表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

初めての釣果(ちょうか)



「はい、やってみて」


 ナギから竿を渡された。刺さった幼虫がぷら〜ん。


(ひっ!)


 俺はつい、視線を逸らす。


「なにやってんの、餌は新鮮なのが命よ。投げ込め!」


 ナギに言われて慌てて投げ込む。ぽちゃ。


 釣り針は三十センチぐらいしか飛ばなかった。


「⋯⋯⋯⋯」


「まあ、最初はそんなもんよ。私も子供の頃はそんなんだったわ」


 カラッとナギが笑顔で言う。


「貸して」


 言われたまま、ナギに竿を渡す。


「ゴミ箱にゴミを投げ入れるようにすれば良いのよ。最短で狙うでしょ」


(⋯⋯そんなこと、したことない)


 俺の表情が物語ってたのか、ナギから


「ティッシュで鼻かんだ後、投げない?あれ、軽いから、鋭く投げないと全然飛距離が出ないのよ」


 ティッシュで飛距離なんて考えたことなかった。


 

 ナギが鼻を噛んだティッシュの感覚で投げる釣り針は、飛距離とともに、水面に消える。


「はい、どーぞ」


 いきなり、竿を託された。


「ど、どうやって魚が食いついたか分かるの」


「え?竿から伝わる感覚」


(⋯⋯ダメだ。全然参考にならない)


 竿と持ち手に集中した。


 水の流れ、水の中、どこかに当たる感じ。


(なにこれ?いつ引っ張ってるか分かるの?ピクってくるの?グン!て来るの?)


「ミオ」


(全然分かんない。これ、水に引っ張られてるの?魚が食いついてるの?)


「ミオ、魚、来てるよ」


 え?!っと、慌てて引っ張った。


 もう少しで手に届く!というところで、魚は水面へとパシャリ、と落ちていった。 


(れ、レンのおかずが⋯⋯)


 伸ばした手が虚しかった。


「もう少しだったね。餌は探せば豊富にあるから、気にすることないわよ」


 その後もナギが釣り針の幼虫を刺し、投げ入れてくれたが、掛かることはなかった。


 俺が気の焦りから、掛かってないのに、引き上げたり、自分から投げては、川辺近くで釣り針を落としているその間、ナギは、餌を自給自足し、じゃんじゃん釣っていた。


「ミオ、こっちおいで」


 呼ばれてナギのもとに行く。


「ほら、代わって」


 竿を託された。


「⋯⋯俺に渡したところでどうせ釣れないよ⋯⋯」

 

 自信なんて喪失。

 俺にレンのおかず調達なんて早かった。


「大丈夫」


 そう言うと、ナギは俺の持っている竿を側から支えた。


 一瞬、身体が密着し、ドキリとする。


「よそ見しないで。来るよ」


 俺の動揺なんて気にしないナギにそう注意され、慌てて意識を水面に映す。


「来た!上げて!真上!」


 言われて釣り竿を慌てて、上げる。


 パシャリ――。


 水面が光る。


 水滴を跳ね上げ、水面から現れたのは、キラリと光る魚体。


 その魚体が、俺の元へと向かってくる。


 勢いよく、左右に身をしならせ、躍動している。


 思わず、伸ばす俺の手に魚が飛び込んできた。



「やったね!ミオ!」


「ひぃ!ナギ、助けて!」


 魚を持ったまま腰が引く俺に、


「なにやってんのよ!」


 ナギは慌てる俺から魚を受け取ると、器用に釣り針から外してカゴに入れる。


「⋯⋯俺が獲ったの?釣り上げたの?」


 なんだか、信じられない気持ちで聞くと


「そうだよ。アンタが釣り上げて獲ったんだよ、ミオ。レンのおかず、アイツきっと喜んでくれるよ」


 ナギが笑顔で答えてくれた。

 たくさん魚の入ったカゴを水に浸けると、中を覗き込みながら「大漁、大漁」とご満悦の様子。


「ナギのおかげだ⋯⋯。ありがとう」


 言いながら胸が高鳴る。


 そんな俺を見ながら、ナギが口を開いた。


「ミオ、アンタ、このまま、ここで暮らしなよ」


「え⋯⋯?」


「アンタここに来た時、あたしに聞いてきただろう?戸籍がない理由。教えてやるよ」


 ナギの言葉。

 俺は、ナギの次の言葉を静かに待った。


「そんなに、神妙な顔しないでよ。単純な話なんだから」


「私やレンに戸籍が無いのは、ただ単に両親か、ご先祖様かが戸籍を捨てたからなんだけど。じゃあ、戸籍を捨てるってどういうことってなるわよね?」


「⋯⋯うん」


「これも簡単な話。ミオ、ちょっと失礼」


 そう言うと、ナギはカゴが流れないように固定して、立ち上がると俺の片手を取った。


「あんたのこの皮膚の下、ここにチップが入ってる。生体反応に、GPS。アンタがどこで、いつ、誰と、何をしたか、全部こいつが国に教えてる」


 そう言って、俺の手首をナギは人差し指でするり、と撫でた。


「でも、身体にとっては、コイツは異物さ。だから外に追い出そうとする。新陳代謝。どんどん身体の外に追い出そう、追い出そうとして、ある日、皮膚を破ってコイツが出てくるのさ」


「それを取り出して、後はそこの川にでも投げ入れば、生体反応も無くなり、GPSを辿ってみれば川の中で漂ってる。国は“事故死”と判断して、それで終わり。ね?単純でしょ」


「国は定期的にチップを体内に戻す埋め直し作業をしてる。それさえサボれば可能って話。さ!帰ろっか!」


 ナギは、川から上げたカゴを腰に付けると、釣り竿を抱えさっさと歩き出した。


 俺は、自分の手首を見遣る。

 なぜだか律を思い出す。

 

 俺は、考えを追い払うように急いでナギの後を追った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ