エピソード10 なんかまた変な噂立ってるんだけど、私は静かにしたいだけなんです
朝。
登校しただけで、周囲がざわついた。
──いや、ざわついているというより、明らかに私を見てコソコソ喋っている。
うん、なんか、嫌な予感しかしない。
「リヴィアさん、本当なんですかっ?」
いきなり勢いよく飛び込んできたのは、隣の席の女の子。目がキラキラしている。
「……なにが?」
「生徒会入りの内定が出たって……!」
「誰が言ってたの?」
「え、あちこちで。演習の後、会長が屋上で直々にスカウトしたって。二人きりで……」
あの会話、屋上に誰もいないって思ってたけど……聞かれてた……?
「で、『一度目の勧誘は静かに断ったが、二度目で心が動いたらしい』って」
「動いてないけど」
「『このまま生徒会副会長コースなのでは?』って声もあります!」
「副会長って勝手に職位上げないでほしいんだけど。っていうか、副会長いるじゃん」
教室の視線が痛い。
ほとんどが、『すごい人』を見る目になっている。
英雄みたいな
違う。私は静かに魔術やってたいだけ。
「リヴィアちゃんって、もしかして裏で王族とも繋がってるの?」
「リヴィア先輩って、元Fクラスなんですよね!? でも隠れた天才って設定で、実は生徒会に送り込まれたエージェントだったって……!」
いや、そんな設定、どこから出た。
私の知らないところで、キャラが勝手に盛られてる。
静かに過ごすどころか、私の名前だけが独り歩きしていく。
──しかも。
「こんにちは、ノースフェル嬢」
また来た……
ツヤのある金髪、完璧な制服の着こなし。そして無駄に存在感のある微笑。
第三王子、ルシアン・アークライド。昨日の演習も見ていたらしく、なぜかやたらと『興味を持ってますオーラ』を出してくる貴族男子。
「生徒会からの勧誘は、断ったそうですね」
「聞くの早くない?」
「ふふ、私は情報には強いので」
やだこの人、情報屋かなんか……?
「ところで、次の演習で私のチームに加わってもらえないかな」
「いやです」
即答した。
貴族とか王族とか関係ない。めんどくさいから却下。
「……なるほど、実にリヴィアさんらしい返答だ」
だからなんでちょっと嬉しそうなの?
昼休み。
逃げるように中庭の木陰に避難したけど──
「ねぇねぇ、やっぱりリヴィア先輩が最強ってことでいいの?」
「学園最強ランキング、一位にしていい?」
「魔術演習、見学したいっていう外部貴族まで来てるらしいよ」
なにそれ怖い。
「でも、当の本人は『事なかれ主義』って主張してるんだよね?」
「めちゃくちゃ矛盾してて好き!」
いや、好きとかじゃないから。
──こうして、一日が終わった。
どこに行っても噂、視線、謎の称賛。
私は静かに暮らしたいだけなのに、なぜこんなに周囲が騒がしいのか。
帰り道、一人になって空を見上げる。
あーー魔術の研究だけして生きていきたい。
そんなささやかな願いが、今日も音もなく吹き飛ばされる。




