閑話 フェルナンド目線
入団式の夜、一緒に夕食と取った時のエピソードです。
入団式の夜、俺は同期の連中と一緒に食堂にいた。
「新人同士、親睦を深めようぜ」なんて格好つけたが、本音を言えば、この同期たちの空気を確認しておきたかった。
だが、本音は学院在学中に魔法士になったリリーを見たいというか、話してみたい。多分、他の連中もそうだろうなと思って……気を使ったんだ。
リリー・ミシガン。
学院時代は、あの地獄の競技。馬の耐久競技で入賞して、翌日にも競技にでたりだの、密かに注目を集めていたが、妹のアナベルが悪口を言いまくっていたから、敬遠していたのだが、卒業式で在学中に魔法士になったと披露されて注目の的になったのだ。
卒業式に魔法士の部隊長や現役の魔法士が出席したのは前代未聞だった。
今の彼女は、魔法士部隊の制服に身を包み、誰よりも堂々と席に座っている。
「それで、リリー。魔法士部隊の飯をどう思う?」
俺が聞くと、彼女は運ばれてきた山盛りのローストビーフを前に、目を輝かせた。
「美味しいですわ。わたしは宿舎に入ってますから、みなさんより食堂に詳しいですけど、美味しいですよ。食事は大切です。特にここのソース、わたくし、ちょっとだけお願いして少し甘みを足していただいて、わたくし好みにしてもらったんです。お代わりができるんですよ」
「え、あ、ああ……そうらしいな」
答え終わる前に、彼女は迷いのない手つきで肉を口に運んだ。……おい、ロバート。お前の元婚約者、あんなに食うキャラだったか?
近くに座るロバートを見れば、彼は毒でも盛られたような顔で自分の皿を見つめている。
リリーはロバートの存在に気づいてもいないよう。それはそれで気の毒だ。
なんせ、学院の食堂で婚約者だった時の贈り物を、公開されてしまったからな。
恥以外のなにものでもない。ブラックレイク家にも打撃だったようだし。
「リリー、お前、訓練を見ていた時に『痛みを飛ばす』って言っただろう。あれ、さっき自分でも試してみたんだが」
俺が切り出すと、リリーは咀嚼を終えてから、真剣な目でこちらを見た。
「どうでした? フェルナンド」
「……不思議なんだが、確かに集中力が切れない。打ち込みの後に残る嫌な熱が、スッと引く感じがする」
周りの連中も、肉を喰らう手を止めて聞き入っている。
「でしょう? 慣れると多分、打たれる瞬間から手当できると思うんですよ。痛みは警告だけど、戦っている最中には邪魔なだけですもの。治療は後でわたしが……あ、いえ、治療師にやってもらえば」
さらりと言ったが、今、自分でと言いかけたな?
「お前さ、本当に『考えなし』だったのか?」
思わず口に出た問いに、彼女は今日一番の明るい笑顔を見せた。
「ええ、今でもそうですよ。私は、やりたいことしか考えられませんもの。今は空を飛ぶ方法と、美味しい夕飯のことだけで頭がいっぱいですわ」
そう言って、彼女は空になった皿を掲げ、通りかかった給仕に「お代わりを。ソース多めで!」と注文した。
騎士団の猛者たちが集まるこの食堂で、給仕にそんな元気よくお代わりを頼む女を、俺は初めて見た。
「……フェルナンド、彼女は変わったんだ。いや、俺たちが何も見ていなかっただけかもしれない」
ロバートが消え入るような声で呟いた。
確かにその通りだ。
去年の競技会、ロバートの剣が妙に冴えていた理由。彼女が乗っていた馬、あの馬はミシガンの跡取りが乗りつぶした馬だ。それが見事に復活した理由。
上位貴族は水面下で、諜報戦を繰り広げたが、魔法士部隊に持っていかれた。
目の前でローストビーフを品よく食べているこの少女が、そのすべての中心にいたのではないか。
「リリー。お前、魔法士は楽しそうだな」
俺が笑うと、彼女はにっこり笑って答えた。
「面白いのはこれからですよ、フェルナンド。みなさん、あなたたちを空へ飛ばしますから」
冗談に聞こえなかったのが、一番恐ろしい。
俺は自分のジョッキを掲げた。
「了解だ、魔法士リリー。その時は、一番乗りを譲ってくれよ」
「ええ、もちろん! 準備ができたら、真っ先にフェルナンド様……様を呼びに行きますわ」
なぜか最後の方で敬称が重なっていたが、彼女の目は本気だった。
この学年で一番の出世頭は、案外、騎士団長の息子である俺でも首席のギルでもなく、この「食いしん坊の魔法士」になるのかもしれない。
そんな予感を抱きながら、俺は冷えたエールを流し込んだ。
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