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第漆記録

久々の投稿。これから頑張ってみようかな

 休日明けという日は、どうにも億劫になりがちだと我ながら感じることが多い。

 何をするにしても気分というものは重要で、心の在り様までも変わってしまうのだろう。

 けど、今日のそれは理由があって、億劫になってしまうのも無理はないと思う。いや、そう思いたい。


『へぇ、貴方があまねく者を召喚した術師ですか。見たところ……ほぉ、なかなか面白い力をお持ちですね』


 今朝のことだった。


『ああ、自己紹介を忘れてましたね。私は怠惰の始祖、アレン・グランツです。裏切りの魔女――おっと、コレは禁句でしたね。アマネ・ユーフォリウス』

『どうしてここにいるのかしら、魔眼のグランツ』

『私も少しばかり人の世に興味が出たので。それに貴方がどうして人間側にいるのかも気になっていたところですので、ちょうどよかったのですよ』


 怠惰の始祖アレン・グランツは、姉さんの手から伸びる純粋な高濃度の魔力で生成された『罪の剣』を突きつけられながらも飄々とした態度を持って言葉を返している。


『怠惰を司る始祖の癖に貴方も物好きね。でも、それとこれとは別。私の領域テリトリーに土足で上がり込んだ時点で貴方は終わってるのよ』

『問答無用で……ですか。ですが私に敵意は勿論害意はありませんよ。できることなら穏便に済ませて欲しいものです。事後処理が面倒ですからね』


 無言の沈黙と、鋭い視線とそれとは別の視線、朝から高濃度な出来事が続いている。

 正直……誰か助けて欲しかった。


『……』

『……』

『わかったわ。洸ちゃんに何か変なこと吹き込まれる前に消えて貰えるならこの場はなかったことにするわ』

『それはありがたいことですが、一つだけ言っておきますよ。今神洸くん、貴方の本質は時間や重力なんていう枠には当てはまらない――』


 そこまでアレンが言ったところで、姉さんは『罪の剣』でアレンの首を切断した。


『おやおや、私を殺すつもりだったのなら随分雑な攻撃のようでしたが……まあ、また逢いましょう』

『相も変わらず逃げ足だけは速いのね』


 と言った具合に、今朝から姉さんの機嫌を悪くする材料は揃っていた訳で……。


「というわけで爺、今日は精根尽き果てるまで私の相手をしてもらおうじゃないの」

「どう言った訳かまったく理解はしたくないのじゃが……、今日は最高のパートナーでお相手させてもらうとするわい」


 爺はカカカッと笑うと、足元に魔法術式を発動させる。


「この術式って……おい爺!!」

「んー、どうした洸よ」


 その術式は過去に爺が小国を滅ぼしたという逸話が残っている。


「これって……爺の―――爺さんの召喚魔法じゃ」

「厳密には六賢者時代の『魔法』じゃがな」


 六賢者の中で唯一の召喚術士であり、悪魔崇拝者であり、使役者。


「もっとも、コイツも今じゃ六大始祖の一角を担う存在になってしまったわけなんじゃが……カカカッ、つくづく『始祖』という存在に縁があるみたいじゃ」 

「爺、あんた……どれだけ名を馳せた悪魔たちと契約してるのよ」 

「それ故にお前さんはその身に呪いを―――」

「黙りなさい、昔話なら後でいくらでも聞いてあげるから」

「おぉ、そうじゃったそうじゃった。コレは秘密じゃったわい」


 再び爺がカカカッと笑った所で術式に魔力の充填が完了したのか、従者の輪郭が形成されていく。

 その姿が完全に現れると、紅蓮の瞳を持った瘦躯の男が立っていた。


「何だ、最近は始祖の召喚が多いと思ったら……テメェだったのかよ」


 不機嫌そうにボソリと召喚された瘦躯の男は呟き、目の前に対峙している姉さんのことを見下すように見る。


「オメェ、色欲の始祖にまた何かしたのか?」

「おお、誤解するな。今回は姫君の方から頼まれたから応戦したまでじゃよ」

「へぇ、それでこのオレを召喚したと……。安く見られたもんだな、この憤怒の始祖、ヴィシャス・クロウハートもよォ」


 姉さんはその視線に若干の苛立ちを覚えたのか、嫌味でも言うかのような口調で喋り始める。


「少しくらい長く始祖の地位に着いているだけで偉そうに喋るのね、螺旋のクロウハート」

「お、言うじゃねーか、裏切りの魔女ユーフォリウス。大方、朝方にこっちに出張ったグランツにでも同じ事言われて苛立ってるんだろうが……そんな事で一々キレんなや」

「貴方も分かってるならその名で私を呼ばないで欲しいものだけどね。それともワザとかしら?」


 終わることの無いように思われたこの不毛ないい争いにも、ヴィシャスの意外な言葉で終わりが来た。


「ま、お前が言うように我は先輩だからな。ちったぁ胸かしてやるから精々溜まった鬱憤でも晴らせや」


 何故なら、その言葉を合図に姉さんの『ツミツルギ』がヴィシャスがいつの間にか手に持った漆黒の鎌を両断しようと振り下ろされたのだから。


「なあ、爺……」

「なんじゃ?」

「もしかして今朝に怠惰の始祖を召喚したのって爺、アンタなのか?」

「さあのぅ、違う……と、だけは答えておくがの」


 なんて会話をしている最中も、姉さんとヴィシャスの文字通り人智を超えた戦いは繰り広げられている。

 斬戟を切り結ぶたびに巻き起こる衝撃波。


「色欲の始祖にしちゃ……破壊を司る我相手によくやってるな」 


 その都度にヴィシャスは、姉さんに向かって賞賛とも取れるような言葉を呟いてはいるが―――


「けど、それじゃあ駄目だ」


 姉さんの使用している罪の剣と鍔迫り合いになろうものなら、両手で持っている漆黒の鎌で罪の剣を絡め取り、螺旋の力を利用して破壊をする。

 姉さんはその度に大気中に漂う魔力素を還元し、罪の剣を作っていたのだがソレを止めてしまった。


「そうね、コレじゃ貴方の螺旋には勝てないわ。だから―――」


 そう言って取り出したのは以前、加速装置の修理パーツを買いに街に出たときについでに買ったソードマテリアルが掴まれていた。


「コレを使うわ」


 姉さんはそう宣言するとソードマテリアルに魔力を流し込み、その形を形成させてゆく。


「デバイス……か。偉く懐かしいなぁ」


 それに対しヴィシャスはぼそりと呟き、物思いに耽る様な表情を見せたかと思えば、手に持っていた漆黒の鎌の柄を弄り、可変させて背中に背負った。


「コード『憤怒』―――獄炎達蝕アグネアズ魔神ヴィシャスの心をクロウ右腕ハート


 ヴィシャスが言うや否や、姉さんの掴んでいたソードマテリアルの外殻は融解し、純粋魔力の塊が露出する。


「マテリアルは対魔道師兼魔法使い用に開発されているって言うのに、それを属性を炎に変えた純粋魔力だけで融解させるなんて……、在りえないだろ……」


 ヴィシャスは呆れたように言葉を返してくる。


「在りえないって言うことこそ在りえないんだよ坊主。現にそれは起こってんだからよ」

「あら、余所見なんてしていいのかしらクロウハート」

「テメェの相手なんざコレくらいで丁度良いくらいだからな」

「コレを喰らってからもう一度同じことを言えたのなら認めてあげるわよ! 暗黒物質ダークマター!!」


 俺はヴィシャスの言葉に歯噛みしながらも、姉さんが生成した暗黒物質に底知れぬ恐怖を感じた。


 『創生ラスト破滅カタストロフ


 そう、以前シグとの戦闘の敗因である精神汚染に感覚が近いのだ。


「ざっと見た感じ無属性の圧縮された魔力の玉ってとこか……、それくらいなら我にも真似できるな」


 そう言って何のモーションも抜きにヴィシャスが迫り来る暗黒物質に手をかざしたと思うと、あれ程までの禍々しい魔力の塊は一瞬にして消え去った。


「が、敢えてそんなことをしようとも思えんがな」

「な、嘘……」


 気付けば明らかに攻守は逆転し、姉さんの首はヴィシャスの左手でがっちり掴まれていた。


「簡単な話だ、純粋魔力は強力であるが故に対抗策はいくらでもあるってことだよ。例えば中和させるとかな」


 姉さんの柔らかな首肉にヴィシャスの細く長い指が食い込む。


「おい爺、コレで我の仕事は終わったって事で良いのか?」


 ―――姉さんが負ける?


「カカカッ、それは姫君に聞いてくれるかのぅ。まだまだ諦めるって言う眼はしておらんからな」


 ―――アリエナイ


「耄碌したか爺、如何考えてもこれ以上続けても勝ち目は―――チッ、なんだ坊主。俺……我は無益な殺生はしたくねぇんだが?」


 ―――ヨワイジブンハモウイヤダ


 カチリ、と、頭の中で何かが繋がる音がした。

 目の前に居るのは始祖。

 それが何だ?


【GIAシステム起動】


 自然と魔力が流れ、意識することも無くGIAシステムが起動する。

 今までに無い開放感。

 時間を支配する感覚。


 今なら―――


「洸ちゃん、私はまだまだやれるから手を出さないでもらえるかしら」


 そこまで思った辺りで不意に身体から力が抜けた。

 姉さんの声が聞こえたからだろうか?


「いいやユーフォリウス、お前の負けだ。『今』のお前じゃ如何あがいても俺には勝てねぇよ」

「何を―――!?」


 いつの間にか姉さんは鎖に繋がれていた。


「それとな、本気も出してねぇくせ……いや、だせねぇ癖に強がるなよ。今のお前は一人の女でしかねぇ」

「対始祖用拘束具!?」

「違う、そんな大層なもんじゃねぇよ。時空間固定術式だ。坊主、コレは俺の独り言だからよ……別に聞いてなくてもいいんだけどよ」


 ヴィシャスは姉さんを空間に磔にしてから、何処か寂しそうにしている反面で懐かしむ様な口調で僕に向かってなのかわからないが、ポツポツと言葉をもらす。


「自分の力を他人の為に使うってことはな、自分を蔑ろにしていることに他ならねぇんだ……。自分の存在をかけてまで誰かを想い続ける奴の結末は……何れも破滅しか待ってねぇんだよ」

「な、何を…?」

「坊主……お前も酷な運命を背負っちまったな。それとだ……ユーフォリウス。来瀬瑠璃って奴を訪ねてみろ。アイツなら或いは―――いや、なんでもねぇ。」


 ヴィシャスは結局、答えという答えを返さず、爺さんに向き直ると先程までの雰囲気とはうって変わり、威圧的な態度で言葉を放つ。


「爺、今回は事情を汲み取って手ぇ貸してやったけどな、次は相応の対価を払ってもらうぞ」

「カカカッ、そうじゃのぅ……アイツに関しての記録でどうにかしてもらえんかのぅ」

「チッ、相も変わらず食えねぇ爺だなテメェはよぉ」


 その言葉を最後に、ヴィシャスは素手で空間を切り裂くと、元居た場所に戻っていった。

 それにしても、ヴィシャスは一体何を言いたかったのだろうか?

 何も分からぬまま思考の渦に沈み込んでいく俺の頭は、テトの声によって意識を現実に引き戻されることになった。 


「天音様!!」


 そうだ、姉さんが、負けたんだっけ……。


 ―――今神洸くん、貴方の本質は時間や重力なんていう枠には当てはまらない


 不意に、頭の中に今朝の怠惰の始祖が呟いた言葉が頭の中を過ぎった。


 ―――自分の存在をかけてまで誰かを想い続ける奴の結末は……何れも破滅しか待ってねぇんだよ


 そして憤怒の始祖の言葉。

 その何れも知っている者にしか口にできない言葉の重みがあった。姉さんが負けた事実よりも、何よりも、その二つの言葉だけが頭の中を永遠にループする。

 

 勝手に起動したGIAシステム


 時間を支配する感覚


「俺は……」

「何をボケっと突っ立ってるんですか! 天音様の身体を支えるですよ洸!」


 二度目のテトの声に反応して、俺は言われるままに行動をするのだった。


 ☆


 やけに懐かしく感じた。

 過去の再来と言うのだろうか、なんと言うのだろうか、とにかく悲劇の予感がした。


「おい、アレン。お前はどう考えてる?」

「ん、私ですか? そうですね―――っと、すみません。どうもさっきまでの口調が抜けないようです。ちょっとお待ちを」


 そういうとアレンは何度か咳払いをする。


「っと、お待たせしましたヴィシャスさん。それで、僕がどう考えてるかでしたね」

「ああ」


 俺は短く言葉を返し、アレンの返答を待つ。


「僕は恭夜さんの再来かと思います、彼は寄り代に適していますからね。もっとも、僕は二度とあの悲劇を繰り返したくないと考えています……、いえ、正確に言うと蒼香ちゃんとシグさんもそう考えているようですけどね」

「俺もだ。二度と俺たちはあのバカの、世界に殺されてしまうような悲しい英雄を生み出すわけには行かない」

「だから僕たちは恨まれようと、敵になろうと道しるべになり続ける━━━━そういうことですね?」

「ああ」

「ですが、今の情勢を考えると状況は芳しくないんですよね」


 俺はアレンの言葉に眉をひそめる。


「現在、始祖の地位に従いてるメンバーは三人、魔法・魔術サイドが二人、科学サイドに二人、六賢者が二人。各地に仲間が散らばっているとは言え、僕たち黄昏メンバーだけでは戦争勃発を防ぐことはできない」

「戦争……か。いつの時代も人間は争うことをやめられねーんだな」

「ええ、それが人間の本質ですから。だから僕たちが暗躍し、世界をいい方向に持っていく。たった一人の人間のためだけに」


 そこで、俺は小さく言葉を返す。


「世界はいつだって理不尽だ」


 その言葉に、アレンは小さく微笑むと、俺に返すわけでもなく言葉をもらす。


「ああ、やっぱり僕たちはあの人の影なんですね」

「ああ」


 まあ、精々頑張れユーフォリウス。

 あのガキはお前に任せる。俺たちは勝手に行動するが、お前も勝手に行動しろ。

 例え、それが敵対する道であったとしてもだ。


「さて、と。雑談は終わりだ。次はメンバーを集めて話すか」

「そうですね。何とかしておきますよ」


 そう言ってアレンは闇に溶けていく。

 俺はその場で過去の名残である煙草を取り出し、火をつける。

 

「お前がいなくたって、俺たちが何とかするからよ」


 ぼそりと呟き、俺は次の行動を考えた。


 







 


 












 


 




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