表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/41

いつもと違う朝

篤志からの告白を受け入れ、二人はついに恋人同士となった。

翌朝、いつもと変わらぬ神田の町に、しかしふたりの胸の内にはこれまでにない新鮮な感情が満ちていた。


篤志は、朝日が差し込む診療所の戸を静かに開けた。

(……柑乃さん)

その名を心の中で呼ぶだけで、胸がじんわりと温かくなる。

不器用ながらも、彼はこの関係を大切に育んでいきたいと、強く心に誓った。


一方、香月屋の調合場では、柑乃が薬草を刻んでいた。

だがその手つきは、どこかぎこちなく、いつもより少し硬かった。

(……私、篤志さんと恋人になったんだ……)

頬に手を当ててみると、ほんのり熱い。


祖父の宗助や両親に、このことをどう伝えればいいのか。

そんなことを考えながら、戸の開く音に振り返ると、一人の青年が立っていた。


「篤志先生!」

「……柑乃さん」


互いの視線がぶつかり、どちらからともなく顔を赤らめる。


「あの……お仕事中に、申し訳ないです」

「いえ、先生こそ、お忙しいのに」


言葉に詰まり、ぎこちない空気が二人を包む。


そんな時、背後から宗助の声が響いた。

「おや、篤志殿。いらっしゃい。柑乃、篤志殿と調合場の掃除でもしておきなさい」


宗助は、二人の関係を察しているように、にこやかに告げ、ゆっくりと奥へ引っ込んでいった。


やがて、調合場には篤志と柑乃だけが残った。


篤志は、まだ少し緊張した様子で、静かに尋ねた。

「あの……何かお手伝いできることはありますか?」


柑乃は、刻んでいた薬草の手を止め、笑顔を見せながら、薬草をひとつ差し出した。

「では、この生薬を先生に刻んでいただけますか?」


「わかった」

篤志は少しほっとした表情でうなずいた。


二人は並んで、慎重に薬草を刻み始める。

言葉は少なくとも、隣にいるだけで心が満たされる、そんな穏やかな時間がゆっくりと流れていく。


時折、篤志はそっと柑乃の手元をちらりと見つめる。

柑乃は、彼の横顔をつい見てしまい、心がぽっと熱くなるのを感じた。


篤志は、刻み終えた薬草の香りを鼻先に近づけ、やさしく笑った。

「良い香りだな」


その言葉に、柑乃の胸は跳ねるように高鳴った。

(言葉よりも、先生の温かい眼差しが、私を幸せにしてくれる)


二人の視線が交わり、自然と微笑み合う。


これから始まる新しい日々の中で、互いの存在が静かに、しかし確かに支えになっていく予感がした。


薬草の香りに包まれた調合場で、二人はこれからも患者と向き合い、手を取り合って歩んでいくのだと、心から思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ