未知との遭遇
(⋯⋯きっと、雷に打たれるほど、て表現はこんな感じなんだ)
薄くてひょろひょろな少年のような身体つきの自分。
レンは、圧倒的に身体の作りが違った。
ガッチリと筋肉に覆われた肉体を持ち、そして、足が毛で覆われてる。
(⋯⋯尻に毛が生えてるって、どういうこと⋯⋯?)
そんな混乱は、レンの声で我に返る。
「ミオ、先に湯船に浸かってて良いよ。俺、先に洗うから」
レンの言葉を聞きながら、湯船をかき混ぜるレンのスネ毛だらけの脚を凝視する。
「⋯⋯湯船、身体とか洗わず入って良いの?」
「⋯⋯え?良いでしょ?むしろラッキーじゃないの?」
「え?」
「え?」
(よく分からない⋯⋯)
でも、裸になって、浴室に入って分かった。寒い。
タイルが冷たいのだ。
「一応かき混ぜたけど、もう一回かき混ぜてね」
「?」
よく分からないけど、言われるままかき混ぜた。
熱いと思ってたお湯が、下から冷たいのが掻き上げられ、少しぬるいくらいになる。
「ついでに、風呂に入る前に股間だけでもすすいでね」
と、洗面器を渡された。
(⋯⋯これが洗面器)
よく分からないまま、湯船からお湯を少し汲んでは、言われたとおりに何回かすすいだ。
「うち、五右衛門風呂じゃなくて普通のステンレス風呂だから。そっちに釜があるから、背をあてないようにね。火傷するから」
「う、うん⋯⋯」
言われたとおり反対側のステンレスの側面に背をつける。お湯に浸かっていない部分が恐ろしいほど冷たかった。
釜がある、と言われた場所からどんどん熱いのが出てくる。
手でかき混ぜる。忙しない。
「熱くなったら水入れてね。あ、洗いはここのお湯使うから。ちょっと、ごめんね」と、言いながらレンは洗面器を湯船につっこんできた。
「あ、少し熱くなってきたね。お湯も減るから、水を足すよ」
そう言うと蛇口をひねり、水を出す。
レンがお湯をバシャバシャ被る度に、飛沫がこっちにかかってくる。
自然と顔は背き、身体は壁際に寄る。
ワシャワシャとバシャバシャと洗ってる音だけが聞こえる。
そして、ピッピッ、と飛沫が飛んでくる。
(お、お風呂ってこんなにうるさいし、忙しないんだ⋯⋯)
律が入ってきて身体を洗われた時を思い出して、自然と顔が赤くなる。
(あ、あれも忙しなかったけど⋯⋯)
「次、ミオの番」
と、呼ばれて振り向いて、足を上げて湯船の中に入ろうとする姿勢の、間近なレンの股間と毛量に驚いた。
あまりにも凝視しすぎてレンから「あの、そんなに見ないでくれる?」とまで言われてしまった。
「ご、ごめん⋯⋯。なんか、すごすぎて⋯⋯」
頬が染まる。
慌てて、湯船から立ち上がる。
「そんなに急に立つと、湯あたり起こすよ」
と、レンから言われたと同時にくらり、とめまいが来た。
「あ、ほら。言った矢先から」
「ごめん⋯⋯」
レンの大きな手が俺の肩を掴んだ。
目の前に日焼けした大きな胸板。
同じ男の性を持っているというのに、股間といい、すね毛といい、単一だけでこんなに違うのかと驚く。
隆々とした筋肉をたどり、何気に肩に触れている手を見てゴツゴツとした節くれだった指の太さに、自分の指との作りの違いに二度驚く。
「も、⋯だい、じょうぶだから⋯⋯」
そう言うと、レンは「そ?」と、言って俺の脇に手差し入れると湯船から抱え上げる動作に俺は硬直した。
湯船を跨ぐように立つレンから、まるで荷物のように扱われる自分。
「湯船に足が当たるから、足曲げて。そうそう」
呆然と言われるがまま⋯⋯。
「そこ、椅子あるから座って」と、座るまで脇に手を差し入れたままだった。
男の矜持が尽く、本物の“男”に崩される。
(生きた化石に、劣等感で頭がどうにかなりそう⋯⋯)
お湯に浸かると共に、水を止めるレン。そのまま湯船に身を預けるように目を瞑った。
俺も気を取り直して、髪を洗おうと、洗面器を持ち上げる。
(洗面器からお湯を取るんだっけ?)
レンがしていたように片手に洗面器を突っ込み引き上げようとしたが、傾いて半分ぐらいのお湯しか取れなかった。
(⋯⋯あれ?けっこうコツがいるの?)
頭に被ってもう一回やってみた。
平行に持とうと思うと結構力がいる。腕がふるり、と震えた。
ゴン。
「あいた」
片手で頭上にかざすと、持ち手と反対側の洗面器がお湯の重さと共に落ちてきて頭に当たった。
お湯がバシャリと勢いよく落ちていく。
「ええ⋯⋯」
レンに見られていたのか、呆れた声を出される。
しかも、持っていた手の甲と骨も痛い。
「ミオ、洗面器は、手を広げて支えてあげないと。そんな返し部分だけグーにして持っても力入らないよ」
様子を見ていたのか、レンからそう助言された。
「⋯⋯そうなの?」
「うん⋯⋯あと、もう少し頭を下げてお湯を被らなきゃ。滝行じゃないんだから、すごい勢いでこっちにかかってきたよ」
「ご、ごめん⋯」
(タキギョウってなに?)と、思いながら迷惑をかけたようなので、とりあえず、謝った。
言われたように手を広げて洗面器を持ち、お湯を汲む。
先程よりも軽く感じた。
お湯も難なく被れる。
「こんなに違うんだ⋯⋯」
「⋯⋯そうだね」
「シャンプー容器どっちか分かる?」と、レンに聞かれたので、「こっち、てか書いてるし」と答えると「じゃあ大丈夫だね」と、レンは答えて湯船に背を預けると目を瞑った。
(⋯⋯一応、適齢期迎えた大人なんだけど)
と、反論したかったが、洗面器すらまともに扱えない大人、と主張する事になるので口を閉じた。
髪を洗って泡を立てる。洗い流そうとして、気付いた。
「レン⋯⋯、手と多分、洗面器に泡ついてるけど、湯船に付けて良いの?」
目を瞑って顔を上げた。
「⋯⋯良くはないけど。ミオ、そういう時は、先に一杯汲んでおくんだよ」
言うとザバり、と音がして、洗面器が床に擦れる音と、その後、バシャバシャと、音ともにお湯の飛沫がかかる。
多分、洗面器の泡をお湯で落としてくれているのだろう。
「膝の上に置くね。重いから両手で持ってすすいでね」と、声とともに太ももにズシリ、とした重みを感じた。
「ありがとう」と、お礼を言って被って、さて、二杯目――
コン!⋯⋯コン!
(あれ?お湯が汲めない⋯⋯)
目を瞑ってるせいで、湯船の距離が分からない。
洗面器が当たる音だけが、浴室に響く。
「⋯⋯ミオ⋯⋯、いままでどうやってお風呂使ってきたか、興味が湧いて来たんだけど⋯⋯」
「え?いつもはシャワーで⋯⋯ってなんで届かないの?」
薄目を開けて距離確認。なるほど、もう少し下まで腕を下げなきゃいけなかったのか。
「あいた」
すすぎきれなかったシャンプーが目に入り、痛さで思わず目を瞑る。
慌ててお湯を汲もうとする洗面器を取り上げられてしまった。
「ほら、落ち着いて。顔洗って」
太ももに先程と同じ重みを感じた。急いで顔をすすぐ。
「ありがとう⋯⋯」
「お湯、かけるよ?頭下げて」
太ももにあった重さが無くなると同時に、お湯を捨てる音がする。
そして、「かけるよ」というレンの声とともにお湯が頭にかけられる。
二、三度繰り返され、その間、俺は両手ですすいだ。
(に、人間シャワー⋯⋯湯量がすごい)




