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エピソード23 ノースフェル嬢特別講義、魔術学部の教授が受講希望してきた件。

特別講義当日。

講義室に入った瞬間、私は小さく息を吐いた。


(……おかしい)


教室はすでに満員。最前列には、なぜか魔術学部の教授陣が三人も座っている。


奥の方に目をやると、見慣れた制服姿の生徒たちに混じって――

おい、あれ地方の魔術研究所の所長じゃないか。


(……どうしてこうなった)


私はただ、魔術理論と実戦応用をベースにした簡単な講義をする予定だったのだ。

少なくとも、教授や魔導官僚に見張られるようなつもりはなかった。


「リヴィア嬢、本日はどうぞよろしくお願いいたします」


そう言って深々と頭を下げてきたのは、灰髪に金縁メガネの老教授。

確か、魔術学部主任教授のフィンデル・ゼイス――学園の理論魔術の権威だったはず。


「……よろしくお願いします。内容、難しくないですよ?」


「それが何よりです。貴女のような発想を我々がどこまで理解できるか……期待と不安が半々ですな」


(だから、なんでそんな神妙な空気なの)


「おはようございます、リヴィア嬢」


その時、勢いよく教室の扉が開いた。

銀髪に宝石のような瞳――ルシアン王子だった。


彼は颯爽と入ってくると、教壇の横に立ち、にこりと微笑んだ。


「今日は助手として全力でサポートします。資料も配りますし、タイムキープも完璧にします」


「……王子ですよね?」


「はい。 でも今は弟子ですから」


(いや、そこは否定して。むしろちゃんと否定して)


私は、わずかに首を傾げながらノートを開いた。


「……まあ、いっか。ルシアン王子、魔術解放式の図解、黒板に描ける?」


「はい」


(便利な助手ができた。これはこれで……いいかも)


講義は、思った以上にスムーズに進んだ。


私は「高位魔術を効率よく発動するための魔力操作の簡略理論」について説明した。


専門用語を避け、なるべく実演も交えた。


途中、黒板いっぱいに詠唱構文の枝分かれ図を書いていくルシアンに、


教授の一人がぽつりとつぶやく。


「……分かりやすい」


それは、ため息のようで、同時に敗北宣言のようでもあった。


「今の、もう一度お願いします!」


「その術式、通常の体系と根本的に違って見えますが、なぜ?」


「あなた、本当に独学なんですか!?」


質問が飛び交い始めると、講義はもう授業というより質疑応答大会だった。


私は淡々と答える。


「実戦中に魔力の乱れが生じた場合、枝構文を動的に再構成するのが一番手っ取り早いんです」


「動的って……ああ、なるほど、その場で書き換えるという意味ですね!? できるかーッ!」


(できないの前提で叫ばないでほしい)


講義が終わった頃、私は珍しく肩が少し重かった。


……人に教えるって、こんなにエネルギー使うのか。


「お疲れ様でした。リヴィア嬢」


ルシアンが冷たいお茶を差し出してくる。


(……気が利くな、この王子)


「ありがとう。助かった」


「いえ。私はもう、助手として生きる覚悟を決めましたので」


「いや、王子として生きて?」


帰り際、教授陣の一人がぽつりと漏らした。


「――あの子は、学問の破壊者だ……いや、創造者か……?」


もう一人が答える。


「次回もぜひ受講したい。……うちの講義より有益だ」

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