エピソード26 園の教師陣が「冒険者ランクで教えるの無理では?」って混乱してる件 このまま教師じゃないようにしてほしい
特級冒険者。
その称号が、学園内を静かに、しかし確実に揺るがしているらしい。
私はといえば、いつも通りの教室で、静かにノートを取っている。
(あ、ここの魔術理論、解釈間違ってる。三年前に論文で訂正出てた)
隣の生徒が、「うわー、もう授業についていけない……」と頭を抱えていた。
私はそっとノートを見せてあげたけど、彼は目を見開いて固まった。
「な、なにこれ……ていうか、教科書の誤植指摘してる……」
(え、違った?)
数時間後。
私は職員棟の一角、教師会議室という場所に呼ばれていた。
(また、面倒なことに巻き込まれた予感)
ドアを開けた瞬間、十人以上の教師が一斉に立ち上がった。
「来たぞ、リヴィア・ノースフェル!」
「まずは質問だ。君、冒険者ギルドで“特級”って、どういうことだ?」
「ギルドの資料に、破壊規模S++、討伐成功率100%、単独S級魔獣殲滅……って書いてあったんだが」
「なんなら、我々教員の魔力量の十倍以上とあるが……誤記だろう?」
「いや、魔力量はこの前の演習で、確かに……」
「ま、待て、それはさておき! 君は今後の進路として、我々のような教職に――」
「ありません」
ピシャリ。
即答した私に、教師陣の空気が一瞬止まった。
「ないのか……」
「いや、まあ、そうだよな……」
「え、でも、もう授業レベル超えてるし、正直こっちが受けたい……」
「教授クラスでも話題になってるぞ。“もはや教材”だって」
「教材って何……?」
しばらくして、教務長が出てきた。
「リヴィア・ノースフェル君。諸般の事情を鑑み、今後は――“特別講師資格”を学園側から付与する。拒否権は……一応あるが、まあ」
「いやです」
「……そうか。うん、知ってた。でも記録上は“受諾”で通すからな」
(……こういうの、慣れてきたな)
その日の午後。
「魔術理論・応用特論」の授業が、急きょ教室変更となった。大講堂。満員。
なんか、私が登壇することになっていた。
「皆さんこんにちは、リヴィア・ノースフェルです。今日は、“魔力干渉と心象風景の反転性について”話します。タイトルはそれっぽいですが、難しくありません。基本です」
「き、基本……?」
「これで“基本”なら、私は卵です……」
「心象風景って、思考領域じゃないの……? あれ、上級魔術の話じゃ……」
授業終了後、教授が泣いていた。
「……この子、なんなんだ……私、今まで何を教えてたんだろう……」
「いや、むしろ感謝すべきだ。リヴィア嬢が見せてくれたものは、教育の未来だ」
「うん、そう思わないと、立ち直れないからやめて……」
私はというと、帰り道でルシアンに声をかけられていた。
「ねえリヴィア。君、“講師資格を拒否したのに、普通に教壇に立ってる”って、どういう気分?」
「……パンが食べたい」
「あ、うん。そうだね。……逃げる?」
「そうしよう」




