冬将軍の歯
仕事始めだというのに、政府からの要請があった。
どこから私の居所を調べ上げのか知らんが、どうやら、冬将軍が虫歯で苦しんでいるようだ。人と関わるのは嫌だが、頭を下げられてはな。一年中冬なのも嫌だし。私は施術に必要な道具と薬を用意し、自宅までやってきた政府のヘリに乗り込んだ。
上空から冬将軍を観察。5階建てのアパートほどの大きさの、甲冑を着た大鬼といった風貌のその妖怪は「グオォオン」と雄叫びを上げていた。呼応するように、雪嵐が舞う。
冬将軍はでかい。だから自衛隊に協力を頼んだ。彼らから借りたサーモグラフィーで冬将軍の状態を見る。真っ青な顔とは相反して右奥歯が真っ赤だ。
私は【河童の皿の粉末】を煎じて作った麻薬弾をスナイパーライフルに込め、狙いを定めて撃ち放った――命中。
冬将軍は雪原に倒れた。
ヘリを降下してもらい、自衛隊の人たちと眠っている冬将軍の顔に降り立つ。寒い。死ぬ。
【土蜘蛛の毒牙と爪】でできた強力な局部麻酔を用意。冬将軍の頬に注射する。しばらく待つ。
十分後。隊員たちに口を開くように頼み、中にお邪魔した。吐息がブリザードすぎる。
虫歯にたどり着く。私たちはその歯に【髪鬼の長髪】を織り込んだロープを巻き付けた。あとは、戦車の出番だ。
冬将軍の口の中から退散して、肩の上で待機する。隊長は部隊に無線で連絡。戦車がロープを勢いよく引っ張った。
スポンといい音を鳴らして冬将軍の虫歯は抜け、数秒間、冬の空に浮かび、雪の上に落下した。私はもう一度冬将軍の口の中に入り、虫歯が深いところまで侵食していないか、傷の具合などを確認。ふむ。問題ない。
やがて麻酔が切れると冬将軍は起き上がり、山に帰っていった。雪嵐は収まり、太陽光が雪原を輝かせる。
一件落着。
にわかに歓声が上がった。
自衛隊の面々が肩を抱き合い喜んでいる。
妖怪による不慮の事故は年々形を変えていて、手に負えないから時折助けてほしいらしい。医者とはいえ、鬼である私に頼むとは人も焼きが回ったもんだ。
しかし、まあ、この笑顔を見せられてはどうにも……な。
今年は忙しくなりそうだ。




