足跡
幽霊の通り道と言われる霊道。オカルトの類だけど僕の学校では周知の事実だ。
なぜなら、冬になって校舎裏に雪が積もると足跡がつくから。
人なんかぜんぜん通らないのにね。
一度PTAが騒ぎ立てて大掛かりなお清めや大掃除を何度かやったらしい。
でも、一時は収まっても少しするとまた足跡がつくからみんな諦めた。
たぶん地形的な地場的なアレがアレですごい感じなんだろう。
被害はないから極力近づかないことで対応している。見て見ぬふり。
帰宅部で暇を持て余している僕は、好奇心からこの霊道の観察をしていて、面白いことに気づいた。足跡の種類は一種類じゃない。様々な個性がある。
僕は観察から一歩踏み込み、観察結果を詳細に記録し、残すことにした。
いつか本か映像にまとめて出版してベストセラーを狙う打算付きでね。
とはいえ雪が降る期間しか観察できないから急がなくては。
これまでの成果はこんな感じ。
A:両足があるタイプ。雪の上にも関わらず五本指の跡があり裸足。体重がないためとても浅い跡。女性、男性、大人、子供、様々な大きさがある。
B:細い線タイプ。おそらく足がない浮遊している人型の霊。下半身の先端か、思念化した衣服の跡と推測。
C:一本足タイプ。妖怪一本ただら、もしくは片足損壊の可能性。
D:動物タイプ。生きているかどうかの違いは浅さと、霊道をまっすぐ進んでいるかで判定。
F:てのひらタイプ。テケテケのような下半身を損壊している霊。
E:歩幅が異常なタイプ。一歩ごとの幅が2.5mほど。身長がかなり高い。先生に聞いたら身長は5m近くになると言っていた。八尺様に近い。
G:三本指タイプ。溝は深く、大きな恐竜のようでもあるが、歩幅は人間のよう。これだけは他の霊と違い、雪が地面まで届くほど深く抉れている。
写真に収め、情報をノートやPCにまとめ、こっそり固定カメラを置いたりもした。
今日はカメラを回収して、映像チェック。
映像はなかなか見ごたえがあった。勝手に雪に足跡が付いていく様子がまざまざと映し出されていた。
でも、だいたいが浅い足跡。
EやGタイプは映ったことがない。レアタイプなんだろう。もともと異質な幽霊の中でも特に異質だから、当たり前といえば当たり前。
ま、現代はAIとかCGがすごいから信憑性は弱いかもしれないけど。
さあて、帰るとするか。
僕はリュックを背負い、校門へと向かう。
――シャリ。
不意に、雪を踏みしめる足音が耳に入った。
今……そこにいる……?
バッと振り返る。だけど、それ以上の足音は聞こえないし、跡もついてない。
寒くなってきたしとりあえず帰ることにした。
僕は雪道を歩く。
あの霊道を歩く幽霊たちのように、雪の上に足跡がつく。
サク、シャリッと足音が鳴る。
帰宅部だし今の時間はあまり周囲に人はいない。
だから鳴っている足音は僕のだけ。
サク、シャリ。サク、シャリ。
ザク、ザク、ジャリ。
でも……混ざってる。僕の以外の足音。
気になるけど、後ろを見ちゃいけない気がした。 喉の奥がカラカラに乾いて、苦しい。
「う……」
自分の吐く息は白く温かいのに、背後に落ちた足音の主からは、氷のような冷気が漂ってきた。 マフラーを巻いている首筋が、一気に凍りつく。
サク、シャリ。
ザク、ザク。ジャリ。
音は止まらない。
歩くスピードを上げても、同じように後ろの足音もついてくる。サク、シャリ、シャリ。ザク、ザク、ザク。
「はっ……はっ……」
息が乱れる。心臓が鳴る。ついてこないでくれ。
じわりと涙がにじんできた。
我慢できなくなって、おそるおそる振り返って背後を見る。
――ザク。
僕のすぐ後ろ。誰もいない雪原。そこに新しい足跡がついた。
Gタイプの、大きな三本指の足跡が。




