041 手紙③【エイデン】
その手紙を読み終わった後、俺は何も言うことが出来なかった。
ジュナイは相変わらず、黙ってエンガワに腰掛けている。
俯く横顔からは何の感情も読み取れない。
だが、それは彼が何も思っていないという事ではない。
むしろ様々な感情が入り乱れ、途方に暮れているのだろう。
それほどこの手紙に込められた思いは、真摯で烈しいものだった。
写真の中で微笑んでいた、ジュナイの血の繋がらない弟…
『リュウ』さんの姿を思い返す。
神の遣いめいた怜悧な美しさの下には、誰よりも熱い血潮が流れていた。
それに身を焦がしながらも、彼は短い人生を精一杯生きたのだ。
いつの間にか陽が傾き、夕闇は藍色を濃くしていった。
どこかで咲いている木から零れてきたのだろう、異国の花の花弁が、
狭い裏庭の痩せた地面に、ひらひらと舞い落ちる。
俺とジュナイはエンガワに腰掛けたまま、その様を眺めた。
にゃあと鈴を転がしたような声が響き、
リュウがジュナイの膝の上に乗った。
ジュナイの手のひらが、黒くつややかな毛並みを撫でる。
そこにも小さなの花弁がいくつも舞い掛かる。
その中には、ジュナイの零した涙も含まれていた。
行き場を見失っていた思いが、ようやく出口を見つけたように
透明な雫は頬を伝い、黒い毛並みに吸い込まれていった。
「リュウさんは…」
「……」
「お前を、本当に好きだったんだな…」
「……」
「よかったな…」
「……」
ジュナイは無言で、こくりと頷いた。
愚かな事を口に出してるのは分かっていたが、
言わずにはいられなかった。
腕を伸べて肩を抱き寄せる。ジュナイは黙っている。
泣きじゃくるでもなく、静かに涙だけが流れる。
ロビンくんの話を思い返す。
ジュナイとリュウさんの重ねた年月を正しく理解できるのは、
この世で彼ら二人だけなのだろう。
ゆえに、これ以上俺に掛けられる言葉はない。
ただこうして、その傍に寄り添う。
俺とリュウがジュナイにしてやれることは、
それだけだった。




