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現実世界① ”本体”

茜の起床後。学校へと舞台は変わる。茜は一人で掃除をする湊の手伝いをするが、そこで思いも寄らない事実を知ってしまい――

E・D内部では第一人称。現実では第三人称、といったやり方を取ろうと思います。この方法がうまくいくかわかりません。ですが、読者の気に入る物語を書いていこうと思います。

 『夢』から目が覚めた三原茜はしばらく呆然としていた。

 嗅覚に甘い香りが漂い、思わず二度寝をしかける。今日は学校だと自分に言い聞かせ、『ゆりかご』から体を起き上がらせる。

 茜は部屋の壁に掛けられたアナログ時計に目をおいやる。現時刻、六時五十三分。しっかりと設定した通りの時間帯だった。


「うう、やな『夢』見たな……」


 深い『夢』で起きた事を忘れるよう、茜は盛大に首を左右へ振り払った。寝起きの為、自慢の茶色い髪がばらばらと崩れてしまう。茜は髪を整えようと、部屋の隅に置いた鏡の前へと近づいた。

 茶色いセミロングに、少し小さ目な顔立ち。三原茜は自分でも少しは可愛いと思える外形をしていた。だが、そんな彼女の右目近くには黒い黒子が三つ並んでいた。彼女が持つ大きな特徴であり、同時にコンプレックスにも等しい部分だ。

 忌まわしそうに三つの泣き黒子を指でこする茜。そんな彼女は鏡の向こう側で白い棋士の顔を発見する。

 顔に赤みと火照りを帯びてきた。茜が自分の両頬に掌を当て、恥ずかしそうに悶え始める。


「あの人……騎士団のひとだよね……」


 夢現に陥りながら、彼女は凝視した青年の顔を思い浮かべる。

 茜は首を何度も縦に振った。


「また……会えるかな」


 純白の鎧に漆黒の大剣。

 このアバターを宿す人物は茜の身近なところにいた。

 彼女はそのことを数時間後に認識する。



 『エクステンデッド・ドリーム』、略称E・D。

 これはほんの数年前に全世界へ普及したフルダイブ型VRMMOである。現在ではこのMMOが世界で最も普及していた。

 それ以前にもフルダイブ型のMMOは数十タイトルも発売されていた。しかし、それら全てを蹴落としてE・Dが頂点に立ったのは理由がある。

 このMMOは眠りながらにしてフルダイブが可能であるのだ。通常の睡眠において見る夢にて、身体を自由に動かせる場合がある。開発者はこの理屈を解明し、使用者の誰もが夢での行動を自由自在にさせた。

 言い換えれば、E・Dを用いれば二十四時間の連続活動が出来るようになったのだ。現代が持つ様々な問題を解決した。

 睡眠時に夢を見るには快適な状況を作り出す必要がある。

 快眠を促すアロマ。

 神経を和らげる音楽。

 意識を落ち着かせるランプ。

 多くの機能を設置しつつ、睡眠の為にベッド状の大型ハードウェアが作成された。

 E・D使用者はそれらを『ゆりかご』と呼ぶ。

 『エクステンデッド・ドリーム』――『拡張された夢』。

 幸せな夢に潜る為、人々は『ゆりかご』で眠りにつくようになった。



 茜が通う学校はE・Dと相互関連した教育制度で成り立っていた。この学校には主に二種類の生徒がいる。

 一つは起床中に学校の教育を全て受ける生徒。彼らは教育課程が膨大に増えた現代においてこのコースを選んだ。部活動などに選り分ける時間は一切与えられない。

 だが、E・D内部では完全な自由時間を手に入れられた。

 もう一方は現実とE・D内部にて二回に分けて教育を受ける生徒だ。彼らは長時間の学習を分割することで集中力の保持を主張する。利点として現実での時間に幾らかの猶予を与えられ、それを部活動などに用いていた。

 三原茜は前者に依存する。彼女の気に入る部活が無かった為、比較的何でもありのE・D内部で長く楽しく過ごそうと思ったのだ。

 だが、そのモットーが昨晩の『夢』を『悪夢』に変えた。


「はあ……」


 茜は本日の最後となる授業を聞き流しつつ、『夢』での事件を今一度思い返していた。

 自分のアバターであるユリアが襲われたのは人通りの少ない路地裏であった。五大領地では名が通ったショップに用事があったのだ。

 不幸にもその帰り道にユリアは襲われた。

 あの騎士の少年が言う通り確かに変態ではあろう。しかし、その目的は力づくの脅迫だったのだと茜は推測する。

 必死で逃げている最中に、ユリアはSOSコールを使った。E・Dにて最も使う頻度が少ない機能だ。それ故、救助が来るかは半信半疑であった。

 疑念は幸いにも裏切られ、かなりの実力者と思われる騎士に助けられた。

 アバター名も見ていない。分かるのは武具使用者アームユーザーであり、E・Dにて有名な騎士団の一員であること。


「会ってお礼を言いたいけど……魔術使用者マジックユーザーの私には縁もゆかりも無いしなぁ」


 そうこう呟く内に授業は終わっていた。


「……はい、今日はここまで」


 独特な口調で教師が終了を告げた。長い間勉学に集中していた生徒が教室のあちこちで歓喜の声を上げる。

 茜も普段なら喜んで帰ろうとするが、如何せん、昨夜の事件が恐怖心を生み出していた。暫くはE・Dに潜れそうになかった。


「どうしようかな」


 さり気なく戸惑いを口に出す。

 彼女の耳に嘲笑った声が届いたのはその直後だった。


「じゃあ、みなと。掃除よろしくー」

「俺ら先に帰るからー」


 目をやった先では数人の生徒が教室から帰ろうとしていた。茜は彼らの視線が一人の男子生徒に向いていることに気づく。

 教室の隅。一人で掃除ロッカーの前で佇んでいる生徒だ。彼の手には一本の箒が握られている。

 湊、と呼ばれた生徒は返事もせずに黙々と作業を始めた。


「掃除ぐらいさっさとやって帰ればいいのに」


 何気なく口走りつつ、茜は教室を見回した。残念ながら、茜と湊以外には教室に残っていなかった。

 掃除を押し付けられた同級生を睥睨し、茜が面倒そうに言葉を発した。


「仕方ないなあ……。私も手伝ってあげる」

「…………」


 協力を申し出る言葉に湊が訝しげな視線を向けた。クラスの平均ぐらいの身長に、眼鏡の向こう側に覗く暗い双眸。寡黙な態度を貫いており、近寄りがたい空気があふれ出ていた。


「はい」


 彼は淡々と一本の箒をロッカーから出し、茜に手渡した。

 表情に変化はなく、湊は憂い顔を終始一貫している。茜はそんな彼を睨み、両頬を膨らませた。

受け取った掃除用具を握りしめ、茜が湊の反対方向にある床を掃きはじめた。


「お礼ぐらい言ったっていいじゃない」


 彼に聴こえないぐらいの音量で愚痴を漏らす茜。

 ふと、彼女は掃除の手を止めて暗くなった窓の外に目を追いやった。既に夜が訪れており、あと数時間もすれば人々が眠りにつく時間帯だ。


「私も……人のこと言えないかな」


 瞼を浅く伏せ、彼女は弱い語気で反省を漏らした。


「…………」

「…………」


 茜と湊。

 二人が黙り込んだことにより、教室は長い静寂に包まれた。


「ね、ねえ。湊……君」

「……」


 沈黙に耐え切れず喋り出した茜だが、湊に返事をする気配は一向にない。


「こんな風にさ、掃除を一人だけ押し付けられることってよくあるの。そうだったら……先生とかに言った方がいいんじゃないかな?」


 暗い面持ちを保った生徒の唇は開かなかったが、代わりに顔が左右に振られていた。

 茜は首を傾げて、少々彼を眺めてみた。湊の掃除は丁寧以外の褒め言葉が見つからず、報酬もないのに必死な態度だった。


「そんなに頑張っても……誰も褒めてくれないと思うよ? ほら、さっさと終わらせてE・Dで楽しく遊んだ方がいいよ」

「嫌だ」

「え?」


 それは湊のはっきりとした拒絶だった。茜は彼の良く通った声に両目を見開く。また、込められた威圧感によって一歩後退させられていた。


「やるべき奴がやればいい。君には感謝する。でも、やり方を変えるつもりはない」

 発言を終えると同時に、湊が掃除ロッカーの方へと歩み寄った。掃除が終わったらしく、茜も同様にロッカーへと近づく。

 ガタン、と湊がロッカーを開けた。その後ろに茜も並ぶ。


「……それに、あんな奴らが見る『夢』なんてろくなもんじゃない」

「……へ?」


 唐突な湊の発言に茜が思わず素っ頓狂な声を出した。

 けれども、次に茜を待ち受けていたのは途轍もない驚愕だった。


「……よい悪夢を」


 彼の一言を耳にした瞬間、茜は持っていた箒を掌から落としてしまった。

 自分に力が抜け出てしまう程、湊の言葉は茜にとって衝撃だったのだ。


「?」


 振り返った湊が彼女の反応を理解できずに戸惑っている。

 当の茜本人は恐る恐る下がり続け、ついには教室の窓に背中を付けた。


「あ、あなたが……」


 茜は湊に人差し指を突きつけた。

 『よい悪夢を』。それは、正にユリアが昨日のE・D内部にて耳にした台詞と全く同じである。

 複雑な心情をまとめた顔で茜は一気に叫んだ。


「あなたが、昨日の騎士なのおおおおおおぉぉぉぉぉ⁉」


 茜の一目ぼれしたアバターの持ち主は、彼女の同級生である鈴夜すずや湊だった。根暗でオタクでぼっちと噂される少年である。

 茜は現実の方が悪夢だと、この時深く思った。


二人のリアル割れです。少しコメディっぽくなりました。

どうも、華野宮緋来です。この小説は気分で書いているので、次の投稿がいつになるか分かりません。ぼちぼちやっていこうと思います。

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