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エクステンデッド・ドリーム 《-Ⅲ- Loading Nightmare》  作者: 華野宮緋来
《EN編》第六章「折られた刃、貫かれた心」
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《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》⑥ ”六重の剣”

E・D最新話です。早く投稿出来て良かったです。内容は悪夢対クリムの途中経過となっております。アクション、頑張りました。

《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》

 悪夢が来るまでおよそ四十分前。

 俺の指示で到着したリューゼと言う名の少女は表情に驚きを隠せていなかった。決戦の舞台となる倉庫で待っていた俺を口半ばに開けて見つめている。

 ――まずは、辻褄を合わせるか。

 理由は分かる。彼女の前に居るのが俺一人だけだったからだ。騎士団としての大人数で悪夢と戦ってもらえると考えていたのだろう。そんな希望を折る形で、俺は勝手な単独行動を取っていた。

「他の奴等は悪夢を逃がさない様に周辺で待機している。アイツと真っ向から戦うのは俺だけだ」

 嘘を悟られないよう、自分の言葉にいつもより気迫を籠めてみせた。この自信が大人数の仲間から来ていると錯覚させる。本当は俺しか戦力がないと知られてはいけない。

「――はい。分かりました」

 リューゼは素直に首を縦に振ってくれた。断罪裂剣という二つ名の威力が発揮されているのだろう。有難迷惑な名前だと毛嫌いしていたのだが、こうした場合だけ俺の威信を形にしてくれることは幸いであった。

 俺は彼女と共に倉庫内へと進入した。現在は誰も使っていない倉庫だ。無関係な人間が来る心配もなく、悪夢と決着を付けるのは最高の場だった。

 仄暗い倉庫には沢山の木箱が捨てられていた。拳骨で叩くと箱の中から純粋な振動が跳ね返った。この内部は空だ。適度に強固でもあり、人が簡単に潜める大きさであった。

「じゃあ、俺はこれの中に隠れていよう。君は悪夢が来るまで待っていてくれ」

「は、はいっ」

「いいか? 悪夢は君の……知人なんだろう? 少しでもいいから説得を試みてくれ」

 前回、彼女は騎士団へ悪夢についての情報を打ち明けて来た。その結果として学校と言う公共施設での被害拡大を防げた。客観的に思考すれば、リューゼは偶然にも関係を持った一般市民だと呼ぶことも出来る。

 しかし、俺はこの悪夢事件の裏側で交差する人間関係と直に関わっている。彼女は被害者よりも加害者の立場に近いと分かっていた。

 様子を疑おうと振り返ると、何処か不安そうに身体を震わせるリューゼが目に飛び込んできた。その怯え方は余りにも理想的だった。小刻みに揺れる唇に、人の良心を苛める美しい双眼。その完璧さが逆に不自然さを教えている。

 本物の臆病から見ればとてもわざとらしかった。上手く表現出来ないのだが、俺――僕やあの後輩とはどうしても雰囲気がかけ離れているのだ。

「大丈夫だ。君は悪夢には襲われない。俺が、絶対にあの黒い奴から守ってみせる」

「……はい」

 俺も彼女の事は言えないか。

 クリムの口は心にもない言葉を流暢に発した。鈴夜湊なら胸中での練習を経なければ必ず喉が詰まっていた筈だ。現実での僕とは違う。その事実をはっきりと覚えておこう。

「強い人が傍に居ると、とても頼もしいです」

「ん……?」

 何の話をしているのかすぐには理解できなかった。

「やっぱり、強い男の人には憧れちゃいます」

「そ、そうか」

 俺は思わず冷や汗をかいた。

 リューゼは断罪裂剣のクリムへと媚びへつらっているのだ。彼女は俺さえも自分の手中で利用としていた。随分と腹黒い神経である。それがいじめの実態を長期に渡って隠蔽する秘訣なのだと納得もさせられた。

「そうですよ~。学校のことなんですけど、以前に私をじっと見つめる男の人が居たんです。……それが、本当に根暗で如何にも友達がいないって感じの気味が悪い人でした。……あの視線、思い返しても身震いしちゃいます」

「――――っ」

「あんな人に比べたら、クリムさんはとってもカッコいいです!」

 叫びたくなる衝動を必死に抑え、俺は仮初の感謝を無理して言い切った。

「……ありがと」

「その人……上級生なんですけど、私のストーカーなのかも。……気持ち悪い。私、怖くて。クリムさんみたいな強い人が現実でも私の傍に居てくれたらいいのに」

 後ろで好き勝手罵る彼女は想像も出来ているまい。ストーカー疑惑をかけた上級生と目前を歩くアバターの中身が同一であることを。夢の中でなければ、俺の額には怒りで血管がくっきりと浮かんでいるに違いない。

 …………この女、今すぐ斬り伏せてやりたい…………。

 大剣を呼び出す合図が口から漏れかけるも、俺は危うい所で行動を切り替えた。足を大きく踏み出し、手身近な木箱の入口へと回り込む。

「話は後だ。そろそろ準備をするぞ」

 彼女を傷付けるのが俺の黒い大剣であることは許されない。悪夢の襲撃まで俺が耐えられる確率は低いだろう。俺を籠絡しようとする甘言も、僕を罵倒する暴言も聞くに堪えなかった。

 それに相手は芳野結那でもある。自分と似た雰囲気を持つ彼女が時間通りに到着するとは考えにくかった。臆病なりに俺達を警戒する筈だ。連絡した二十四時よりも早く来ると考えて間違いはないだろう。

 ――そして、その推定はほぼ正しかった。



 ――来たっ。

 暗い木箱に閉じ籠り、俺は悪夢とリューゼの会話に聞き耳を立てていた。彼女達の話し合いは期待より早過ぎる段階で終わった。静かな静寂が流れる。真っ暗な密室では彼女達の様子を窺う事は出来なかったが、俺という伏兵を悟られた訳ではなさそうだった。入口を通何者かが通過した音が響いていないのだ。

 悪夢が無動を破った。音響探知で奥へ向かって地面が蹴られたと把握する。

 ――やる、ぞ。

 決意を燃え上がらせ、俺は大剣を召喚した。「コール」と呟いた瞬間に眩い光が俺の手元を照らした。黒い武器を描きつつある輝きを振りかぶり、木箱の壁へと一気に叩き付ける。

 頑丈だった表面が砕け散った。立方体の置物が並んだ風景が暗闇だった空間に塗られていく。まるで俺の破壊が世界を描いたかの様だった。

 感傷に浸っている場合ではない。俺はリューゼを庇う格好で走り出した。

 悪夢が彼女の胸へと剣を伸ばしている。もう少しで貫ける。しかし、俺の役目はそれを防ぐ事だった。

 びゅう、と細い剣が悪夢の背中へと逃げてゆく。

 俺の目的が読まれ、対処された。それでも動く足は止められなかった。

「悪夢ァァ!」

 奴の虚を突いた手応えがある。二番目に可能性の高い戦法を実施するのだ。

「はああ!」

 気勢を腹の底から吐き出し、間合いを突っ切った。突進での慣性は大剣を回す為の遠心力へと上乗せする。稼いだ距離の分だけ、この威力は増加していくのだ。

 対する悪夢は、大剣の軌道上を幾つもの細い剣で遮った。

「ぁあアアっ」

 更にその小柄な身体が横へと短く飛ぶ。

 柄を握った両腕を振り抜いた。黒いアバターは大剣の突撃に飲み込まれ、軽々と背後へ吹き飛んでいった。

 すかさず、悪夢が背中を木箱へ強打させる。速度を失った影状の身体は崩れ落ち、倉庫の床上で呻き声を上げた。

「立てよ、悪夢。お前とは今日で決着を付けてやる」

 俺よりも若干背の低い悪夢へと挑発を投げかける。主張された優位性が彼女の闘争心を煽っている筈だ。一方で、俺は片手を振ってリューゼを倉庫の奥へと誘導させる。下手をしなければ、これで彼女が戦闘に巻き込まれる事はない。

 肝心の出口を通るには悪夢が邪魔だった。また、向こうの目的はリューゼでもある。彼女が倉庫に留まっている限り、奴は逃走よりも俺との戦闘を選ぶだろう。

「…………」

 流体の影で覆われた口が閉ざされ、悪夢は無言となった。

 それが彼女の奮起に直結していた。背中から生える六つの細い剣がそのうねりを活発にしている。漆黒の体内で俺達への敵意に火を灯しているのだろう。

「アアあぁあ」

 悪夢が地に足を着けて立ち上がった。伸びている六本の触手が後光の如き広がりで闇を放っていた。六つに走る触手は鈍い色を巡らせ、俺へと牙を向ける。

 目を凝らし、俺は大剣を中段に構えた。

 片足を小さく持ち上げる。反対に姿勢は低く下げる。

 だんっ!

 二つの足音が同時に鳴った。重なった突撃は瞬く間に接触へと変わろうとする。俺は真正面に走って来た悪夢の胴体へ大剣を凪いだ。

 細剣が刃の先へと降りて来た。平行な二本の刀身が大剣の色と交わり、小さな火花を散らさせる。微々たる力が俺への腕へと伝道し、半円の振り回しが微かに歪んでしまった。

 ぶつかった悪夢の武器もただでは済まなかった。斬撃の余波で激しく跳ね上がっている。感覚の程度から、二本の防御に大きな力は入れていないと分かった。しかし、弾け飛んだ剣に吊られて細い体も移動していた。

 肉厚にして幅広い大剣が影の黒衣を削る。触れたのは切っ先だけという頼りない部分だけだった。悪夢の欠損率に影響を与える量ではない。

「……ぁ」

 悪夢が腰を大きく曲げた。本来の両腕を降ろし、重心を下へと集中させている。

 あれでは攻撃を避けられないではないか。そう思った時点で悪夢の近傍は動きを始めていた。

「何っ?」

 奴の右横にあった木箱が震えた途端、音もなく宙に浮かんだのだ。

「アアあぁ!」

 悪夢の咆哮が暗い屋内に轟き、頑丈な箱は俺へと投げられた。最初に両断するという考えが閃いた。しかし、木箱の全長は大剣の長さを完全に超えている。斬ったとしてもダメージは避けられなかった。ならば正直に対処するのは愚かな選択である。

 俺はその場を飛び退けた。

 凄まじい速度で落下した木箱がばきゃ、と粉砕される。割れた木片は埃っぽい床上へとぶち撒かれた。巨大な破片は重力に逆らえずに転がっていく。だが、人の拳に納まる位の破片は身を引いた俺を追ってきた。

 片方の腕で目元を隠し、破片で視界が奪われる事だけは防ぐ。代わりにその他の部位は次々と叩かれていった。主として鎧が守っていない下半身に得も言われぬ打撲傷が生まれてゆく。

 五本指の隙間から三本の触手が見える。それらで木箱を持ち上げたのだろう。想定外の使用法を示した黒い腕は悪夢の元へと縮んでゆく。

 ――次が来る!

 最後に確認した奴の腕は六本だった。初撃が空ぶった瞬間に残っていた三本で次撃の装填が終わる。もう一つの木箱はすぐにでも投げられるのだ。

 予想通りに新たな弾が俺の所へ落下しようとしていた。俺の動体視力は放物線を描いて翔けていく木箱を捉えた。

 反対側へと急いで身を移す。初撃目で散らばった破片が足場を奪っているので、木箱を見切った上で最小限の歩幅に抑えた。

 ……そして、三つ目で潰すつもりか。

「ああアあっ!」

 ぶぉ、と木箱が止めを刺しに迫って来た。左右では木片が俺の回避を制限していた。行ける道は前後のみ。悪夢の策略にはまり込んでいると直に感じられた。

「なめるなよ」

 そう言い捨て、俺は大剣を空高くげた。

 木箱の平面と黒色の刀身が並行になるよう角度を調整する。

 堅い立方体が風を切って駆け抜けた。勢いを増す木箱が大剣へと激突し、俺の身体に途轍もない重量がかかる。

「ぐぅ……っ」

 やはり正面から受け止めるのは辛い。食い縛った歯から力んだ声が漏れた。

 この木箱から逃げようと思えば可能であった。けれども、飛び道具を避け続ける状況が好転する訳でもない。敢えて防御することで俺は反撃を試みていた。

「ん」

 膝の屈伸運動で木箱の重力を緩和する。木箱の墜落がしゃがむ動作と一致し、アバターの肉体から負担が消えた。

「のっ!」

 靴の爪先で地面を蹴る。俺は後ろから前へと働く推進力を大剣越しの木箱に伝えてやった。下へと向いていた力のベクトルが俺と言う終着点によって移り変わる。ゴム性の断面で跳ねるが如く、木箱は投擲された位置へと帰り始めた。

 行き着く先は、黒いアバターの頭上。

「――ァっ?」

 悪夢は読みにくい顔面の奥で絶句した様だった。

 背筋を伸ばし、悪夢が前へと駆け出した。投げ返された木箱がその背面で壊れながら転がってゆく。それらの断片によって倉庫の出入り口は埋め尽くされた。急ぎ足で駈け込めば木々を踏み折った音でばれてしまうだろう。

 彼女はそこまで判断した上で進んで来ていた。大剣に物怖じする様子もない。純粋な実力ならば騎士団の上位に食い込む程だ、と俺は心の片隅で感心した。

 ……けど、それとこれとは話が別なんだ。

 俺は名残惜しい気持ちに蓋をし、迫り来る悪夢を打って迎え出た。

 倉庫に悪夢の絶叫が満ちる。

「ぐぅああアアぁぁああ!」

 五メートル未満の距離まで俺に近づいた悪夢が触手を操った。左右に展開された六本が全て振り回されている。最大数での一斉攻撃だ。未知の威力に俺の神経はより深く張り詰められた。

 六つの剣は窓から差し入る照明に斬り込んでいた。触れられない夢の光を断ち割り、黒い細剣が影の切り傷を記してゆく。明るみより先に伸びた刃は唸り、俺へと降りかかった。

 双眼を見開き、俺は六つの剣が交差する一点を手繰り寄せた。

「――――せ、ああぁ!」

 掛け声と同時に大剣を振る。狙いは六重むえの細剣が交わる極所。全身の筋力を連結させ、俺は刃を下から斜めに昇らせた。

何か微妙なところで終わりましたが、これ以上載せると長くなってしまうので分割させていただきます。次回もなるべく早く投稿しようと思います。最低でも三月二十三日には更新する予定です。

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