9話 不可思議③
黒い巨体が、拳を振り下ろす。
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ドン!!
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無礼は、床を滑りながら後退した。
拳が掠っただけで、壁が粉砕される。
「……っ」
(硬ぇ……!)
拳が、痺れている。
まるで岩を殴っている感触だった。
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マンイーターが、唸る。
黒いヒビが、ゆっくりと脈打つ。
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その少し後ろ。
こすりは、不可思議と並んで立っていた。
(今なら……)
こすりは、意を決して口を開く。
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「……ねぇ」
不可思議が、目線だけで答える。
「なぁに?」
「依頼主って……誰なの?」
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不可思議は、視線をマンイーターから離さない。
ナイフをくるりと回しながら、軽く答えた。
「さぁ?」
「本名は知らない」
「金払いのいい“誰か”だよ」
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「じゃあ」
「……亡日を、知ってる?」
その名を出した瞬間。
不可思議の、眉がほんの一瞬だけ動いた。
「……ホロビ?」
「誰それ?」
⸻その時。
「亡日……?」
低い声が、背後から響いた。
振り返ると。
店の入口の向こうに、影が立っていた。
数人。
統一された装備。
――アルティメット。
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先頭に立つ男が、一歩前に出る。
ミネソタだった。
「……聞いた名だな」
目を細める。
「確か――」
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「戦場で暴れまくってた傭兵っすよ」
軽い声が、横から被さる。
ギロチンだ。
「正規軍もテロ組織も関係なく」
「“血と狂気”だけで動いてた」
「死に急ぐタイプ」
リンネがボソッと呟く。
ミネソタが、静かに頷く。
「……なるほど」
「生きていたか」
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その瞬間。
ドガァン!!
無礼が、黒い腕を受け止める。
床が、沈む。
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不可思議は、会話を続けながらも――
完全に、マンイーターだけを見ていた。
動き。
呼吸。
ヒビの走り方。
(……やっぱり)
(全部、硬いわけじゃない)
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マンイーターが、無礼を押し潰そうとする。
その瞬間。
不可思議が、声を張り上げた。
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「しっぽくん!!」
無礼が、ちらっと見る。
「そいつ――」
「目だけは柔らかいと思うよ!!」
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無礼の口角が、わずかに上がった。
「……えっ!?なんか言った??」
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黒い巨体が、再び動く。
無礼は、構えを変えた。
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不可思議は、ナイフを構え直す。
「はいはい....わかりましたよ。」
リンネもマンイーターに銃を向ける。
「援護します」
勝負は
一瞬
⸻
第九話・完
つづく!




