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《E・D内部/???=?? ??:視点》③ ”躾け”

久しぶりにE・Dを投稿します! ようやくテスト終わったー! これからどんどん書いていこうと思います!

《E・D内部/???=?? ??:視点》

 鋭い圧力が斬撃となり、私の身体を一直線に駆け抜けた。視界が真っ白に染まる。私は今度こそ自分の退場を覚悟した。

 怒りに身を任せて突っ走ってしまった。少しでも早くあの女に問い詰めたかったからだ。

 黒い大剣を握る騎士の奥。私はそこに気を取られていた。昇降口を抜けた外の風景の中に目的の人物が溶け込んでいたのだ。数人の野次馬に隠れてはっきりとは分からなかったが、濃淡で赤く鮮明な髪は間違いない。

 捺祇沙耶子――及びE・Dではリューゼと言う名で通っている、私の友人がいた。


「ッ」


 指先が小さく蠢動した。まだこのアバターは退場していない。

 理由を考えるより早く、私は背中の武装を地面へと一斉に打ち出した。


「な、まだ――!」


 騎士が狼狽えた声音を出す。

 鈍い打突音が床を叩き、反動で私の身体が前へと投げ付けられた。私よりも少しだけ高い目線を潜り抜け、彼の奥へと駆け抜けて行く。

 四本の触手を操るのも鬱陶しい。私は喉が破れんばかりに叫んだ。


「あああアアアああァああアアア!」


 背中が軽くなり、視野の底で映写されていた細長い影が消える。黒い外装は相変わらず続いているようで、光に溢れた外へ身を晒そうとしているのが実感し難い。

 校舎内で絶えていた風が私を包んだ。外に出たのだ。

 下げていた右腕が大きく弾かれた。

 ――何が起こったの?

 目先に赤い数字が出現する。誰かの攻撃を受けてしまったのだ。それもあの黒い大剣による斬撃ではない。別の瞬間的な一撃だった。


「《バニッシュ・ショット》……。動くなよぉ。俺の弾からは簡単に逃れられないぜ」


 銀色に輝く長髪に、雑誌などで何度か見かけた端正な顔立ち。野次馬の生徒が円を囲んだ中心で、複雑な意匠の拳銃を私に突き付ける青年が立っていた。

 流行に疎い私でも正体は察せられた。恐らくは騎士団の一員であろう。

 青年の装備した銃が私を睨む。彼も武器使用者なのは明らかだ。黒髪の少年と同じく狙った獲物を易々と見逃すはずはない。ここまで走って来られたことさえ奇跡だった。


「……っ」


 逃げ場を探そうと人の囲いに隙間を窺う。だが、予想を裏付ける事実が私の身体を更に鞭打った。

 校庭にいる相手は一人じゃない。

 人垣の各所で武器を携えたアバターが待ち受けていたのだ。全員が騎士団特有の紋章を身に着けている。数で言えば十は超えていた。校舎を背後に、私は騎士達の包囲網に巻き込まれた。

 ――多すぎる。

 幾らなんでもこの人数で街を回っているわけではないだろう。私、という存在が意識されているのは間違いない。では、どうして私がこの学校で暴れると特定できたのだろうか。

 ……答えは簡単。

 騎士団へと通報したのがリューゼこと捺祇沙耶子だからだ。彼女は私が得た謎の力に怯えることなく、逆に利用しようとしている。


『気に入らない先輩がいる。私に説教してきた。一体何様なのっ』


 捺祇沙耶子の苛立ちは連れ添う友人達の怒りを助長した。裏側に隠された事情も知らず、説教を下したという先輩を一方的に攻めた。増殖する逆恨みは友情の輪を侵し、私にまで伝染してきたのだ。


『ねえ、???ちゃんも最低だと思うよね?』


 リューゼを名乗るアバターは陰湿の中で唇を吊り上げる。


『あんな先輩、痛い目に合って当然だよね?』


 例の如く、私の夢はあの単語に縛られた。


『私の友達なら、この気持ちは分かるはずだよ』


 ――なんて馬鹿だったんだろう、私は……。



 不思議な力が取り付いた私は躾けられていたのだ。



 彼女は敵を与えることで戦闘力を確認し、その上で騎士団という障害物を備え付けた。甘美な囁きで誘い、武器を持った集団で進む方向を制限する。どこまでもリューゼの掌の上だ。

 ザッ。

 背を向ける校舎から足音が聞こえた。重い物を持ち抱えたような歩調だった。


「……ァ」


 背筋を伝う寒気が誘発される。

 私の正面を遮る美青年が声を発した。投げかけられた言葉が私を通り過ぎる。


「お前が手こずるなんて意外だな、クリム」

「ちょっと……な」


 抑揚気味な返事を耳に入れると同時に、私へと向かって大剣の切っ先が弧を描くのが分かった。大剣が切り裂いた風がじりじりと肌を叩く。

 状況は最悪だった。

 退路も絶たれ、武器も収納してしまった。私が纏った正体不明の怪物という衣ごと処刑されるのだ。きっと観衆の生徒は中身の私が通う学校を同じとしている一年生だと気づかないだろう。


「う」


 何て無様な結末だろう。滅多に出なくなった素の声が余計に惨めさを自覚させた。

 復讐も遂げられず、念願の末に手に入れた力は多勢に無勢で取り上げられる。一度きりの退場で使えなくなる保証はなかったが、対処は不可能と思われていた頃の恐怖は消えてしまう。捺祇沙耶子にとって私を飼い馴らす為の情報はそれらで十分だ。

 ――夢を見てしまった。自分の憎しみを昇華させ、もう一度学校で晴れ晴れとした生活を送り直す。そんな希望を抱いたのがいけなかった。

 ……おかしいな、これは夢なのに。

 ……でも、夢はいつか覚めてしまう。


「マーティ。俺がとどめをさす」


 ……人と普通におしゃべり出来ない私なんかが、見ていい夢じゃなかったんだ。

 ……現実と向き合わなきゃ。


「ああ、いいぜ。今度こそ決めろよ」


 ――でも、おかしいよ。


「終わりだ、悪夢ナイトメア


 ……どうして、私の悪夢だけは続いてしまうの?

 黒い肉体から伸びる影に、細い直線が増えていた。私の肩から斜めに映る線は断頭台の刃を彷彿させた。真後ろで掲げられる漆黒の大剣。その鋭い両刃は痛みを感じる暇もなく、夢の時間を私から奪っていくだろう。

 ……もう、いいや。

 ――私が悪かったんだ……。

 断念した復讐心が胸の奥から散っていく。砂埃のように減っていく悪意に応じ、私の視界も段々と鮮明になっていった。

 ヴンッ。

 私の影から突き出た棒線が平面を走る。

高速で降ろされる斬撃を覚悟し、戻りかけていた視野を暗闇に落とした。



「駄目ええええぇぇぇっ!!」



 一際高い少女の叫びが処刑を遮った。怪物退治を見守っていた観客の大群に沈黙が広がってゆく。精鋭であるはずの騎士達でさえ戸惑いの表情が浮かび上がった。

 大剣も降ろされていない。私の夢は終止符を打たれていなかった。


「その子は、何も悪くないっ! 止まってよ!」

「――――っ、お前!」


 後ろから響いてくる少女の声に背中を押される。

 私は悪くない。

 そうだよね。私は、悪くないよね。

 第三者から告げられたその一言が、私に強い力を与えた。

 憎悪が炎の如く揺らめき、目前を澄んだ黒面へと埋め尽くす。


「ああああぁぁあああアあああアアアア!」


 大音量の叫びに周囲の注目が騎士から一斉に乗り移る。私は仮想の空目掛けて喉を震わせ続けた。見限っていた思いが爆ぜ返す。最初に力を行使した際と同じ感触が全身を駆け巡った。

 もっとだ。もっと力が必要だ。

 身体を動かす神経に更なる部位が継ぎ足された。

 二本、四本……六本。

 ずずず、と泥を突き破るような音を伴って新たなる二本が生えてきたのだ。

 足元から力が湧いてくるようで不思議だった。脳内でも停滞していた回転が再始動していた。退路がないと判断したのは間違いである。


「うアああア!」


 生まれ変わった腕を校舎へと伸ばす。壁に狙いを付けて発射された三本が見事に突き刺さった。


「くそっ! 待ちやがれっ!」


 美青年の拳銃が火を噴いた。けれども、私の方が早い。

 ――上方へ延長された三本の腕が縮む。

 強烈な引力によって私の身体は伸ばした剣先へと持ち上げられた。校舎の壁に張り付くまでの間、背面で起こった悶着の要因が目に映った。

 大剣の騎士を後ろから抑え込んでいる少女が居る。メイド服と考えられる衣服であったことで衝撃を受けた。私の正体を看破した少女だ。

 ……一体、誰が。……でも、ありがとう。

 感謝と疑問を彼女へ送信しつつ、私は全力で壁を上り詰めた。幸いにも美青年以外に飛び道具を持っている騎士はいなかったようだ。私を穿とうとした銃弾も遠くまでは飛んでこない。

 私を襲う凶器から又もや逃げ切れた。

 やっぱり、私は悪くはないのだ。


「ァうあああァ」


 戦力も増した。騎士団の目はつくだろうが、私ももう機会を伸ばすつもりはない。

 今度こそ、あの女に復讐して見せる。

 六本の腕が壁を砕き、私は目指す高みへと一気に到着しようとしていた。


少し短い気がする最新話です。前書きに書いた通り、余裕が出てきたのでどんどん執筆しようと思います。ラストへ向かってどんどん加速していくので、楽しみにしていてください。

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