新緑の決意
和貴と澪の結婚式を終え、神田の町は新緑が眩しい季節へと移り変わっていた。
春の柔らかな風が葉を揺らし、生命の息吹が町中に満ちている。
そんな中、篤志と柑乃は、それぞれの家族と向き合う時を迎えた。
まず柑乃は、祖父・宗助のもとを訪れた。
新緑の木漏れ日の下、厳格ながらも温かみを感じさせる宗助が迎えた。
柑乃は深呼吸し、凛とした表情で伝える。
「お爺様。私は、香月屋の看板を手放すつもりはありません。薬師として、これからも患者さんの心に寄り添う薬を調合し続けます」
宗助は静かに頷き、穏やかな緑の色に包まれる庭を見つめた。
「香月屋の誇りは、おまえの薬師としての誇りだ。しかしそれだけで満足か?」
柑乃ははっきりと答えた。
「私の使命は“香りを届けること”です。薬師として患者の心に届く香りを、そして妻として、篤志先生の隣で、温かな家庭の香りを共に紡いでいきたいのです」
その真摯な言葉に宗助の目が潤み、優しく笑った。
「……わかった。おまえの信じる道を、篤志殿と二人で歩んでいきなさい」
その言葉を受け、柑乃は心からの感謝を込めて深く頭を下げた。
一方、篤志は父・文蔵と向き合った。
文蔵は医家の伝統を重んじるがゆえ、険しい表情のままだった。
だが篤志は決して引かず、誠実な眼差しで話す。
「父上。私はあなたを敬いながらも、変わる時代を感じています。医は理屈だけでなく、柑乃さんの“薬”という心が不可欠です」
篤志は隣の柑乃の手を握り、力強く誓った。
「二人で新しい斎藤家を創り、医と薬の智慧と心で人々を救っていきます」
文蔵は静かに息を吐き、柔らかな緑の光を浴びながら言った。
「……わかった。おまえたちの道を、私も見守ろう」
篤志はその言葉に胸が熱くなり、柑乃も深く頷いた。
こうして二人の確かな決意は両家の心を溶かし、結婚は家族の祝福を得た。
篤志と柑乃は、互いの「家」を尊重しながら、新緑の季節のように瑞々しい未来を共に歩み始めた。




