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《E・D内部/???=?? ???:視点》②―《現実世界》⑥ ”依頼”

ようやく本題に入りました。これで第二章は一応終わりです。

《E・D内部/???=?? ???:視点》

 私は底なし沼に沈んでいた。

 光も届かず、果てが見えない。地の底へと落ちているのだろうが、ここに限りがあるとは思えなかった。透明な重力の糸に引っ張られて、永遠に降りていくのだろう。

「…………あ」

 闇色の泥が身体に纏わりつく。記憶が脳裏をよぎる。嫌な思い出ばかりだった。皆が私へと向ける期待が重りとなり、答えられない自分の身が穢れている様に感じる。

 ――ごめんなさい。

 深みに陥ったせいか、全身に軋みを感じた。泥による圧力が苦しい。

 ――見捨てないで。

 もがいて叫ぶ。けど、私の声を聞いてくれる誰かは何処にもいない。

 ――私は、頑張った。

 弁明を吐き散らして救済を望んだ。望まれる結果は得られずとも、過程に問題は無かった筈だ。心の底から同じ成果を求めたと、それらの道程で示している。日の光を浴びられる暖かな水面へと浮き上がりたい。

その為にも、私は訴える。

 ――出来なかったんだから、仕方がない。もう挑むのは嫌だ。お願いだから、誰か私を助けて。私は……もう………………。

 芽生えた思いを形にすると同時に、黒かった筈の景色に光が差した。正確には、より澄んだ漆黒が私を覆ったのだ。濃淡の差が際立ち、世界に光明が振り撒かれていた。

「そう、だ……。私は」

 どうして忘れていたんだろう。私が手にした力を。そして、その力を使って何をしたのかを。この深淵に辿り着いて、胸が苦しくなって、逃げ出したくなって、やっと完璧に思い出したんだ。

 視界が闇に覆われた。足元も認識出来ない中、私は両手をゆっくりと伸ばしていった。地獄へと続いていそうな、頭上へ。

 続いて、黒い光が掌から溢れ出した。奔流した闇は、周囲を書き換えていく。

 ――あの日、私は。

 身体中に闇が満ちていくのを感じた。心も、鉛の如く冷たさと重さを帯びていった。思考の隅にこびりついていた淀みが分からなくなる。その異物が私を支配していたのだ。

 出ない声を絞り出し、私は口を開く。


「私は…………悪夢になったんだ」


 夢が、真っ暗になって反転した。




《現実世界》

 爪先を立てて、三原茜が目の前の掲示板へと背を伸ばす。その手には一枚の用紙が握られていた。部活に関する情報が書かれている。澤野碧による計らいで、学校からの許可を示す印も刻まれていた。

「よいしょ……と」

 特殊加工の掲示板にぴったりと裏面をくっつける。静電気による磁力が板面に触れた部分を引き止めた。指先を離しても色鮮やかな用紙は落ちてこない。

茜は小さく下がり、見栄えを確かめる。

「うん。オーケー」

 茜にとっては満足のいく位置だった。貼った本人の視線よりも少し高いが、男女含めた平均的な場所を取っていた。明るい色を使って興味を引く工夫も施してある。周囲に並んだ宣伝用のポスターにも負けてはいなかった。

「じゃ、行こうか。湊君」

「ん」

 部長に付き添っていた副部長の少年が同意する。影を薄くしたまま、茜の軽い足取りに付いていった。

 澤野碧との顧問を契約した翌日。

茜達は颯爽と活動していた。生徒会などに部活の存在を認知させ、宣伝を公とする。その手伝いに湊も借り出されていた。後輩である結那は依頼人の来訪時に備えて待機してもらっている。部室で二人の帰りを待ち詫びていた。

「気が早いかな、私? 依頼人があれで来ると思うと、嬉しいんだよね。部活にもやっと《ドリー部》って名前が付いたし」

「う、うん…………」

「ちょっと。どうして顔を伏せるのさ?」

 湊は気まずそうに茜から視線を逸らしていた。問い詰められても答えられなかった。「ドリーム」と響きが似ているから「ドリー部」。そのセンスに判然としない気持ちを抱いていたのだが、何も言えずにいた。

「……ま、いいや」

 疑問は瞬く間に消え、茜は満ち足りた表情で階段を上がっていく。口を閉ざした湊が遅れてその軌跡を辿った。

 放課後の校舎は昨日と同様に静かだった。二人の上がる足音だけが耳朶を打つ。部室がある階にはすぐに到着した。

「…………ん?」

 段差を登り切った茜が首を傾げる。部室へと続く方角に顔を出しては、その目線を固定させた。

 急な行動に、湊が何事かと立ち止まる。背後で詰まった彼に対し、茜はひっそりと、尚且つ弾んだ声音で告げた。

「部室から…………話し声が聞こえる」

 湊も茜の横で顔を覗かせた。発生源は結那が居る部室だった。聞き覚えのない男性の声が廊下の外まで響いている。低い談笑気味の声を聞き取り、二人はお互いに目線を合わせた。

「誰だろう? 結那ちゃんの友達、なのかな?」

「…………ん?」

 湊は同意しかねた。茜よりは彼の方が結那の思考に近しい。そんな湊からすると、異性の友達などもっての外だった。友好の輪が広い部長には居るのかもしれないが、湊や結那といった人種は同性の友人さえも厳しい。要するに、友達は縁遠い存在なのだ。

 廊下の角で佇んでいても、結論は出なかった。

 謎を抱えたまま、二人が当初の目的地へと達する。男性の肉声は近づくにつれて太くなっていた。

「……帰ったよー、結那ちゃん」

 がら、と茜は部室の扉を開ける。

「せ、せ、先輩…………!」

 第一声は結那による不安気な返事だった。

「おー、ようやく帰ってきたか」

 続いて、明瞭になった男性の声が扉の方へと放たれた。湊よりも数段は低く、気勢に満ちている。椅子に落ち着けていた大柄な肉体も相まって、鍛え抜かれた偉丈夫の印象を茜と湊に与えた。

「えっ……と」

 探る様に茜が口を開く。彼女の知り合いでもなかった。勿論、湊が知る人物にも当てはまらない。

「あ、あの……! い、い、いいいい依頼があるそうです……っ」

 言葉をどもらせながらも、結那が真っ先に説明をしてくれた。部室を訪れた男性を正面に座らせて緊張していたのだ。この時の為に彼女を配置していたとはいえ、人見知りが激しい性格である。慣れない事態を前にしてかなり焦っていた。

 先輩が戻ったと知り、結那の発汗が収まっていく。そこから先は茜が会話を引き継いだ。

「部長の三原です」

 亜麻色の髪を揺らして彼女が挨拶を交わす。

「俺は三年の高森。高森、燈哉だ。ちょっと訊くが……ここってE・Dの事なら何でも解決してくれるんだよな?」

 真っ直ぐに直立して名乗りを挙げた生徒の上靴は、湊や茜とも色合いが違っていた。一番上の学年を示している。

 彼はやけに背が高かった。身体つきや肩幅も逞しい。少し立った黒い短髪や太い眉などから力強さも主張している。軽く崩れた着こなしも人格の豪放さを表していた。茜の傍に佇む湊とは全てが正反対な先輩だった。

「はい! 私達で出来る事なら、何でもしますよ!」

 茜命名、「ドリー部」は活動内容を具体的に決めていなかった。E・Dに関する問題を解決する。それだけが宣伝文句だ。モンスター退治の手伝いや、人間関係の修復など。他者からの干渉が難しい活動だけが茜達の拠り所であった。

 けれども、彼女は満面の笑みで応じている。初めての依頼者という事で歓喜しているのだろうか。自然に頬が緩んでいた。

「ポスター見てみたんだが…………まあ、その……」

 高森燈哉が微かに言い淀んだ。

「藁を掴むような思いで…………!」

 両目を強く瞑り、彼は何かを決意した。少しずつ瞼を開けていき、鬱屈した声色で初の依頼を口にする。

「お前達に……人? 探しを頼みたいんだ……」

 歯切れの悪い発言だった。湊が眼鏡の奥にある瞳を細める。

「人探し、ですか?」

 一方の部長は字面通りに意を汲んでいた。だが、高森は口の端を歪めては、釈然せずといった表情で訂正した。

「もしかしたら人じゃねえかも。……あ、アバターやNPCとかって訳じゃねえぞ? 何せ、そいつは外見が真っ黒なんだ」

「へ?」

 茜が突然の情報に呆ける。

「…………!」

 高森の話を耳にしていた結那も身を強張らせた。外見が黒くて不明。その発言が嫌に親しみを覚えさせたからだ。

「悪い。俺も聞いた話だからあんま詳しくねえ。こんなんじゃ見つけるのが難しいってのも充分に理解してる。でも…………俺はそいつを……どうしても見つけなきゃならねえんだよっ!」

 話の途中で三年生の男子は声を荒げさせた。野太い叫びが教室に反響する。迫力のある怒号は部長を含めた全員を容赦なく黙らせた。

「……んと、すまん」

 静まり返った空気に、作り出した本人が反省した。頭を一旦下げると、気を取り直して以来の内容を再び告げ始める。

「もう一度、言う。お前達には全身が黒くなったアバターを探してもらいたいんだ。俺もそいつをどうにかして探す。……でも、人手が足りねえ。だから頼らせてもらう」

「そ、それは良いんですけど」

 茜も時間を置いて冷や汗を浮かべ始めた。微笑までは凍り付かせていないが、不安を孕んだ顔色で先輩へと尋ね返す。

「その黒いアバターは、一体何なんですか? どうして先輩はそんなアバターを追っているんですか?」

 尤もな質問が真っ直ぐに放たれた。

依頼者は茜の投げかけに対し、深く息を吐いていた。床へと目を伏せる。数秒の沈黙が教室を重くした。カーテンの隙間より侵入する夕焼けも色を暗くしている。高森燈哉を中心として、世界は無音を帯びた。

「知っているか?」

 最初の返答は、部員達の意識を掠めもしなかった。

「一週間前。とあるコンサート会場で、その黒いアバターが暴れたんだ。ほんの一、二分なんだ。だが、たったそれだけの時間で…………多くのユーザーが被害を被った。魔法とかじゃ、絶対に無理だ。つか、使えない様に設定してあるんだ。それなのに、そいつは妹を! ……他にも大勢の奴を傷つけたんだ!」

 彼は発見対象に並々ならぬ敵意を抱いていた。冷静さを取り繕おうと、話している内に熱意が零れ出している。今度はその勢いが衰える前に、怒りの吐露を急いだ。

「今でも、俺の妹は傷が治ってない。おかしな話だろ? ログアウトをしても元に戻らねえんだよ。騎士団に聞いた話だと、オカルトみたいなのが働いてんだって。はは……。全然、笑えねえ」

 少し離れた場所で清聴していた湊が息を呑んだ。高森燈哉から滲み出る凄味に恐縮したのではない。E・Dにおける超常現象の裏にとある単語を連想したからだ。

「先輩…………その黒いアバターって、都市伝説……の?」

「ああ、知ってんのか。ここでも似た様なのが出たって話だしな。そりゃ、噂ぐらいは聞いてるか」

 部長の憶測が立腹する兄の苦笑を浮かばせた。

 ぼんやりと天井を見上げる高森燈哉。その乾いた唇が、結那や湊にとって忌まわしい単語を紡いだ。



「――都市伝説の、悪夢ナイトメア。そいつが俺の大事な妹の両足を消しやがったらしい」



ここまでで設定などが変わっている場面があるかもしれません。それはすいません。いずれ調整しようと思います。次の更新は最大でも4日後にしたいです。

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