エピソード22 とうとう教育省から「指導要請」が届いたんですが、私は学園の一生徒です
その日の夜、寮のポストに妙に分厚い封筒が入っていた。
宛名は――《リヴィア・ノースフェル殿(個人宛)》。
妙に丁寧すぎる字体と、国章入りの封蝋。
(……また面倒な匂い)
私は椅子に腰かけ、封を切る。
中から出てきたのは、予想以上に堅苦しい文体の正式公文書だった。
魔術学習者 リヴィア・ノースフェル殿
貴殿の提出された論文ならびに実地指導記録において、貴重な成果が認められました。
よって、本国教育省より、以下の要請を正式に通達いたします:
一.教育省認定「臨時講義指導者」としての承認
一.若年魔術師育成制度における協力依頼
一.王立教育局認可機関との共同プログラム開発に関する協議
……(以下、長文略)
「……いやいやいや、待って?」
(私、まだ学園の一生徒なんだけど!?)
しかも最後のページ、署名欄には
「文部行政最高顧問 兼 教育監査官 レネリウス・アルト=フィレイユ」
……って、あの“魔術官僚の鬼”って呼ばれてる人じゃないの?
そのとき、部屋のドアがノックされた。
「リヴィア様、すぐに通達を確認いただけたでしょうか?」
開けると、立っていたのは教育省の文官――らしき人。
妙に汗をかいている。
「本来は、ご家族への説明から入るところですが……」
「ご家族……いませんが?」
「あっ……(やべぇ顔)」
「まぁ、単独交渉で支障ありませんね。問題ございません!」
(……雑すぎない?)
「……何が目的です?」
「えー、要するにですね、教育省としてはリヴィア様の才能と手法を“教育資源”として――」
「“資源”って言いましたよね、今?」
「いや! あの、そういう悪意のある意図はなくっ」
私は書簡をもう一度、ペラ、とめくった。
(“魔術指導カリキュラムの根幹構築に関与”……えぐいな。学園じゃなく、国レベルで私を取り込もうとしてる)
「ところで、拒否したらどうなります?」
「えっ……あっ……えっと……」
(詰まった。これ、脅しじゃなくてガチだな)
「とりあえず、今日のところは寝ます。明日考えます」
「は、はい……!」
文官は深く頭を下げて帰っていった。
【翌朝|学園・掲示板前】
「おい、見たか!? 今日の掲示板!」
「本校に所属するリヴィア・ノースフェル嬢が、教育省臨時講師に任命されました、だって!」
「え、まじ? もう先生じゃん」
「そっちより、特別休講:リヴィア嬢特別講義ってなんだ!?」
寝て起きたら、私、先生扱いされてたんだけど。
これ、静かに暮らすどころか、国家案件になってきてない?




