21 デザートはムース
ロバート様以外は、どうでもいいから、いや、ロバート様もどうでもいいか・・・いや、去年わたしがいけないことした人に・・・どうしようもないよね。忘れよう。会場の隅に移動しておしゃべりした。
「ねぇリリー怒らないでよ。リリー。ロバート様のこと。まだ好きだったりする?」とパトラが恐る恐る聞いてきた。
え?と驚いてすぐに返事が出来なかった。そのわたしを見て
「気を悪くしないでね。だけど・・・」とナタリーも心配そうな顔でわたしを見る。
「ううん、そんなことない。そりゃ、なんか思い出したらむかむかするのに、思い出してはむかむかして、馬鹿みたいだけど・・・全然好きじゃない。今になっては好きって思う気持ちも勘違いだったような気がするくらい。だけど気にしてたのは確か、それはね。失敗する所を見たかったから」
「そういうことか」
「確かに、あの負け方はないわね」
「そうでしょ?」
「でも、去年が異様だったのかも」
「まぁ剣術が上手いとか下手とかわからないけどね」
その後、わたしたちの話は卒業とその後に移った。
ナタリーは婚約者がいる。伯爵夫人になる。
パトラは隣国の子爵でこちらの国とあちらの国で手広く商売をしている人と予定があるらしい。
「ねぇ、気を悪くしないでね。いい人がいるの紹介したい」とナタリーが言うと
「わたしも」とパトラが言って二人は
「「リリーは美人だし、成績もいいし、魔法も・・・だから」」とわたしの顔を見た。わたしは笑って
「うんとね。まだ内緒だけど、当てがあるの。家族にも内緒だけど」と言うと
「リリーがそう言うならいいけど・・・」
「ほんとよ。実はお父様はリリーが気にいってるの」
「二人ともありがとう。出来るだけ早く二人には教える」
そう言ってポーチからペン軸を出して見せた。魔法士としてって意味だけど通じたかしら?
二人は無言で頷いた。
さて、楽しみにしていた夕食だ。誰もなにも言わないまま、食べ終わった。微妙に御馳走なのが笑いと寂しさを誘う。
多分、夕食に誘っていたんだよね。打たれても打たれても負けないロバート様を。今年も優勝するだろうって。
アナベルに会っても痛みは消えなかったよね。ロバート様。
お父様はわたしを気にかけているが、話しやすくしてやるつもりはない。
デザートはムースだ。大きなものを切り分けたものが出てきた。多分、食卓で切り分けるつもりだったのだろうな。華やかなお祝いの食卓を飾るムース!!
普段のムースは小さい入れ物に一人分ずつ固めてあるから・・・
ムースは好きなのだ。お代わりが欲しいくらいだ。いきなりの攻撃をしてみよう。
「ロバート様は怪我をしましたの?」と聞いた。
誰も答えない。
「失礼しました。婚約者でもないのに、立ち入ったことを。妹の婚約者ですので、心配でしたので」と言った。
「そうよ、お姉様。図々しいわ。ロバート様はわたしの婚約者ですわ」とアナベルは答えたが、終わりのほうは自信がなさそうになった。
「そうですね。大事なアナベルの婚約者ですね」と言うとお母様が反応した。
「それがね、リリーよく考えてみたの。あなたはロバート様が忘れられないでしょ」
「まさか、忘れま・・・せんが。名前も顔をよく覚えていますので。でもどうでもいい人ですよ。当たり前ですよ。そのーー弱いし」
「ひどいお姉様」「なんてことを言うの」とアナベルと母がかぶった。
「アナベルはロバート様が大事なんですよ」とお母様に向かって言った。
「婚約者とのお茶会を中断して密会するくらい、好きで大事なんです。弱くてもいいんです」
「それは・・・」と母が言いよどんだので
「先ほども自分の婚約者だと誇らしげに言っていました。弱くても、最初に負けても、ロバート様はアナベラの婚約者です」ときちんと言っておいた。将来性がないとわかった途端、押し付けられたら堪らない。
「それはそうとリリー」とお父様が話しかけてきた。あら勇気を出したの?黙ってお父様を見た。
誤字、脱字を教えていただきありがとうございます。
とても助かっております。
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