11話 チーズバーガーセット
バーガーキングコングの奥、簡易ミーティングスペース。
油の匂いと、冷めかけたポテト。
その中で、クラッカーの指だけが忙しく動いていた。
「カタカタ……カタ……」
ノートPCの画面には、英語、日本語、そして意味不明なコードが並んでいる。
「んー……」
クラッカーは眼鏡を押し上げた。
「亡日も、不可思議も……」
「やっぱり検索に引っかからないっすねぇ」
「指名手配」
「傭兵データベース」
「ネット社会の噂レベル」
どれも、ゼロ。
ミネソタは腕を組み直す。
「まぁ、そいつらは“表”に名前を残す生き方じゃない」
低い声だった。
「裏の世界で生きてる連中だ」
サーベイジは椅子にもたれ、天井を見上げる。
「……でも妙だな」
「亡日は“攫う”依頼」
「不可思議は“守る”依頼」
「同じ対象に、正反対の依頼だ」
視線を落とし、続ける。
「依頼主は……別だろ」
「少なくとも、同じ思想じゃない」
⸻
その時だった。
ドアが開く。
「失礼しまーす」
入ってきたのは、アルティメット隊員――グレン。
「隊長、頼まれてた鑑識結果、持ってきましたよ」
封筒を差し出す。
「おぉ、グレン!」
「早かったな! さんきゅー!」
サーベイジは笑って受け取った。
中を見る。
……数秒。
その表情が、わずかに歪む。
ミネソタは、それを見逃さなかった。
「どうした?」
「……いや」
サーベイジは、すぐに笑顔を作る。
「大した事じゃないです。」
だが、その笑顔は――薄かった。
⸻
サーベイジは、視線をこすりへ向ける。
「……こすり」
「一度、ちゃんと聞いておきたい」
こすりは、びくっと肩を揺らした。
「ミミズバーガー」
「あれには、どんな力がある?」
「それと……」
一拍。
「なぜ、マンイーターはお前を狙う?」
店内が、静まり返る。
こすりは、しばらく黙っていた。
やがて、観念したように小さく息を吐く。
「……実はね」
⸻
ドカンッ!!!
言葉を掻き消す、爆音。
床が揺れ、天井の照明がきしむ。
「っ!!」
アルティメットの隊員たちは、反射で動いた。
「外だ!!」
「警戒!!」
扉を蹴り開け、全員が通りへ飛び出す。
⸻
そこに――
立っていた。
白い。
人の形をしているが、
皮膚は紙のように薄く、
全身に血管のようなヒビ模様が走っている。
細身。
異様に細い。
まるで、割れかけの陶器。
そして――
右手に、首を持っていた。
グレンの首だった。
まだ、目が開いている。
⸻
思考が停止した。
空気が、凍る。
誰も、声を出せない。
マンイーターは、にぃ……と笑った。
人間の真似をするような、
歪んだ微笑み。
そして――
ぽい、と。
グレンの首を、隊員たちの足元へ投げ捨てた。
⸻
首が、地面に落ちる。
その瞬間。
「――全員、警戒態勢!!」
店長ミネソタの怒号が、空気を裂いた。
思考が、戻る。
「散開!!」
「囲むな、距離を取れ!!」
アルティメットとマンイーター。
同時に、踏み出した。
⸻
速い。
――理解する前に。
白い影が、消えた。
次の瞬間。
ズブッ
鈍い音。
リンネの腹部を、
白い腕が――貫いていた。
「……え?」
リンネの口から、息が漏れる。
遅れて、血。
「リンネ!!」
サーベイジの叫び。
だが、体が動かない。
あまりにも、一瞬すぎた。
⸻
再び。
全員の思考が、停止する。
⸻
その頃。
店内。
カウンター。
「……もぐ」
「もぐもぐ」
無礼は、チーズバーガーセットを食べていた。
口から
ケチャップが溢れた。
⸻
第十一話・完
次回もお楽しみに!




