13話 歪(いびつ)
白いマンイーターは、無礼に殴られ続けていた。
細身の身体には、無礼の拳の跡が無数に刻まれ、
白い皮膚のヒビ模様は不規則に脈打っている。
「……」
無礼は無表情だった。
殴る。
受ける。
また殴る。
それだけ。
技でも、連携でもない。
ただ“壊れない方”が残る戦い。
マンイーターの動きが、明らかに鈍る。
呼吸のような音が荒くなり、
地面に落ちる白い破片が増えていく。
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それでも――
マンイーターは、笑っていた。
何かを味わうかのように。
「……」
白い顔が、無礼を正面から見る。
視線が、絡む。
その瞬間。
ゆっくりと後退し、
足元の土が、ぬるりと沈む。
逃げる――のではない。
確認を終えた、という動きだった。
土に半身を沈めながら、
白いマンイーターは、カタコトで言う。
「オマエ……」
「イビツ」
それだけを残し、
ずぶり、と。
白い身体は地中へ消えた。
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静寂。
勝利の声は、上がらない。
現場に残ったのは――
死体。
血。
倒れた仲間。
アルティメットは、すぐに動き出す。
「遺体を回収しろ」
「生存者を優先!」
「担架が足りない!」
誰も、無礼を責めない。
誰も、感謝もしない。
それどころじゃなかった。
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病院。
消毒液の匂い。
サーベイジは、ベッドの上で目を覚ました。
「……隊長」
ミネソタが、すぐそばに立っていた。
「気がついたか」
「リンネは....隊員達は....」
「.......すまん」
サーベイジは、天井を見たまま言う。
「なんで……」
「なんで無礼は、あんなにあんたの言うことは聞くんですか」
ミネソタは、少しだけ黙った。
それから、椅子に腰を下ろす。
「……あいつはな」
「どこで生まれたかも」
「親が誰かも」
「何者かも――分からん」
サーベイジは、視線を動かす。
「ただ」
ミネソタは、続けた。
「小さい頃から、あの店に来てた」
「腹を空かせてな」
「だから、飯を食わせた」
「それだけだ」
「……それだけ?」
「あぁ」
ミネソタは、静かに言う。
「親みたいなもんだろ」
サーベイジは、息を吐く。
「……恩、ですか」
「さぁな」
ミネソタは立ち上がる。
「でもあいつは」
「飯の恩は、ちゃんと覚えてる」
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別の日。
小さな葬儀場。
黒い服に身を包んだアルティメットの面々。
祭壇には、リンネの写真。
笑っている。
戦場では見せなかった顔。
ギロチンは、前に立っていた。
拳を、強く握りしめて。
「……誓う」
低い声。
「必ず」
「俺が」
「化け物どもを――皆殺しにする」
誰も、止めなかった。
誰も、慰めなかった。
それが、この世界の現実だった。
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その夜。
バーガーキングコングの屋根。
無礼は、寝転がっていた。
白いマンイーターの言葉が、
頭の奥に残っている。
「イビツ」
「……」
無礼は、空を見上げる。
「カッコいいって意味か?」
誰に言うでもなく、呟いた。
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第十三話・完
次回もお楽しみに!




