8話 不可思議②
床に、血が落ちる。
ぽた、ぽた、と。
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無礼の体が、前のめりに崩れた。
「……無礼!」
こすりは、考えるより先に動いていた。
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「動かないで……!」
喉元を押さえ、すぐに両手を添える。
淡い光が、こすりの掌から溢れ出した。
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傷口が、塞がっていく。
血が、止まる。
肉が、元の形を取り戻していく。
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「……」
不可思議は、その光景を見て――
完全に、固まった。
「……は?」
思わず、間の抜けた声が漏れる。
(治癒?)
(しかも、即座に?)
(……人間、だよな?)
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不可思議は、知らなかった。
“守る対象”が、
ただ守られるだけの存在じゃないことを。
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無礼が、息を吸った。
「……っ」
そして、ゆっくり目を開ける。
「……あー」
「死ぬかと思った」
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「無礼……!」
こすりは、思わず泣きそうになる。
無礼は、まだふらつきながらも、体を起こした。
「いやーギリギリ助かったわ」
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不可思議が、ようやく口を開いた。
「……君」
「やっぱり、“ただの一般人”じゃないよね」
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その言葉に、こすりは一瞬、黙った。
無礼が、前に出る。
「お前なぁ……」
「触覚生やした一般人がどこにいるんだよ?」
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不可思議は、両手を上げた。
「あーはいはい、落ち着いて」
「敵じゃないって言ったでしょ」
軽い口調。
だが、目は真剣だった。
「俺はね」
「ある人に頼まれただけ」
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「――こすりちゃんを」
「“化け物”から守れ、って」
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その瞬間。
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ゴン。
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店全体が、揺れた。
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「……来たな」
不可思議が、低く呟く。
無礼が、歯を食いしばる。
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次の瞬間。
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ドガァァン!!
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壁が、内側から叩き割られた。
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現れたのは――
黒いマンイーター。
ただひたすらに、黒い存在。
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全身を覆う、硬質な皮膚。
光を反射しない、鈍い黒。
まるで岩の塊のような肉体。
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腕は太く、重く、
指先には短く分厚い鉤爪。
顔には――
血管のようなヒビ模様。
黒いヒビが、鈍く脈打っている。
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硬質型マンイーター。
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「うーん…..」
不可思議が、ナイフを構える。
「なーんか硬そう」
「ま、ガードかたい子は嫌いじゃないけどね」
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マンイーターの視線が、動く。
一直線に――
こすりへ。
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「……っ」
無礼が、即座に前に出る。
「こすり、下がっとけ」
不可思議も、舌打ちしながら並ぶ。
「……ねぇ、どうすんの?」
無礼は鼻ほじりながら答える。
「俺も嫌いじゃねぇよ。」
「かためのチョコレート」
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マンイーターが、踏み込む。
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「考え、改めるわ」
不可思議は、笑った。
「あーそれから」
無礼が、鼻くそ弾きながら言う。
「ナンパしたんなら離れんなよ」
「そいつの側から」
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黒い巨体が、咆哮しながら
地面を蹴る
再び――
戦いが、始まる。
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第八話・完
つづく!




