エピソード7 最近周りの様子がおかしいんだけど、なぜかわからん
模擬戦の翌日、学園の空気が妙にざわついている。
歩くだけで、すれ違う生徒がこそこそと何かを囁いている。
「ねえ、あれが……」
あれって、言わんでくれ。
「ジーク先輩と互角だったんでしょ?」
私は、いつも通りの無表情で登校しているつもりだったが、明らかに周囲の視線が痛い。
あれ? なんか、変じゃない……?
教室に入ると、クラスメイトがざわっと動いた。
ちょっとした沈黙のあと、男子のひとりが立ち上がって、なぜか拍手を始めた。
「リヴィア! 昨日の演習、見たよ! すっげぇカッコよかった!」
「剣のあれ! あれマジで震えた!」
「魔術と剣の合わせ技、反則でしょ!」
次々に飛び交う褒め言葉に、私はどう反応していいのかわからなかった。
「…………ありがとう?」
とりあえず言ってみたけれど、口調が無感情すぎたのか、逆に盛り上がってしまった。
「やっぱリヴィアってクール系だよなぁ!」
「冷静に『ありがとう』って、逆にツボる」
ツボ⋯?
壺?
え、ていうかなにこの反応。
模擬戦って、そんなに目立つものだったの?
私はただ強くなりたくて、魔術を極めて、剣も磨いて、他人に評価されることなんて考えてなかった。
努力してただけなんだけどな。
放課後、廊下を歩いていたら、今度は知らない上級生が話しかけてきた。
「リヴィアさん! よければ、僕たちの演習グループに参加してくれませんか!」
「うちの研究室にもぜひ! 重力制御の理論を教えていただきたいんです!」
いや、なんでそんなに群がるの?
あまりの勢いに戸惑っていたら、どこからか聞こえてくる囁き声。
「ねえ、リヴィアさんって好きな人とか彼氏とかいるのかな?」
「あの距離感、絶対手強いって……」
「いや、絶対恋とかしないって」
カレシ⋯?
カレシってなに?
コイ⋯?
完全に理解が追いつかない。
「なに?それ、コイって魚なの?美味しいのかなぁ」
ぽつりと呟いた私の声は、思いのほか大きく響いてしまい、周囲が一瞬静まり返った。
しまった。
次の瞬間、女子たちが「かわいい!」と騒ぎ出し、男子は一部崩れ落ちていた。
―――なんで?