《E・D内部/???=?? ???:視点》① ”記憶”
短いですが、更新しました。
《E・D/???=?? ???:視点》
私は、幼い頃から自由ではなかった。いつも家族によって行動を制限されていた。あなたは普通の人とは違うのだから。それが、母から一番聞いた言葉だったのかもしれない。
ベッドで過ごす事が多かった幼年時代。
私はさり気なく壁にかかったテレビを見つめていた。兄から貰った本も読み終わり、暇を持て余していたのだ。天気も雨模様で、他に眺めるものが無かった。母に言いつけられていた通り、教養番組だけにチャンネルを固定している。そのせいで、特に代わり映えのしない内容が続いていた。しばらくして退屈が籠ってきた。
そんな時だった。滑らかな音色が、テレビから流れてきたのは。
劇的に私の興味を引いた。悔いる様に目を凝らすと、茶色い楽器を肩に乗せている演奏家が飛び込んだ。バイオリニスト。新品の黒いスーツで身を包んだ彼の名称を、私は形だけ耳にしていた。しかし、こうして正面から対峙するのは初めてだ。
分かりやすく言うと、彼の演奏はとても素晴らしかった。
子供の私が弦楽器に精通している筈がない。けれども、全身全霊で音楽を奏でる彼に見惚れていた。
「すごい……」
それは正直な気持ちだった。二本の足でステージに佇み、スポットライトの中心で曲を紡ぐ姿。凛としたその姿勢は、音楽に素人な私でさえも引きずり込んだのだ。
番組が終わる頃に湧いた拍手喝采。私の両手もそこに合わせて弱い賞賛を鳴らしていた。
私が音楽にのめり始めたのは、この番組がきっかけだった。
今でもかのバイオリニストに憧れを抱き続けている。会ってみたい。何も持っていなかった私が夢を持ったのだ。
母親や、私を可愛がってくれる兄もその事を喜ばしく思ってくれた。希望を見つけた私の我儘に何度も付き合ってくれた。まともに身体を動かせない私を背負ってまで、沢山の演奏会に連れ出してくれた兄には特に感謝している。
夢を与えてくれたバイオリニストの背中を追っている頃は、とても楽しかった。少なくとも、私にとっては短い人生の中で最も輝いていた。
それ、なのに――。
「やっぱり…………無理なんだ」
私は呆然と呟いた。瞼の裏に黒いスーツを着たあの演奏家が映る。痩せ細った指で幻影を掴もうとしたが、意欲を持った瞬間に消えてしまった。
無いものは、どこにも無い。
絶対の原理が私に突き付けられた。いつの間にか私の身体は真っ暗闇なステージで伏せていた。覚えのある、壇上だ。彼がかつてバイオリンを弾いていた所である。
全身がだるい。筋肉が鉛に置き換わった気分だった。ここには居たくない、と必死に前へと進もうとする。立つ事もままならず、両腕を使って這って行った。
――嫌だ。
声は既に枯れてしまっていた。そして、倦怠感が一層に濃くなる。
――ここは、嫌だ。
やがて左右の腕も石と化した。達磨となった私は、残された視線を観客席へと向けた。スポットライトもないのだが、はっきりと座っている人々の顔を捉えられた。
…………普通なんだ、あれが。
私の視野を埋め尽くす観客達は、誰もが五体満足だった。それを見せつける様に、全員が両足を伸ばして屹立した。余った掌は拍手を起こす。
ぱちぱちぱち。
耳を塞ごうにも、身体が重くて出来ない。胸中で拒絶するのが私の限界だった。
――もう駄目だ。
私は絶叫を撒き散らそうと、歪んだ顔で息を吸う。心は折れ、現実を直視出来ない。誰かの助けばなければ生きられない私に、二度と良い夢は訪れなかった。不自由なれど、相反する賞賛の響きから早く逃げ出したい。
妄想と絶望に満ちた幻を壊そうと、私は叫ぶ。
「――――あ」
その、直前。
一つの左手が、私の前へと差し出されていた。
明日(12月7日1時ぐらい)も更新する予定です。




