エピソード17 先生たち、最近質問多くないですか。
最近、教師たちの様子がなんだかおかしい。
授業中、妙にこちらを見る視線。
放課後、職員室の前でばったり出くわす率が異様に高い。
それに――
「ノースフェルさん、少し時間いいかな? この理論式なんだけど……」
教師に呼び止められてる。
「あ、この変数ですか? これ、前提理論が違いますよ。第五魔導理論じゃなくて、第六魔導連携の方が適用されます。変数aをbに置換すれば、式はこう――」
「ほう……なるほど。そうか……」
私は普通に解説しているつもりなのに。
その日の午後、職員室では――
「……なあ、聞いたか? ノースフェルに聞いたら、あの理論、あっさり修正されたんだが……」
「実は俺も……うっかり質問したら、新解釈を提示されてな。教科書を二章分、まるっと書き換えたくなった」
「俺なんか、逆に『ここはこう直したほうがいい』って講評されたぞ……!」
「……我々が教える側……だったはずでは?」
「もう『教わる側』で良くないか?」
「いや、マジでそのほうが早い」
全員が静かにうなずいていた。
次の授業――
「……ここまでが基本構造だ。では、この演算の応用問題……ノースフェル、生徒に分かりやすく解説を頼む」
「えっ。先生、今私に振りました?」
「頼む。お前のほうが『分かりやすくて具体的』なんだ」
「いや、先生……」
「私はもう教科書を信じられない体になってしまった」
「……重症ですね」
それでも、頼まれたら断れない。
私は黒板に立ち、魔術理論の応用を解説した。
もちろん、教師の顔色を気にせず、ただ「分かりやすく」を心がけて。
そして講義後――
「なるほど、これは……! いや、こういう教え方があったとは……!」
「天才というより、恐怖だな……」
「……我々の立場は?」
だから私、教師じゃないんですが。
そのうち、正式に発表があった。
【学園通達】
リヴィア・ノースフェルは、特別講義における「補佐役」として任命されます。
教員の要請により、必要に応じて「講義協力」を行うことができます。
……いや、何それ
放課後の図書室にて。
「リヴィア嬢、最近忙しそうだな」
ふと横から声をかけてきたのは、生徒会副会長。ノートを抱えながら、なぜかしょんぼりしている。
「……何してるの?」
「勉強しに来たのに……リヴィア嬢の問題、難しすぎて心が折れた。泣きながら帰りそう」
「え、普通に基本問題しか置いてないけど……?」
「『普通』の基準が違うんだよ、君は……!」
なんかみんな、勝手に自滅していく。
*
こうして、私は知らぬ間に、教師にも生徒にも「教える側」に回っていた。
でも、本音を言えば――
私はただ、静かに図書館で本を読んでいたいだけなんです。




