07 治してあげる
わたしは、速歩で馬場を何周も走り、少しだけ駈歩をしてそれから並歩で馬場をまわり、轡をゆるめて好きに歩かせた。馬の背中は四本の足が動いているのをわたしに伝えて来る。ここでちょっとだけ治療して痛みをなくす。歩様が安定した。
馬の背でロバート様のことを考える。剣術の試合はわたしの競技時間と被る。というか、朝一で長距離が出発してわたしたちが走っている間に他の競技の予選をやるのだ。
でも翌日の決勝は応援に行ける。いつも気を使ってくれるロバート様のために競技中に負傷したら、こっそり治してあげるといいのでは?
そうだ。そうしよう。ペン軸を持って行かなくちゃ。
ロバート様がもし、優勝までは無理かな?だけどもし勝ったら婚約者として祝福をしに行こう。そう思ったわたしは馬にブラシをかけながら、にやにやが止まらなかった。
「お父様、競技会に出る馬なのですが」
「なんだ!好きにしろ」
「はい、学院の厩舎に」
「好きにしろと言った」
「はい」
ここでお兄様が
「あの、馬を連れて行くって?引いて行くのか?ご苦労だな」と言った。
「馬を引くって?お兄様がしてくれるあれのことですか?」とアナベラがお兄様に聞いた。
最近、アナベルは馬に乗っているようだ。ただ、乗って誰かに引いて貰うだけだが、それなりの運動になるからいいことだ。
「使用人に頼むな。皆忙しい」とお父様が言うと
「お姉さまは考えなしですね」とアナベラが言った。どこかで聞いた言葉だ。そうだ、侍女がわたしの悪口で使う言葉だ。
「ほんとに考えなしよね。十分で終わるお茶会の準備をさせるなんて」だった。その言葉をアナベルの前でも使ったってことか。
「そう、リリーは考えなしだ」とお兄様が言うと
「そんな話はやめなさい」とお母様が言うと、またわたしを抜きにした会話が始まった。
わたしは、どうやって馬を学院に連れて行くか考えた。乗って行くしかない。
その日、わたしは馬車を断って馬に乗って学院に行った。学院の厩舎に近い西門から入ると馬を厩舎に入れた。それからこっそり治療した。
更衣室で乗馬服を制服に着替えると始業時間にギリギリだった。
ナタリーとパトラが馬を見たいと言うので放課後、二人を厩舎に連れて行った。
わたしを見て馬は喜んだ。二人に触っていいよと言ったのだが、二人は首を横に振って後ずさりした。
こんなにかわいいのに・・・
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