医療の架け橋
秋風が肌を撫でる頃、神田の広場では再び「施薬講」が開催されていた。
今回は、疫病の教訓を胸に、より具体的な医療の未来を語り合う場として、篤志と清原透馬が共に壇上に立った。
篤志は、これまでの現場経験と東洋医学の知恵を基に、患者一人ひとりの心に寄り添う医療の大切さを語り始めた。
「私たちは、ただ病を治すだけでなく、患者さんの心に寄り添い、希望を与えることも、医療の重要な役割だと信じています」
巧みな言葉ではなかったが、篤志の声には疫病の現場で得た熱い想いが込められていた。
「今回の疫病で、香月屋の柑乃さんに教えられました。薬は効けば良いものではなく、飲む人の心に届くことが大切だと。医療も同じです」
会場は静まり返り、聴衆は篤志の言葉にじっと耳を傾けていた。
続いて透馬が立ち上がった。
「篤志の言う通りです。西洋医学は合理的で科学的な素晴らしいものですが、心の領域は理屈だけでは解けません。東洋医学と西洋医学を融合し、心と体の両面から患者を診ることこそ、これからの医療の鍵です」
透馬は蘭学的な視点から論理的に篤志の言葉を補い、聴衆に分かりやすく説いた。
二人の思いが重なり合い、篤志が不器用ながらも真摯に現場で感じたことを語り終えると、会場は大きな拍手に包まれた。
それは、篤志が初めて公の場で自分の医療観を認められた瞬間でもあった。
壇上から観客席を見やると、柑乃が満面の笑みで篤志に拍手を送っていた。
篤志はその笑顔に心の中で「ありがとう」と呟いた。
二人の心は確かに共鳴し合い、新たな医療の未来を共に歩み始めていた。