黒い化け猫
オレっちは猫よ。ただの猫じゃないぜ? 化け猫さ。
毎日いろんな人間に化けてタダ食いしたり、驚かせたりしてんだ。犯罪だって余裕だぜ。
ところがどっこい。人間の姿だとあんまり、なでなでしてもらえねえから、いつも撫でてくれるじいさんのとこへ行くときは猫の姿で行くんだ。人間の姿でもうまくやればやってもらえるんだけどよ、手間がかかるし、なんか違うんだよな。
じいさんはいつもの公園にいる。ベンチで日向ぼっこしてんだぜ。朝の散歩の時に立ち寄るんだろうな。じいさんの膝の上はオレっちの特等席だ。じいさん、会いに来てやったぜ。しょうがねえからなでさせてやる……って、あれ? いねえ?
いつもはこの時間にはいるはずなのに、おかしいぜ。どこ探しても気配すらねえ。ちょっくら家に行ってみるか。
じいさんの住んでるボロアパートはいつ見ても小汚いぜ。だが、おかげで忍び込むのも楽勝ってなもんよ。裏手に回って窓から行くんだ。やっぱしな。窓が開いてる。お邪魔させてもらうぜ。
「にゃ~!」
じいさん、会いに来たぜ! いつものベンチにいねえからよ。こんな時間まで眠り腐って、どうしたんだおい。さっさと起きて、いつもみたいに撫でてくれよな!
「ひ、ひろこ」
おん? 誰だそりゃ。って、よく見たらすっげー苦しそうじゃねえか。この感じ、知ってるぜ……。オレっちのダチも、いなくなる直前こんな感じだったからよ。もしかして……じいさん、死ぬのか?
「ひろこ……ひろこ……」
だーかーらー。知らねえってばよ。……あ、もしかして死んだかみさんのことか? いつも話してくれたから思い出したぜ。ったく、愛妻家ここに極まれりだな。
「にゃにゃにゃ」
写真とかねえのか? お、仏壇か。棚にも何枚かあるな。ふーん。こいつがひろこってやつか。おいひろこ。死に際に呼ばれてんぞ。なかなかいい旦那をもったじゃねえかてめー。寛大なオレっちが一肌脱いでやる。ん? 一肌化けてやる? どっちでもいいぜ! 変化!
「にゃん!」
よっこらしょ。身長はわからんが、だいたいこんなもんだろ。服がねえな。じいさん、なんか適当に借りるぜ?
「ひろこ……」
「はい。ここにいますよ」
「ああ……ひろこ……いたのか……会いたかった」
じいさんが手を伸ばしてきたからオレっちはその手を握ってやった。苦しそうな面が穏やかになった気がすんぜ。よかったな。じいさん。おいおい。泣くなよ。しゃーねえーな。今日はオレっちが頭をなでなでしてやんよ。安心して眠ってくれな。今までありがとうよ。




