉおおおおっ!」
隻腕と化した騎士が叫ぶ。
残念だが、私の方が少しだけ早かった。剣が届く前に、私の掌が男の身体を消し飛ばしてしまうだろう。逃げている最中であっても一人は消す。その結果は初心者である私の強さを言い表している様で、気持ちを酷く高ぶらせた。
さあ、これで―――
―――っ?
突然、目の前にあった景色が下方へと落ちた。世界の底が抜けたかの如く、落下する感覚に抵抗出来ない。
重心が崩れ、私は背後に転びかけた。
短い停滞。
その一瞬で騎士は懐へと飛び込み、裂帛の気合を発する。
「はぁ!」
鋭い烈風が私の身体を駆け抜けた。左肩から右腰にかけて刃が振り下ろされていた。
「……う、アアぁァアアッ!」
損傷率の変動が表示され、私は底なしの恐怖に襲われた。何が起こったかを確認する余裕も持たず、無心で腕を突き出す。思い描いた軌跡を徐に追って、黒く膨張した掌は男を弾き飛ばした。
私に傷を付けた騎士は一直線に距離を離していった。低空飛行を引き伸ばし、やがて遺跡の床面へと激しく転がり落ちる。こういう使い方も出来たのか、この腕は。太くなり、固くなったのだ。殴ると言う選択肢は、省みれば平凡な結果である。
「…………!?」
足元を見下ろし、隙を生むきっかけを探す。私が踏み入れていたのは、自分自身の能力で浅く抉っていた場所だった。転ぶ程の段差はない。足を引っ掛けてしまった原因は、罅割れによって不自然に変形した出っ張りである。
他は滑らかに削られているのに、そこだけが割れていた。私は若干の思考を巡らせ、最後に恐ろしい結論に到達した。
「――――ッ? ぁ……!」
隊長であるランタンの少女に視線を返し、唖然とする。彼女は炎の形をした爆弾を幾つか私に当てた。だが、その全てが命中していたかは確かめていない。もしかしたら、一つや二つは太い腕から逸れていたのかもしれない。
そして、当たらなかった炎の弾は私の逃亡経路に落とされたのだ。
「……ちえっ! やっぱり浅かったすか。こりゃ、本格的に無理っすね。ほら! 早く逃げるっすよ!」
少女が私に殴り飛ばされた男を起こす。いつの間にか他の隊員も周辺からいなくなっていた。二刀流だった騎士だけを意識し過ぎたのだ。
「……ふっ! くらっておけっす!」
ランタンの手から火炎の波が広がり、私に覆い被さろうとした。両腕を前方で交差させて受ける。損傷は然程に響かなかった。これは視界を奪う為に放ったのだろう。炎が燃え盛る音と光で向こう側の景色が全て遮られていた。
これ以上の追跡は私にとってかなり危険だ。相手が二人だけでも、隊長の補佐によって傷を付けられたのだ。増援まで相手にはしていられない。私は大人しくマイルームへと戻る事にした。
暴れていた跡地から少し遠ざかる。悪夢となった状態ではシステムの操作性が落ちてしまうので、全身から力を抜く。ウインドウを呼び出し、転送の欄を指で押す。
瞬く間に周囲が白い部屋へと様変わりした。
もう大丈夫だ。素を晒そう。
「………………ふう」
そう念じると、全身に纏わりついていた闇が静かに消滅した。光沢のない黒色の肉体から解放され、私は一種の爽快感を覚える。
「今日は、危なかった」
額を思わず拭う。システムウインドウに映った中性的な私の顔が汗など掻いていなかった。それでも、そんな仕草をやらなければ心は落ち着かなかった。
室月日々貴――リュネが悪夢として戦ったのは、これで三度目。今回は反省すべき点が多かった。不用意に戦闘をしかけたのは裏目だった。次はその場の人員だけではなく、伏兵の有無にも気を付けねばならない。
「…………次、か」
無意識に漏れ出た言葉に、私は鋭い笑みを浮かべた。
窮地に追い込まれかけたとはいえ、六人の騎士に痛手を負わせられたのだ。最後の一人には反撃を受けたとはいえ、初心者という点を考えれば素晴らしい成果だった。次の戦いはもっと厳しくなるだろうが、それに応じてより多くの肉体を消せる。私自身捻くれた思考だったが、とても楽しみに思っている。
――だけど、最後にはどうしても虚しくなる。
室月日々貴という現実の喪失感を、E・Dという仮想世界で埋め合わせている様だ。決して正しくない方法で。他人も同じ状況に追い込んで。損傷率の不変が免罪符となり、私の犯罪を後押ししている。それが原因なのか、どれだけの肉体を消してもリュネとしての心は決して満たされない。
あの事故の日から、私の夢は永遠に無くなってしまったのだから……。
MMORPGを殆どやった事が無いです。しかし、なるべくそれっぽさを出していきたいと思います。次回は最低一週間後には更新する予定です。




