表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/94

《E・D内部/ユリア=三原 茜:視点》① ”誘導”

メリークリスマス。プレゼント代わり? のE・D、最新話です。茜視点から始まります。

《E・D内部/ユリア=三原 茜:視点》


 ――多くの使用者が行き交いする広間。


「あら、可愛いアバターね」

 妖精の一種にして、美形が特徴なエルフにそう褒められた。先生なりのお世辞だと知っていても、やはり嬉しくなってしまう。私は頬を緩め、口元を崩した。

「でも、メイド服なんてマニアック過ぎない?」

 打って変わってきつい批評を下される。妖精使用者のヴェルテ――現実世界の澤野碧はそのまま私を見つめて評価を続投していった。

「みは、…………あなたにコスプレ趣味があったなんて知らなかったわ」

「別にコスプレじゃないですよ、私のは」

 膝上のスカートをくるりと翻して否定する。澤野先生の言う通り、良くコスプレだと見られる事が多かった。でも、私にはそんなつもりがない。派手な部分もあるが、これは母さんの真似をしたかっただけだ。

「私のお母さん……家政婦だったんですけど、幼い頃にどういう仕事かって尋ねたら、メイドさんみたいな仕事だって教えられて」

 私がE・Dを使う様になったのはとても早かった。小学校の低学年ぐらいからは時々と使う様になっていた。そして、お母さん大好きっ子だった私はついついこの様な格好に仕立ててしまったのだ。やっちゃった感は、まあ、ある。

「憧れていた……んですけど、今思い返すと恥ずかしいですね。でも、今から変えるのも面倒くさくて。お母さんも何も言ってこないんで、このままに」

「なるほど」

 先生――もといヴェルテと銘打たれたアバターが微笑んだ。でも、その名前を口にするのはやっぱり難しい。教師の呼び捨てには、どうしても気が引けてしまう。

「先生こそ、凄い美人ですよね。何だかモデルさんみたいですっ」

「そ、そう? そんなに綺麗?」

 はい、と私は再度応じた。

 エルフのアバターが頬を染める。自分の全身を見下ろして、隠しきれない喜びを顔に出していた。褒められたのが、そんなに嬉しかったのだろうか。

「設定に一週間をかけた甲斐があったわ。女子高生に美人と言われるなら、いける!」

 ――やっぱり駄目かも。

 ガッツポーズを取った先生を前にして、私は少し悲しくなった。発言からして切迫していると分かる。独身、という状況はここまで重くのしかかるみたい。大人になるって、大変なんだ。

「あの……」

 しみじみ痛感していると、背後から頼りにない声がかかった。

「あ、シャロちゃん」

 振り返ったら、一人の妖精使用者が又もや目に飛び込んだ。こちらは後輩の見慣れたアバターだ。可愛くて、もふもふしたくなる猫耳が特徴の猫妖精ケット・シー。そんな外見と本人の内向的な性格が小動物の如き魅力を引き出している。

「……えい」

 やっぱり耳を触ってしまう。出会う度にやっているが、止められない。病みつきになる感触だった。

「先輩…………くすぐったいです」

 シャロもとい現実の芳野結那が訴えた。私はすぐさま手を離す。ちょっと名残惜しかったけど。

「ごめんごめん」

 そして、今度はエルフの方へと正面を回した。シャロちゃんに腕を伸ばし、部活の一員を紹介する。

「あ、先生。こっちが後輩です」

「ええ。知ってるわよ」

 端麗な顔立ちを先生が頷かせる。保健室で既に聞いていたのだろうか。それ程驚いてはいない。普段からあまり喋らない結那ちゃんを熟知しているのは、さすがだと思った。

「それで? もう一人は何処に居るの?」

 先生が首を傾げて尋ねて来る。その質問は私の苦笑いを引き出した。

「もう来ていると思うんですけどね……」

 周辺を見回し、彼の姿を探す。

 養護教諭、澤野碧とのE・Dで待ち合わせる事となった今日。私達は部室がある第四総合組合所と呼ばれる施設に集まっていた。ここは他にも沢山の団体――いわゆるギルドが揃う。モンスター退治のクエストで集まる様な寄合所として機能しており、内部には幾つかの売店も入っていた。

 そこに私達の部活は「何でも屋」みたいな名目で部室を構えた。学校の方にも宣伝はしたが、剥がされているかもしれない。今の所、客足はばったりと途絶えていた。

 要するに暇なのだ。

 彼も毎日顔を見せてくれていた。今日に限って何らかの用事が入るとは考えにくい。

「…………まさか」

 私は指定していたフロント前の看板から動いた。周囲を見回し、曲がり角がある壁面へと近づいていく。

「やっぱり」

 影の中に顔を覗かせて、私は呟いた。

「………………っ」

 身を潜めている少年の姿を発見した。ちょっぴりハネっ気のある黒髪だが、外見の印象としては地味な方だ。だけども、何処か近寄りがたい孤立した雰囲気を持っている。私を対象に虚ろな目も光らせている。明らかに警戒されていた。

「こら」

 でも、問答無用。

「何やってるの? もう先生来てるんだよ」

 彼の手首を掴んで引き摺り出す。かつてその部分には防具の籠手が着けられていたけれど、この頃は全くの無防備だった。

「ほらこっち来て。シャロちゃんも来ているのに…………てか、最初に来ていたんじゃないの? クリム」

 私に逆らう事無く、クリムはその姿を晒してくれた。本当は彼の方が腕力は強い。ちっとも鍛えていない私を振り払うのは簡単だろう。

 部長としての権威に屈服したのか、異性への対処に悩んでいるのか。反論の一つもないのが心配だ。でも、遠慮はしないよ。

「…………うぅ」

 クリムが瞳を細めて呻いた。少しだけ頬も赤い。

「諦めなよ、ここまで来たんだから。ほら、あのエルフが先生だよ」

 そう助言してから、彼を澤野先生のアバターへと突き出す。ゴシック調の黒いシャツを着たクリムの足はもたついていた。身体を左右に揺らして、ようやくエルフの正面に立つ。

「あら……?」

 蒼っぽい双眸で寄ってきたクリムを見つめ、先生は首を傾げる。

「貴方……何処かで見た気が…………? 会った……訳じゃない。そう、雑誌で見かけたんだわ。マーディ様の隣に立っていた、騎士の人。確か、騎士団の中でも最強と呼ばれる使用者。――その名は」

 今、「マーディ様」って言ったの? 

 私は見当違いな部分で唖然とする。クリムについての噂は既に知っている。最強と呼ばれる実力もとっくに目の当たりにしていた。寧ろ段々と饒舌になっていくエルフに驚いてしまう。テンションが上がってるなー。うん、女性は何歳になっても女の子だ。

「断罪、裂剣。大剣使いの断罪裂剣、クリム! マーディ様の相棒の人だわ! そんな人がどうしてここに……!?」

 塞がらない口を両手で覆う先生。

 その隣ではシャロちゃんがあたふたと近くの二人を見比べていた。猫耳も緊張に応じてぴこぴこと慌てふためいている。多分、クリムの正体を口にすべきか決め兼ねているのだろう。彼は私に背を向けているので表情までは読めない。だが、後輩の気配り未満からして冷静でないのは感じ取れた。

 仕方がない、私が行くか……。

「先生」

「あ、あか……ユリアさん! どうして、マーディ様の相棒が……。まさか騎士団絡みの事件を起こしたって言うのっ? そして、マーディ様は近くに居るの!?」

「彼が湊君です」

 興奮するエルフを余所に私はネタばらしをした。先生は未だに語勢を維持している。「握手を、いえ、サインを」と言っている辺り、聴こえていない気がする。

「先生、この断罪裂剣のクリムが、鈴夜湊君ですよ」

「…………………………え」

 ぴたり、と先生の動きが止まった。表情も固めて、私に再確認の合図を送る。

「本当ですよ。彼がE・Dで最強とも言われるクリムで……現実における出御高校の湊君なんですってば」

「…………え………………えええええええっ?」

 わなわなとエルフが唇を震わせていく。普通は、そういう反応をするよね。初めてクリムが鈴夜湊だと知った日が懐かしくなった。あの時はこうして彼と部活動をやるなんて想像もしていなかった。一概に楽しいばかりは言えないけれど、それなりに充足感のある居場所だ。部長である私が、守らなきゃ。

 決意を背負い、緑色の髪をしたエルフへと囁きかける。

「先生……。チャンスですよ。ここでクリムと顔見知りなっていれば……いつかはマーディさんとも」

「っ!」

 私の密かな提案にエルフが目を大きく見開いた。

「実は私も何度か会った事があるんですよ……。それも、クリム関係で」

 ここからの作戦は私の口に全てがかかっていた。先生を誘惑し、部活動の顧問というポジションに魅力を持たせるのだ。話すのは得意な方だが、悪巧みには自信がない。内心では失敗するかもという不安の方が多かった。

「彼が居れば危険は殆どありません。……コミュ力はちょっと問題ありますが、それは私でカバーして見せます。これなら、大丈夫ですよね?」

「う……ぐ……」

 先生が言葉に詰まる。背後に糾弾する様な視線も感じた。クリムだろうか。事実じゃん、と胸中で短く反論しておいた。今は目の前にある事がらで精一杯だった。

 更に畳みかけようと、私は声量を上げようとする。


「ですから、先生! 私達の顧問を」

「――こちらからお願いします。顧問をやらせて下さい」


 でも、そんな工夫も途方に終わった。

 先生の方から私の手を握って頼み込んでくる。必死さを真っ向から受け取って、私は思わず身を引いてしまった。本当はこっちが懸命になるべきなのに。先生、そこまでマーディさんに惚れてるんだ。

「は、はい……」

 声を上擦らせつつも私は頷いた。これで部活の顧問は確保出来た。養護教諭の澤野碧。E・Dではヴェルテという名前の妖精――エルフだ。結那ちゃんが信頼しているなら、人間性も確かなのだろう。

「よしっ……! マーディ様に、会えるっ!」

 ぐっ、と先生が拳を握る。

 生徒には背を向けていたが声が駄々漏れだった。女性としては余裕が足りないかもしれない。マーディさんのおっさん臭い性格を知っちゃったら、どうなるんだろう。卒倒しちゃうかも。

「…………帰りたい」

 クリムが小声で言った。顔色も疲れて暗くなっている。他人との接触に慣れていない彼には少々苦痛だったかもしれない。後でお礼を言おう。

 シャロちゃんにも感謝しなきゃ。保健室で先生の趣味を言ってくれたおかげで、こうなったんだから。

 ……何だかんだで上手く回ってるんだよね、この部活。口下手な点がちょっと気になるけど、それはおいおい治っていくでしょ。

 そう考えながら、私は先生と今後について話し合った。クリムやシャロちゃんも最後まで付き合ってくれた。部活の活動や、宣伝方法について。教師の立場か与えられる考えは部活としての成り立ちを大きく広げてくれる。この途中で新たな問題点も明るみに出たが、それはおいおい考える事とする。

 

 色々と参考になった一夜だった。


 加えて、部員の大切さを知った夢でもあった。


余談ですが、碧のアバター「ヴェルテ」はスペイン語の「ヴェルデ=緑」を元としています。しかし、結那のアバター「シャロ」は気分です。ですから、ぱくってなんかないです。偶然です。ぴょんぴょんはしないです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ