《E・D内部/ユリア=三原 茜:視点》① ”夢”
E・Dに潜ったある日、ユリア/三原茜は突然他のアバターに襲われる。
そんな危険を一人の騎士が救ってくれた――。
最初のプロローグ的なお話です。この話は一人称と三人称を行ったり来たりします。読みにくかったらすぐに言ってください。
「ヴェ、《ヴェノム・ブレイド》!」
片側だけに刃が付いた剣が毒々しい朱色を帯びる。スキルの発動だ。ゴポゴポ、と発声した効果音すら不気味な印象を抱かせる。
けれども。
「遅い」
淡白な呟きと共に、その手首は切り落とされた。遅れて、私が座り込んでいる地面を風が撫でる。今の一撃の余波がここまで届いたのだろうか。
掴んだ掌ごと武器を取られた男型のアバターが口を大きく開ける。絶叫の寸前だと、見ただけで分かる。ただし、それをもう一人の彼が許しはしなかった。
低く落ち着いた声が響く。
「よい悪夢を」
空高く掲げられた武器が影を落とす。――とても大きな剣だ。大剣と呼ぶのが正しいのだろう。持っているアバターの身長を七、八割まで覆いそうだ。威圧感も凄い。眺めているだけで、私自信も一緒に斬られてしまうと錯覚させられた。
そして。
漆黒の大剣が素早く薙ぎ払われた。ごうっ、と弧が描かれる。その刃に触れたアバターの身体はあっさりと両断されてしまった。
その光景を、私は何処かぼんやりとした気持ちで見つめていた。
「大丈夫か?」
大剣の持ち主である若い青年が声をかけてきた。私は「はい」と曖昧に返事をする。
目の前にいる青年は如何にも騎士と呼べる白い鎧の格好だ。そして重そうな大剣を軽々と振り払う姿はかなり様になっている。
顔立ちは普通と評価できた。この世界においては珍しく、目を引くような髪の色も瞳もしていない。完全な日本人としての黒髪黒目のアバターだ。
「大変だったな。あんな変態に追いかけられるなんて。……でも、もう大丈夫だ」
彼が安堵を与える笑みを浮かべながら、手甲に包まれた手を差し出す。
おずおずと、私はその手を掴んだ。
アバター同士が触れる際、単なる感触が伝わるだけであり、そこに冷温を感じるシステムはない。だが、私は確かに全身に熱を帯びていた。
「ありがとう……ございます」
震える声で呟いた時、私は理解した。
――ああ、これが一目ぼれか。
私を救ってくれた騎士の姿を目に焼き付ける。名前を尋ねようと口を開く。
次の瞬間、私の入場に時間切れが訪れた。目の前が暗闇と同化してゆく。色鮮やかだった世界が次第に色を濃くしていき、最後には無限の闇に私は囚われていた。
……こうして、私は初めて彼と出会ったのだ。最初は暖かな感情が胸の底で燃え上がっていた。もう一度会いたい。そんな願いを私は抱く。
思い返せば、この時から既に悪夢は始まっていたのかもしれない……。
短いので特に説明はありません。ぜひ次も読んでください。