表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/35

エピソード12 生徒会の公式演習試験が始まるらしいけど、静かにしてていいですか?静かにさせてください

学園内は、異様なほど浮き足立っていた。


どうやら、生徒会主催の公式演習試験とやらが近づいているらしい。


知らない。私、呼ばれてない。ってことにしておこう。


だが、現実は甘くなかった。


「リヴィア=ノースフェル、特別参加枠として出場要請が届いているぞ」


担任が、満面の笑顔で書類を渡してきた。


「……断っていい?」


「いや、特別枠なので辞退不可だ」


「どうして?」


「あまりに戦闘能力が高いため、上位層とのバランス確認を行いたい、とのことだ」


なるほど、すごく迷惑。




──休み時間。


今日も今日とて、後輩、同学年、上級生にまで囲まれて、質問攻め。


「リヴィア先輩、魔術構築の時って、イメージはどういうふうに?」


「重力操作の詠唱タイミング、教えてください!」


「リヴィアちゃんって、恋人いるの?(※魔術関係ない)」


質問が無秩序すぎる。


「お願いです、魔術指南だけでも……」


いや、私、教師じゃない


「ルシアン殿下が言ってましたよ。『リヴィア嬢の戦闘は、詩のようだ』って!」


 またかあの王子……




私は決意した。


本気で。


──常時、気配遮断の結界を展開しよう。


透明化ではない。姿は見える。が、『認識されにくくなる』

それを魔術的に調整して、『授業と演習以外は気配ゼロ』で生活するのだ。


「リヴィア、さっきから黙ってるけど、なにして──」


「結界構築中」


「えっ? あっ、あれ、なんか空気が──」


ぱしゅん、と音を立てて、私の気配がふっと消える。


隣の生徒が、戸惑った顔をしてきょろきょろし始めた。


 成功。




──昼休み。誰にも呼ばれず、誰にも声をかけられず。

中庭の一番奥で、地味なサンドイッチを食べる。


これこれ。これが平和ってものだよ。


「──……あ、見つけた」


は?


声がした。気配を消しているはずなのに。

見上げると──また金髪の王族が、風に揺れる制服で立っていた。


「さすがにそれくらいの結界では、私は誤魔化されないよ?」


「……趣味、ストーカー?」


「違う。『興味深い研究対象』だ」


いやそれはそれで怖い。


「ところで、生徒会演習試験。楽しみにしている」


「してないけど」


「僕と同じチームになれるといいね」


「断れる?」


「無理だ。特別枠の君は、振り分けできないから、運次第」


 運命、なぜ私にだけ厳しい。




その日の放課後、私は追加で「音遮断+転位用陣」まで組み込んだ。


次は物理的に逃げる準備も万全だ。


でも──どうせ、バレる。どうせ、見つかる。


それでも。


せめて、努力はしておこう。


私は静かなる生活のために、全力で魔術を使っていた。





学園公式演習試験──それは、上級生と下級生が混成チームを組み、実戦形式で行われる『能力評価試験』。


実力・戦術・連携・判断力を総合的に測るため、演習は全学年注目の一大イベントだった。


が。


「なぜ、私は先鋒?」


開幕直前、チームリストを確認した私は──静かに、絶望した。


リヴィア・ノースフェル──先鋒。


「えっと……説明してくれる?」


「あ、あのですね!」

慌てて駆け寄ってきたのは、チーム担当の副会長代理。


「今回の演習、先鋒が主導権を握る形式でして……! えー、その、リヴィアさんが一番信用できるってことで……!」


「信用いらない。静かにしてたい」


「で、でも殿下からも『最も信頼できる剣と魔術の使い手』と高評価を……!」


……またあの金髪だ。




演習場、出撃三分前。


私は、両手を前に出し、そっと空間を撫でるように結界を調整していた。


(瞬間転位魔術:双重固定転位……音読室の陣、発動確認。接続良好)


──瞬間移動。距離20kmまで対応。

座標は、私のお気に入りの「誰も来ない音読室」に設定済み。


0.1秒以内で消えられる。準備は万全。


何かあったら即退避。これで勝てる。


あくまで、逃げのため。

戦うつもりはない。できれば、開始直後に転位して、行方不明になりたい。


が。


「リヴィア=ノースフェル、出撃!」


放送が鳴り、私は演習場の中心へと転送された。






あ、無理。無理なやつ。


私の目の前には──巨大ゴーレム型戦術魔導兵器(演習用)×3体。

しかも、他のチームはまだ出てきていない。なぜか、私だけ先行配置。


「開幕10秒で、『単独対多』なの……?」


──その瞬間。


ごぉぉん……!


ゴーレムが魔力を噴出し、右腕を振り上げた。


よし、転位──


──が、詠唱の前に。


「そこまでだ」


と、聞き覚えのある声が割り込んだ。


──ルシアン・アークライド。

金髪の第三王子が、私の横に現れていた。


は?


「私も同時配属された。安心するといい」


「してない。なんでいるの?」


「『逃げようとするだろうから』と読んで、転位座標に『干渉式干渉魔法』を仕込ませてもらった」


「…………」


「見事に準備されていたね。まさか陣を音読室に刻んでいるとは。さすが、抜かりない」


何この人、ほんと怖い。



ゴーレムが一斉に突進してくる。


私とルシアンの方へ、巨大な魔力が収束する。


「リヴィア嬢、あちらは任せる」


「任せないで。私は静かに逃げたかったの」


だが、もはや選択肢はない。


ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、「うるさく」する。


──静かなる魔術起動。


両手を広げ、無詠唱の連続構築式:反射型結界+重力断層展開。


次の瞬間。


「……ッ!」


ゴーレム3体の突進が──空中でぐにゃりとねじれ、まとめて後方に吹き飛んだ。


爆音と、轟音と、土煙。


演習場の観客席から、どよめきと歓声。


ルシアンが笑う。


「まさに、詩のような戦闘だ」


「だから静かにしてって言ってるでしょ……!」


──こうして、リヴィアの『静かなる演習』は、静かでない幕を開けた。





/




後日。



演習試験の翌日。

私は、何事もなかったように結界を張りながら、学園の廊下を歩いていた。


「静かに……目立たず……空気のように……」


だが。


「──あ、リヴィアさーんっ!!!」


しまった、見つかった。


走ってきたのは、生徒会副会長。


私に演習で負けてから、『真面目をこじらせすぎたノート中毒男』の異名を持った、努力型メガネ君だった。


彼は、プリントとノートを抱えながら、鬼気迫る顔で私の前に立ちはだかる。


「お、お話を、お話をお願いしますっ!」


そして、なぜ敬語。


「静かにしたいです」


「すみませんでもこれだけは聞いてください!!」


──彼は、震える手でノートを開いた。


中には、私の演習時の行動を逐一記録したらしい魔術解析ログが、びっしり。


「演習初手、5.3秒で三重結界を展開してからの無詠唱魔術ですが……これ、普通は成立しません!」


「そうなんだ」


「『普通は』詠唱短縮か術式分解が必要なんです! でもあなたは、意識だけで魔術展開の最適化をやってる! しかも無意識でっ!」


「はい?」


「無意識で空間歪曲とか……もはや理論が存在してない! なんなんですかあれは!? 何者ですかあなたは!? 物理法則の敵ですか!?」


物理には勝ちたいけど、敵ではない。




「生徒会の戦術分析部、昨夜から徹夜でデータを解析したんです!」


「大変ですね」


「7人が発熱! 3人が『俺の魔術観が壊れた』って叫びながら窓際で黄昏れて、1人は詩を書き始めました!」


詩……?


「私は、あなたの魔術がどうやって成り立っているのか、せめて一部でも参考にしようと……!」


──そう言って、副会長は泣き出した。


「……でも、すごすぎて何も参考にならないんです……!!」


いや私、別に「参考用」に動いたことないし……




「お願いします、せめて、せめて基礎構築理論だけでも教えてください!」


「え、あの……まず空間に手をかざして……」


「はいっ!」


「“静かにして”って念じます」


「……えっ?」


「で、『できれば誰にも見つかりたくない』って思うと、結界が展開されます」


「…………それ、精神論では?」


「はい。あと、たぶん心が静かだと、発動が早いです」


「参考にならねえぇぇぇぇぇ!!」




彼は、がくりと崩れ落ち、膝をついた。


「努力で追いつけると思ったんですよ……!」


「たぶん、努力でどうにかなると思いますよ?」


「本当に思ってます!?」


……うん、まぁ、私が言うと説得力ないやつ。




結局、副会長は

「今日の僕の敗因は、人生」

と呟いて立ち去っていった。


今日もまた、周囲の謎評価だけが爆上がりしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ