ビニールプールに釣り竿を投げたらドラゴンが釣れた
「暇だなぁ……」
庭のビニールプールを眺めながら、俺はため息をついた。親に言われて小1の妹のために準備したものの、妹は友達の家に行ってしまい放置されている。
「せっかく水張ったし、なんか使えないかなぁ……」
ふと目に留まったのは、ビニールプールを出すときに邪魔だから外に出した、親父の釣り竿。一時期釣りにハマったが、もう5年は埃をかぶっている。
「そうだ、これで釣りでもしてみるか!」
俺は軽い気持ちで、小魚の形のルアーをつけて、ビニールプールに垂らした。
なんの意味もない。ただの暇つぶしだ。
「はぁ、アホなことしてんな俺……」
そう思って竿を引き上げようとした瞬間――
「なんかかかった!?」
さっきまで見えていたビニールプールの底は見えず、深い井戸をのぞき込んだときのような暗闇だ。ルアーが何かに食いつかれ、とんでもない力で竿が引っ張られる!
俺は必死にリールを巻く。竿が折れそうなくらいしなる。
「待て待て待て! これヤバいって!」
そして、遂に現れたのは――
「……ドラゴン!?」
ゲームで見るような龍。でも、サイズはサンマくらいだ。まだ角は生えていない。
「ピィ~!」
龍の子どもは元気よく一声鳴いて俺を見上げた。
「いやいや、なんでこんなのがビニールプールから釣れるんだよ!」
龍はとても大人しく、俺の手に擦り寄ってくる。鱗の手触りがして、幻じゃないことがわかる。
「ピィ!」
俺は龍に「チビ」と名付けて、育てることにした。
両親と妹に見せたら、そりゃびっくりしていた。意外にも家族にも受け入れられ、我が家の公認ペットになった。
不思議なことに、チビはスマホやカメラで撮っても写らない。
そしてチビの食べ物は物質ではない。
肉を想像すると、それをチビが食べる。
想像を食べるなんて、獏みたいだ。妹が想像力豊かな子どもなおかげで、チビは肉を食べ放題。
1ヶ月もすると大型犬サイズになった。
俺が高校に行っている間は庭で寝ている。近所の猫やらスズメやらが庭に集まってくるようになった。友達らしい。
チビは更に成長し、俺の背丈を超えた。さらに空を飛べるようになった。友達の小鳥たちと悠々空を飛んでいる。
大学を卒業し結婚することになり、妻にチビを紹介した。妻は「かわいい」と言ってくれた。
チビは大きくなってもずっと家族。俺に娘が生まれても、子龍のときと変わらず可愛い声で鳴く。
娘もチビがお気に入りだ。
ビニールプールで釣った龍は今では欠かせない家族である。