第1話 火縄の向こうに見えたもの
火縄銃――それは南蛮渡来の衝撃的な新兵器。 だが、日本ではその欠点を克服しようとした記録は、ほとんど残されていない。
「日本人は改良好きなはず。なのに、なぜ……?」
戦国の風雲児・織田信長が火縄銃の可能性に気づき、改良を命じたら――? 草履取りから出世した秀吉兄弟が、火薬と玉を紙に包んだ「紙薬莢」、 さらには後込め式銃の開発に乗り出す!
これは、鉄と火薬と夢を武器に、天下布武を駆け抜ける者たちの異録。 現代的発想と戦国の魂がぶつかり合う、新感覚戦国フィクション!
火縄銃――それは南蛮渡来の新しき兵器。
信長のもとに、ついにそれが献上された。
目の前に並ぶ数挺の「種子島」に目を細めながら、信長は問いかけた。
「これは……音と煙で敵を脅すものか?」
「いえ、殿。玉で敵を仕留めるものでございます」
試し撃ちが行われた。
だが、信長はその動作に違和感を覚える。
まず、火薬を銃口から入れ、玉を込め、構える。
次に、火縄に火をつけ、銃爪を引けば――火縄が火皿に落ち、発射。
大音響とともに黒煙が上がり、玉は標的を貫いた。
しかし――次の発射には、銃身の掃除から始めなければならない。
再装填を済ませても、今度は弾が外れた。
信長は独白する。
「……使い物になるのか?
これだけ時間をかけ、命中もしない。
弓のほうが、まだ実戦的ではないのか……?」
その声を耳にしたのが、お側衆・木下藤吉郎(後の秀吉)だった。
「殿、それでは――分解してみましょうか?」
信長の許しを得て、藤吉郎は種子島を分解。
構造を理解した彼に、信長は命じる。
「まずは、火薬と玉を別々に込めねばならぬ仕組みをどうにかせよ」
藤吉郎は考えながら城を後にした。
歩きながら、ふと呟く。
「火薬と玉、いっそ一緒に込められれば……」
家に戻った藤吉郎は、弟・秀長に相談する。
「袋に火薬と玉を一緒に入れて、それをそのまま銃身に込めればいいのでは?」
そしてたどり着いた結論は、燃えてなくなる素材――紙だ。
銃身内で燃え尽き、掃除も簡単になる。
数ヶ月後、彼らは細い紙筒の中に火薬と玉を収めた試作品を完成させる。
紙薬莢――これが、戦国における革命の第一歩となった。
この“弾薬セット”を信長に献上し、試射が行われた。
発射までの時間は大幅に短縮され、信長も満足げに頷く。
「なるほど……だが、やはり前から玉を込めるのか?」
その言葉に、秀吉は返せなかった。
だが帰り道、銃尾にあるネジが目に留まる。
「……これを外せば、後ろから込められるのでは?」
しかし、撃つたびにネジを回すのでは意味がない。
ならば――銃身の途中を切り、横から弾を込めるようにしてはどうか?
発射の衝撃に耐えうる構造を探り、ついに――
**後込め銃**が完成する。
だが、信長はさらなる改良を命じる。
「火縄では、雨の日に使えぬ。次は、それを克服せよ」
火薬と鉄の時代を切り開く挑戦は、まだ始まったばかりだった。