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第伍記録

◆◇◆◇◆




 実戦投入をしてから必ず行う加速装置のメンテナンスをしながら俺はぼそりと呟く。



「加速装置……壊れちまってるな」



 机の上には無数の欠けたパーツや原型をとどめていないようなパーツがごろごろと転がっている。 


 全てこの前のシグとの模擬線によって破損したものだ。もっとも、その大半はGIAシステムを使用したことによって加速装置の出力に耐え切れずに焼け焦げた物がメインなのだが……。


 それにしてもだ、GIAシステムを使用するたびに加速装置が壊れていてしまってはGIAシステムを使うことを躊躇ってしまいそうだ。


 そもそも、現代魔術はとにかく金を食う。文字通り湯水の如く金が出て行く。それも、定期メンテナンスをしなければならないというオマケつきだ。



「かといって修理しないわけにも行かないしな……」



 それに、俺の場合はオリジナルの加速装置を改造に改造を重ねて造り上げた、いわばオーダーメイドの特別品。金を食う以上に愛着がある。


「しゃあない、どうせ祝日なんだし修復パーツと予備パーツでも買いにいくかぁ」


 だから言葉にして宣言するのだ。


 それに、久々に姉さんと街を歩けるということもある。勿論、姉さんの意思しだいなのだが。



「洸ちゃん、朝ごはんで来たよー」



 とりあえず今は部屋を出て居間に向かうことにしよう。そうしなければ姉さん崇拝主義者の従者にどやされてしまうからな。



「お、今日は早いんですね。でも、それが当然ですからね、調子に乗るなですよ」

「はいはい。早く行かないと姉さんに文句言われるぞ」

「む、確かに天音様に文句を言われるのは嫌ですからテトは行くですよ。お前も早く来るですよ!」  



 無愛想極まりない従者の従者であるが、彼女もまた姉さんの為に行動しているのだ。別に、自己中心的であるという訳でもないので彼女の毒舌には大分慣れてきた。


 それに、良くみれば可愛い顔をしているわけで……



「ま、あんな言葉遣いであんな容姿だけど俺より強いんだけどね……とほほ」



 古来より弱者は強者の下に付くものだ。だから今はこれでいいのだ。


 心の中で自分を納得させるように呟き、足を動かした。



  

 ☆




「へぇ、科学もこの数年の間に進化したのねぇ」



 朝食の時間、俺が街に買い物に行くという旨を姉さんたちに話したところ、意外にも即座に了承の返事が返ってきた。


 そして、行きつけの小売パーツ店で加速装置の修復パーツと予備パーツを買いあさっていたところ、一緒に買い物に来ていた姉さんが感心したように呟いたのだ。



「天音様、これは一体なんですか?」

「えっと、これはね………」



 同じように目に写る物が全て珍しいというようにテトはとある商品を指差す。姉さんはあれこれ考えているようだが、結論から言うと知らないのだろう。だから俺のほうを横目でちらちらと見てくる。


 俺が唯一、姉さんに勝っている知識は科学以外存在しない。だから、仕方ないというように答えるのだ。



「それはソードマテリアルっていう魔力を流すことで剣になるマテリアルだよ」

「理解できないですね、私たちのように純粋魔力から武具を抽出したほうが早いじゃないですか―――」



 テトはそこまで言ったところで、分かったというような笑みを浮かべた。



「そうでしたね、古代魔術を使える人間はほとんど残っていませんでしたね」

「そ、俺たち魔術師って言うのは現代魔術を主にしているだろ。だからこうやって媒介を通して武器を作るしか出来ないんだ」



 俺の返事が考えていたものと違っていたのか、テトは不満気に聞いてくる。



「悔しくないんですか?」

「少なくても俺は悔しくないよ。科学の力に頼ったって努力することには変わりないからさ」

「む、おもしろくないです」



 せめてそういうことは本人の目の前では言わないで欲しい。結構傷つくからさ。



「ねえ、これって私たちにも使えるの?」

「いや、姉さんたちは使う必要ないだろ……」

「まあ、必要ないけどね。でも、少し興味あるかな」



 確かに俺も少し興味がある。こういった媒介を必要としない魔道師や魔法使いがこういった科学に触れるとどうなるのかということに。



「だったら、さっき説明したSMを一個買っておくからさ、それで実験するといいよ」

「え、買ってくれるの!? お姉さん感激、抱きついちゃう!!」

「うぉ、やめ、ちょ、姉さん!?」



 胸が、おっきくて柔らかい胸が当たってる!!



「ほめ言葉よ、洸ちゃん」

「勝手に心の声を聞くなっていってんだろうが!!」



 さっきまで真剣に魔術だの科学だの語っていた自分は何処に消えた?



「天音様……楽しそうなのはいいですけど、周りの目も考えてください」

「えー、まあ、テトが言うなら仕方ないか。洸ちゃん、次はどこに行くの?」



 突然の切り替わりに、俺は少し考えた後に答える。



「次って、どこか行きたい場所とかは?」

「知らないわ。だから、洸ちゃんが選んで♪」

「じゃあ、テトは……?」



 救いを求めて、駄目元でテトに意見を求める。



「私がこっちのことを知っているはずがないですよ。私も天音様と同じでお前が決めるのに賛成です」

「むむ…俺のセンスに任せると何かとアレだと思うぞ?」

「そこは私のお前に対する対応レベルが下がるか変わらないかの違いです」

「上がるっていう選択肢は無いんですか……ま、とりあえずパーツ買わないと」



 そう言って、僅かな時間を稼ぐためにパーツを選びながらこれからどうするかを考えるのだった。



 

☆ 




 修復パーツ及び予備パーツを買い終えた俺は、姉さんとテトが暇をしないような場所を選び移動している。


 まあ、それなりに興味を惹きそうな場所を選ぶことに成功しているのか、思った以上に何も言われないですんでいる。



「それにしても、あの頃とは大違いね」

「あの頃って……姉さんがこっちに居たのって何年前のことだよ」

「それにしたって…よ。魔術は何千年と時間をかけて進化してきた。それなのに科学はこんな数年の間にここまで進化を遂げているわ―――近いうちに戦争になんてならなければいいけど」



 俺が今まで一度も考えたことも無かったことを姉さんは小さく呟く。そもそも、魔と科学は共存しているじゃないか。だけど、現実に戦争なんて起きてしまったら正直な話をするとどうなるかなんて予想が付かない。


 進みすぎた科学は魔法と変わらない、と、誰かそんな事を言っていた。


 確かに、考えの違いや意思疎通のすれ違いがあるということはそれだけで戦争の発端となりえる。


 しかし、それでは魔術師はどうなる?


 ―――魔術師って言う存在がどちらに傾くか……



「え、それってどういう……こと?」



 つい先ほどまで隣を並んで歩いていたはずの姉さんに聞き返そうとした……が、隣には姉さんはおらず、前のほうを歩いていた姉さんが不思議そうに振り向く。



「え、突然どうしたの洸ちゃん?」

「あ…れ、いや、ゴメン。なんでもない」



 考えすぎか。



「とりあえず、これを買って欲しいです……むしろ買いやがってくださいです」

「テトが洸ちゃんに頼みごととは珍しいわね。洸ちゃん、買ってあげて」



 やはり、考えすぎだったようだ。


 少し悔しそうに俺を見ているテトに、いつもの笑顔を浮かべた姉さん。何も変わりない。



「買うって、何をさ?」

「これです」



 そう言って突き出されたテトの手の中にあったものはマタタビだった。



「マタタビ……?」

「わ、悪いですか!?」

「いや、確かテトは人間で…」



 そういうと恨めしそうに睨まれる。



「よかった……」



 次第にその目尻の両端には涙が溜まっていき、



「はず………」



 顔を真っ赤にしてぷるぷると震え始めた。



「分かった。何も聞かないから、何も言わないからそのハンマーしまって、お願いだから」

「う、うぅー!!」



 なによりいつの間にか手に持たれていた、鳴神兄弟を一撃で葬った肉球ハンマーが怖かった。 



「あまねさまぁ~」

「よしよし、いい子だねテトは」



 それに、姉さんからの無言の圧力も死ぬほど怖かった。

 






 その後、マタタビを買ったら奪いとられた。姉さんにいたってはどこぞの女子高生よろしく、店に見える甘いものを片っ端から買わせ、俺の財布は一気に氷河期を迎えることとなった。



「うん、これ美味しいわ♪」

「天音様、こっちのチョコレートケーキも美味しいですぅ♪」



 けど、それと一緒に従者二人の会心の笑みも目に収めることが出来た。


 プラスマイナスゼロとは言い難いけど、それでも今日の買い物はそれなりに楽しかった。

 今度の週末はどうするべきか……


 俺はそんなことを思いながら、台所でキャベツを千切りにするのだった。

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