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《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》② ”再会”

久しぶりなキャラが登場します。新年になってから初の投降です。(E・Dに関して) 時間を空けてしまい申し訳ありませんでした!

《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》


 三原茜が傷心していたのは、何となく察せられた。元々は俺がきっかけで始まった部活なので、その活動中の傷も治してあげたかった。


 だが、俺には誰かの為となる語彙が圧倒的に不足していた。学校では特に困らなかったので、学ぶ機会自体がなかったのだ。それが今になって痛手になるとは。茜――ユリアが部室へ来た時、どう声をかければいいだろうか。

 ギルド用の組合所、及び「ドリー部」の部室。俺は椅子に腰かけながら、呆然と考え事をしていた。中身は聞き取りの失敗についてだ。誰とでも仲良く出来る彼女なら、どんな人にも対処可能だと思っていた。

 その考えが根拠のない空想だと、俺は数時間前に痛感させられている。取り付く島もない相手では話が通じなかった。一階で待機していた俺達の元まで声が響き渡ったのだ。直接に拒絶された部長はかなり衝撃を受けたに違いない。


「…………その顔は女について悩んでいるな? 堅物のお前が珍しい」


 背後からの質問に俺は頷いた。

「そう思う。……でも、解決策が見つからない」

「アドバイスをしてやる。下手にカッコつけんな。遠回りをしてもいいが、似合わない飾り付けはお勧めしないな。女は男の意外性に惚れやすいんだが、それはあくまでギャップに限る。……要するに、嘘はいけないってことだ」

「そうか。――召喚コール


 俺は頷いた直後に呟いていた。

 右手を突き出して、呼び出された大剣を掴む。そして、身体を半回転させて黒い刃を一気に振るった。

「ぐぉっ!?」

 全身に制動をかけて大剣を停止させる。漆黒の刃先はあるアバターの首元で止まっていた。触れてはいない。だが、俺が力を込めればその頭は簡単に地面へと転がるだろう。それを理解した上で、正面に居る男は乾いた顔で笑いかけてきた。


「…………あ、相変わらずだな。クリム」

「こちらの台詞だ。どうしてここにいる、マーディ」


 E・Dにて公認された唯一の治安維持組織、《月華の騎士団》。そこには所属する騎士達をまとめる十二人の《円卓の騎士》がいる。目の前に立つ銀髪の美青年も、その内の一人だった。拳銃使いのマーディ。騎士団の中で最も美形な騎士であり、俺のかつての相棒でもあった男だ。

 整った目鼻に沢山の汗を掻く美青年。そんな様子に少々の安堵を抱き、俺はそっと大剣を降ろした。

 ――油断した。普段は音響で死角の接近者も探知出来るのだが、今回は考え事に熱中していた。しかも、声を聞いても即座に反射が働かなかった。未だに騎士団として活躍していた癖が抜けていないのだろう。

「お前に会いに来たんだよ。久しぶりだな。元気にしてたか?」

 見飽きた美形が破顔する。いつもと同じ輝く様な面容だったが、冗談めいた感情が読み取れた。マーディは無理をしている、と直感が働く。

「取りあえず武器をしまってくれないか? ちょっと長い話があるんでな」

「…………っ」

 口が自然と開き、要望を押しのけた質問が飛び出そうだった。まず、俺は元相棒のこいつに部室の存在を教えていない。どうしてここに来られたのか。こちらは少しだけ予想が着いた。

 問題は、次だ。マーディは今回に限って長い灰色のマントを被っていた。背面から前面にかけて布に覆われている。美顔だけを外気に晒した、奇怪な格好だったのだ。その格好には何の意味があるのか。

「ここに居るのはお前だけか? もう一人の部員……嬢ちゃんはどうした?」

 ユリアの事を指しているのだろう。実際は三人で構成されているのだが、マーディにはそれを話していなかった。

 部室を見渡すマーディが把握していないアバター、シャロ。彼女はかつて騎士団相手に大暴れした悪夢である。三原茜――ユリアが部活創設前に大抵の事情をこいつに明かしているのだが、シャロはその後に「ドリー部」へと入部していた。騎士団を抜けた俺もマーディとは殆ど連絡を取らなかったので、知る由もないのだ。

 ……だが、下手に言うのもまずいか。妙な因縁をつけられても困る。

 俺は無難な言葉を選び、部員の行方を口にした。

「ユリアは出かけている。すぐ帰って来ると思うが」

「そうか。……嬢ちゃんが居てくれた方が、俺的には助かったんだけどな」

「何だと?」

「変な意味はねえさ。こういう話は、部長さんにも通しておくべきだと思ってな」

 マーディの意味深な発言を受け、俺は嫌な予感を覚えた。おふざけが紛れた様子を繕っているが、やはり警戒を抱かずにはいられない。部長であるユリアは以前の悪夢事件で関わったとはいえ、基本的には一般のユーザーだ。それに、現役の騎士であるマーディが彼女に依頼をするとは考えにくい。

「…………」

 いつの間にか、俺は怪訝な表情を浮かべていた。

「へへっ。断罪裂剣が他人を心配するなんてね。あれか? 惚れちゃったのか?」

「……違う」

 脈絡なく振られた話題が、胸の奥にあった不信感を更に強める。《断罪裂剣》の名を通常時に使われるのを俺は好んでいない。マーディも熟知している。口にする時はからかう様な場合だけだった。

 真面目な顔で俺の二つ名を言う。矛盾したその言動が並々ならぬ予感を生み出した。


「た、だ、い、まー!」


 盛大な声音が唐突に響き渡った。俺とマーディは入口の方を振り返り、声の主を目視する。

「あれ、マーディさん?」

 首を傾げて入って来たのは、金髪のメイド服を着た少女だった。有名な美青年を前にして目を白黒させている。E・Dでの警察とも言える騎士を前にしても、彼女には怯える様子が無かった。

「よう、嬢ちゃん。久しぶり」

「はい。久しぶりですね」

 二人が微笑みながら挨拶を交わす。だが、その背後では小さなアバターが一目同然に身震いしていた。

 ……ああ。

 シャロは悪夢としてマーディと対峙した事があったな。あの時は黒い闇に全身が包まれていたから、すぐに正体はばれないだろう。しかし、シャロ本人の性格が問題だ。

「…………は、はははは初めまして」

 やはり、盛大に動揺していた。唇をカタカタと震わせ、マーディの顔さえ直視出来ていない。これでは何かを察せられるかもしれない。

「あ、この子はシャロちゃんです。私達の後輩なんですよー」

 ユリアがすかさず紹介を挟んだ。二つの猫耳が立った頭に手を乗せて、シャロを脇へと寄せる。目を伏せて顔を赤くしている後輩の狼狽に反して、彼女のさり気ない仕草がそれを相殺していた。


「へえー。もう一人いたのか。…………ん?」

 瞬間的に、マーディの整った瞳が鋭くなった。

「あれ? 部員が三人だって知らなかったんですか? ……もう、クリムったら。それも説明しなかったんでしょっ。マーディさんって相棒だったんでしょ? ちょっと水臭いんじゃないの?」

「う……」

「おお、そうだそうだ。そいつは水臭えよなあ? 酷いぜ、クリム。俺達の仲だろう?」


 もう会う機会もないから、言わなくていいだろうと思っていたんだが。そこを、俺の方が責められるとは考えもしなかった。いつの間にかユリアとマーディの視線が向けられている。俺は「すまん」と小さく呟いた。

 横目で、シャロが胸を撫で下ろしている姿が見えた。ユリアによってマーディの興味から背けられて安心したのだろう。これが彼女なりの気遣いなのか、自然体での成り行きかは分からない。けれども、会話する力というものを改めて実感させられた。

「…………それじゃあ、これで部員は全員そろったのか?」

 俺の謝罪を見届けてから、マーディが不意に言い出した。

「へ? ええ、まあ」

 部長の肯定と同時に美青年の顔付きが険しくなる。冗談を切り落とし、真面目な顔付きへと研ぎ澄まされていく。

変貌した面容にシャロが唾を飲み込んだ。ユリアは息を詰めた気配を放ち、俺は瞳をすっと細める。


「聞いてくれ。……約一週間前。ある会場で演奏会が開かれた」


 マーディの話に、俺達は全員が息を詰めた。似た様な話を、現実でも聞いたばかりだった。

「そこで事件が起きた。会場に来ていた演奏者、観客が一人のアバターによって大きな被害を受けたんだ」

「…………っ」

 騎士団が関与した、と確かにあの先輩は言っていた。だが、こうして面と向かって告げられると動揺してしまう。

「これはE・Dの管理者から直接に緘口令がしかれてな。一般には漏れていない話だ。ネットで検索すれば噂ぐらいは出て来るかもしれない。……だが、明りが消えていた時に襲撃されたんでな。現場に居た目撃者は…………そいつの正体がよく見えなかったらしい」

「…………アバター自体が、見えづらかったのか?」

「ああ、そうだ。察しがいいな」


 確かに演奏会で暗くなるのは自然だろう。だが、証言が濁る程ではないだろう。ステージでは演奏者を照らす為に光源が確保されている筈だ。正面が明るければ、多少の姿は認識出来る。咄嗟の出来事とはいえ、情報が曖昧になるのはおかしい。

 それに管理者の対応も不自然だ。匿名性が高いこの世界では人格の攻撃性が悪化しやすい。誰かが暴れる、という事件は少なくもないのだ。その為に管理者は騎士団という治安維持部隊の権限を認めている。世界全体のバックアップも日夜更新されていると聞き、E・Dの安全は充分だ。

 では、管理者は何を隠そうとしている? どうして、襲撃者の目撃情報に違和感を覚えるんだ? 

 これらの答えは、もう見えている。


「ちょ、ちょっと待ってください。あの、もしかして…………また」

 ユリアの眼光が不安げに曇る。開いた瞳をマーディに合わせながら、俺達の中で燻り始めた予感を口にした。

「――――その通りだ、嬢ちゃん。また悪夢が出現したんだ」

 美麗の騎士が下した宣言に、俺は少なからず衝撃を覚えた。

 システム的な問題を引き起こしつつ、暗い場所では見えづらい相手。それを、俺は知っている。正確には、かつての経験を連想したのだ。当時は都市伝説で済ませられており、目にするまで気にしてもいなかった。事件も無事に解決しており、今後は関わる事もないと思いこんでいた。

 だが、悪夢が出たというなら、管理者が口を出したのも分かる。二度目の出現は都市伝説では流石に収まらない。彼等はE・Dの運営に支障をきたすと懸念し、話が飛び散らない様にしたのではないだろうか。

 ユリアやシャロも悪夢という単語に顔を引き攣らせていた。特にケット・シーの後輩は悪い気分なのだろう。かつて暴れた悪夢の正体をマーディに知らせなかった事が、今になって裏目に出たかもしれない。

 そんな思いやりの最中にも、現役の騎士が話を進める。

「そいつは三日間前にも現れた。しかも…………俺達、騎士団の前にな」

 そう言い終えた後に、マーディが今まで羽織っていたマントを脱いだ。灰色の布は床に広がり、その下から隠れていたアバターの身体が露わになる。

 右腕が前へと伸びた。ゆっくりと、見せつける様に。


「情けないが、俺もやられちまった」


 はは、と乾いた笑いをこぼす。そんなマーディの右手は、どこにもなかった。手首から先が削られていたのだ。右腕の途中で黒く濁った断面が、マーブル状の入り混じった模様を蠢かせている。かなり異様な光景だった。

「これは……!」

 傷跡を凝視し、俺は自分の目を疑った。

 例の相手と対面したのは三日前と言っている。最低でも一度は退場をする期間だ。E・Dでは入退場を挟めば、アバターに起こった異常は完治する。マーディが襲撃者から食らった傷がまだ残っているのは、明らかにおかしかった。

 だが、この矛盾は朦朧としていた推測を確かな物とする。通常ではありえない攻撃。それを可能とするのは、やはり悪夢しかいない。

 俺は既に得ていた情報を、低い声で形にした。

「敵は……物体を消滅させる力を持っているのか? しかもログアウトをしても傷跡が治らない」

「随分と話が早いな」

 マーディが真っ直ぐに視線を重ねてくる。次にこいつが言おうとする内容も、自動的に連想出来た。



「もう分かると思うが、そこでお前に頼みがあるんだ。会場での暴走、騎士団への襲撃。この二つをやったアバターを……クリム……お前に倒してもらいたい」


来週の日曜午前一時位に次話を更新する予定です。

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