表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/27

エピソード8 生徒会から呼び出しをくらいました。演習が好きなんでしょうか。

放課後の特別棟。エイミに連れられて案内された部屋の前で、私は足を止めた。


「……ここって、生徒会室じゃない?」


「うん。ついに『上』からお呼びだよ。緊張するね!」


「緊張してるのはあなただけじゃ?」


「むしろ私はテンション上がってる! リヴィア×会長、観察チャンス!」


なにがチャンスだ。


ノックの音と共に、重厚な扉が開く。


中にいたのは──整った黒髪に深紅の瞳を持つ少年。

背筋の伸びた姿勢、物静かな空気。明らかに、空気が違った。


「ようこそ、生徒会へ」


低い、けれどよく通る声。


「リヴィア・ノースフェル。君を正式に、生徒会注視対象《特級》とする」


特級って。

「注視? また面倒ごと?」


「『危険すぎる逸材』──学園の均衡を崩す可能性がある存在。それが、君だ」


どこか機械のような響き。私はふっと鼻で笑った。


「なんか、すっごく失礼な言い方された気がするんだけど」


「事実だ」


「なら、会長は『私を止められる』って自信あるの?」


ピリッ、と空気が張り詰めた。


カイン・アルヴェイン。

現役最強とも噂される男は、一歩こちらに歩み寄った。


「君に『敵意』を向ける気はない。

 ただ──君が本当に『味方』かどうか、確かめたいだけだ」


その言葉に、ほんの少しだけ胸の奥がざわついた。


「ふーん。じゃあ、そのために監視? まるで犯罪者扱い」


「まだ『証明』がないからな」


カインは書類を机に置いた。

そこには──私の全演習データ、行動記録、対戦成績、魔力推移まで。


「やりすぎじゃない?」


「これでも手加減したつもりだ。正体不明の強者ほど、危険なものはないからな」


「……だったら、私に聞けばよかったのに。

 私は、『努力しただけ』だって」


「言葉で証明できるほど、世界は単純ではない」


言葉の奥に、何か重たいものを感じた。


「──ま、どうでもいいけど。監視でも警戒でも、好きにして」


「ならば、演習で証明してもらおう。『次の対戦』は、私だ」


エイミが「えぇ!?」と変な声をあげた。


「学年公開模擬演習《特級枠》。君と私の勝負。全学園注目の公式演習になるだろう」


「……めんど」


でも、私は少しだけ、笑ってしまった。


「そっちがその気なら。手加減しないよ?」


カインも微かに口角を上げた。


「それを望んでいる」



/



めんどくさい。


生徒会長との模擬戦が決まったとき、私の感想はそれだった。


別にやりたいわけでもないし、戦いなんていちいち見世物にしなくてもいい。

強さは、見せるためのものじゃない。自分を守るためのもの。

それだけのはずだったのに──


「演習、開始ッ!」


号令と同時に、空気が震えた。


(ああ、始まった)


目の前に立つ、生徒会長、カイン・アルヴェイン。

静かな眼差しに、無駄のない動き。

油断も隙もない──けど、熱がない。


感情が、薄い。


まるで水みたいな男だ。

冷たい、透明。でも──底が見えない。


次の瞬間、視界から彼の姿が消えた。


速い。


剣が迫る。反射的に左足を下げ、重力を偏向させる。


「っ──《重力障壁》」


バシュッ、と風を裂く音。カインの斬撃が、私の結界に弾かれた。


「初手でそれか。見事だ」


「挨拶ならもう少し丁寧にして」


手の中に魔力が集まる。詠唱は要らない。私の魔術は、身体に染み込んでる。


「《圧壊球》──!」


手のひら大の黒い球体が、音もなく宙を滑る。


だがカインは避けず、右手を振るう。


「《風陣・解》──」


風の魔術が球体を包み、軌道をそらした。爆発が後方で起きる。


観客席からどよめきが上がる。

誰かが「今の見えたか!?」って叫んでる。


はあ。騒がしい。


楽しい、とは思わなかった。


ずっと鞘に入れていた剣を抜いた。

紫の光が、刀身を淡く照らす。


「次、いくよ。手加減とか、私できないから」


「望むところだ」


また彼が動いた。


今度は魔術陣が空中に展開され、火の気配が強まる。


「《緋炎刃・双撃》──」


ふたつの炎の剣が、私を挟むように飛んできた。


斜め前へ跳ぶ。右足に魔力を集中、地面を蹴って空中へ。


間に合う。


「《重加速・単点》」


自分の重力を一瞬だけ増幅。落下速度をあえて急激に上げて、空中から地面に叩きつけるように着地──


地面が割れ、砂埃が舞った。


炎の斬撃は、すぐ頭上をかすめていった。


「ふっ──!」


斬りかかる。私の一撃を、カインは咄嗟に剣で受け止める。


金属がこすれる音。


「……なるほど。君の魔力操作、異常な精度だ」


「自覚はある」


「その精度で制御された『圧』……避けられないわけだ」


彼の目が、ほんの少し、楽しそうに見えた気がした。


私には、わからない。


「ねえ、生徒会長。どうして私と戦おうって思ったの?」


「『本物』かどうか、確かめたかった」


「本物?」

人間とか魔術に、本物とか偽物なんてないと思うけど。


「強さは、たまに『歪む』からな。暴力になったり、傲慢になったり。そのどちらでもなかった。だから確かめたかった」


「ふうん……それで、わかった?」


「わかった。『努力で辿り着いた強さ』だ。だからこそ──危うい」


一瞬、胸が詰まった。


それ、知ってる。


ずっとひとりで魔術を研究して、誰にも見向きされず、笑われて。


自分を守るために、強くなるしかなかった。


でも、危うくなんかならない。


「私は、壊れない」


「ならばいい。願わくば、その強さが誰かを守る日が来ることを」


彼は静かに剣を下ろした。


試合終了の鐘が鳴る。空気が解けた。


観客席から、ためらいがちに拍手が起きた。それはすぐに大きくなり、演習場を包む。


なんで拍手されてるんだろう。

私はただ、自分を証明しただけ。


──でも、胸の奥が少しだけ、あたたかかった。


それが何なのかは、まだわからないけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ