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序
かわいた風が、褐色の大地から砂を巻きあげる。
ぴしぴしと頬をうつ砂粒に閉口し、外套の頭巾を引きずり下ろそうとしたときだった。砂塵のむこう、峨々たる山脈のふもとに、灰色の影がゆらいで見えたのは。
春明は手綱を引いて馬の脚を止め、雇い主に声をかけた。
「子怜さま、あれを……」
ごらんください、という言葉を春明は呑みこみ、かわりにひそやかな感嘆の息をもらす。
春明が声をかける前から気づいていたのだろう。雇い主の青年は頭巾をはねのけ、西の彼方に目をこらしていた。その横顔は、あたかも名工が刻んだ玉細工のごとく、見る者のため息を誘ってやまない。
「やあ、ようやく着いた」
かざしていた手を下ろし、青年は春明に笑いかけた。
「沙州関だ」
無彩色の荒野に咲いた、白い花のような笑み。ああ、と春明は目を細めた。自分は本当に遠いところに来たのだな、と。




