エピソード4 王族の人絡んできたんだけど、なんか用ですか?
演習の翌日、いつものように静かに中庭で読書をしていた。
昨日のせいか、結構周りがうるさいけれど。
「君が……ノースフェル嬢、だね?」
影を落とすように声がかかる。
見上げると、陽光を背に立っていたのは品のある少年だった。
きらめく金髪、整った顔立ち、そしてその制服には見慣れない金の紋章がついていた。
「……誰?」
不審人物だったら、警備兵に突き出してやろう。
「私はルシアン・アークライド。王家の第三王子だよ」
「へえ」
拍子抜けした。
なんだ、第三王子か。
「……その反応、普通もう少し驚くところじゃない?」
少し不服そうに言った。
「肩書きで強さは変わらないから」
ルシアンはひとつ咳払いして微笑む。
「君の演習試合、拝見させてもらったよ。まさかあのマグレイン教授を、あそこまで翻弄するとはね」
「……あれ、最初の方、本気じゃなかったらしいよ」
だって、今から次のフェーズに移るって、言ってたし。
くーるだうん?だったっけ。
ん?ダウンって?
ま、いっか。
「いや、あれは本気だったと思うよ。彼、倒れた後で『筋肉痛で三日は休む』って言ってたから」
「うわ、先生……」
張り切りすぎたね。
「ふふ。さて、本題だけど。君、うちの直属騎士団に入る気はない?」
うち=王家 騎士団=魔術使えない
「断る」
「即答だね!?」
「私、魔術と研究で忙しいから」
それ以外興味なし。
「そこをなんとか──」
ルシアンの背後から、ひときわ強い気配が現れた。
「ルシアン殿下、その子に無理を押しつけるのはやめていただきたい」
現れたのは銀髪の少女。
細身の体に凛とした佇まい、左腕には王立近衛の紋章。
「私はセラ・ウィンザード。王家の護衛騎士です。ノースフェルさんの戦闘記録は既に報告済み。殿下、彼女は放っておけばよろしいかと」
「いや、それだと僕の面子が──」
めんつ…?めんつゆ?
「殿下、茶菓子の時間です」
「うっ……撤退しよう、今は」
今は、ってことは。
また、来るんだね。
ルシアンが悔しそうに引き下がる中、セラは私をじっと見た。
「あなた、面白いですね」
私が面白いとは。
「……なんでそうなるの」
「そのうち、また模擬戦でもお願いします」
みんななんでそんなに戦いたいのかなぁ?
みんな、血で血を洗う戦いが好きなのか。
はっっ!まさかの、狂戦士?
いつの間にかセラは王族を連れて去っていった。
──そして今日も静かに、本を開いた。
「……ほんとに、落ち着かないな、最近」