エピソード11 何この『魔術指南希望者』の長蛇の列は
また翌日の朝の教室。
入った瞬間、全員の視線が刺さる。
……あ、今日もだめな日だ
「リヴィア先輩、魔術の訓練見てもらえませんか!?」
「弟子にしてください!」
「次の演習、付き合ってください!なんでもしますから!」
『なんでも』って、安く使いがちだよね、この学園生徒。
──朝から、三十人くらいに囲まれた。
「……私は、事なかれ主義です」
「でも最強でしょ!?」
「その『紫に光る瞳』見せてください!」
(※これはテンションで要求するものじゃない)
教室から逃げ出すと、今度は中庭で待ち伏せ。
どうやら『リヴィアがいる場所』を共有する謎の情報網まで形成されてるらしい。
平和、どこ。
やっと撒けて、静かに魔術書でも読もうと思って。
静かな時間に身を任せる。
あーーー、こういうとき、あのめんどくさい人が来なくてよかっ―――
「リヴィアさん、ごきげんよう」
盛大にフラグ回収。
金色の髪、爽やかな笑顔。王族のくせに妙に馴れ馴れしい──ルシアン・アークライド殿下。
「何か用?」
「いや。ただ顔が見たくて。最近、学園内での君の影響力が目覚ましい。嬉しい限りだ」
「私、関与してないよ?」
「そういう姿勢がまた、君らしくて良い」
この人、褒めるの好きすぎじゃない?
「ちなみに──最近、『ルシアン殿下がリヴィアに夢中』という噂も広まってるが」
「へえ」
「まあ、否定はしない」
「…………」
え、なにこの人、急に爆弾投げた?投げたよね?
「もちろん、『力への敬意』としての興味だ。誤解のないように」
「誤解もなにも、まずその前に距離感どうにかしてくれる?」
昼休み。
なぜか校舎裏にできていた謎の行列に案内される。
「こちら、リヴィアさんの『個別指導希望者リスト』です!」
と、差し出された紙束。50枚以上ある。
「え、勝手に作ったの? 誰が?」
「生徒会の情報班と、補習担当教官の協力で……」
「私、許可出してないけど」
「でも、皆さんリヴィアさんの『姿勢』に感動してて……」
「どの姿勢?」
「こう、無言で敵をねじ伏せるところとか……!」
感動するポイントがよくわからない
その日、私は初めて『音読室』という謎の静音部屋に避難した。
もはや屋上も使えない。中庭も廊下も視線と噂だらけ。
静かにしたいだけなのに……
なのにどうして、王族に付きまとわれて、魔術教室の講師みたいになって、勝手に副会長に仕立て上げられかけて……
本当に、私は何もしていないのに。
ただ、魔術を極めたい一心で努力して、ちょっとだけ力がついただけなのに。
──なのにどうして、今、部屋の外でまた誰かが騒いでるの?
「ルシアン殿下、またリヴィア先輩の居場所聞いてますよ……!」
また!?
私は今日も、静かに暮らせなかった。




